16.「飛ぶ教室」エーリッヒ・ケストナー(著)

 1918年から1933年までドイツにはワイマール共和国が存在した。人々は自由の恩恵を享受し、憲法は高らかに人間の平等を謳った。世界史的にも冠たる黄金の20年代がベルリンの都にあった。また蓄財の才覚を持つユダヤ人が資本家として存在感を増した時代でもあった。一方、その光の陰に世の趨勢に翻弄される労働者や元軍人を産み出したともいえる。

 物語自体の起伏もさることながら、ナチス労働党の影が世間を覆い始めていた執筆当時(1933年)の時代背景を読み解くとき、主人公たちと同じ世代の現実世界の少年たちは20代をどう過ごしたのだろうかと沈思せざるを得ない。

 作品としてはクリスマスを目前に控えたドイツの寄宿学校で巻き起こる印象的な出来事を描いている。物語の最初は気だるさがあるが中盤からは目が離せなくなり、終盤はどうなることやらと手に汗を握りながら読み進めた。ささやかな感動を伴う読後感はよい。なお登場人物が多い訳ではないが聞き慣れない名前と個性を的確に結びつけることが難しく、繰り返し読むことで全体が映像的に掴めてくる。「正義さん」、「禁煙さん」の二人がとりわけ寛容さを備えた理想的な大人として描かれている。

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