「成瀬は天下を取りにいく」宮島未奈(著)

 表紙カバーの女子が天下を取りに行く成瀬なのだろう。「笑う合戦屋」を想起させるたたずまい。その引き締まった表情は現代日本の女子高生というより風雲急を告げる戦場を眼下に見据え策を練る軍師に見える。外見が全てではないはずだが、明らかに只者ではない気を感じる。

 そんな成瀬の思春期を周囲の視点から、コロナ感染症流行下の世相を交えながら紡ぐ。成瀬自身の視点も最後に明かされる。

 人生の中年期にもなれば洞察力とでも言うべきか「こうすればこうなる」、「あの人はきっとこうなる」、「次の首相はおそらく〇〇である」みたいな見通しが利き、その全てが当たらずとも遠からず、時流や展開を(若い時より)読み解けるようになる。

 例えば、天下をとったなら次は天下を治めなければならない。その治世のためには優れた人材を登用しなければならない。果たして自分に、その領袖となるべき器はあるのかと考え始めれば、取れる天下も取れなくなる。

 世の中にはやってみなければわからないことも多々ある。そして人は誰も彼もが等しく価値を認めるものではなく、自分がこうしたいと思うことに突進していける時期がある。それが若さであり、成瀬の爽やかさだ。

 

 

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