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呪いの臭み 『毎週ショートショートnote』

「臭」

数ヶ月前、僕の鼻は匂いで感情を感じ取るようになった。
怒っている上司からは怒りの匂い、ニュースを見て泣いている母親からは悲しい匂い、共通の話題で盛り上がった同僚からは楽しい匂い、といったように本人から匂いが漏れ出て体を包み込んでいるような感じだ。

感情は様々なので匂いの種類も無限にある。生活していく中で少しずつ同じ匂いを感じ、その感情への理解度が深まっていく。
今では無愛想な後輩の感情も手に取るようにわかるし、佐藤さんが鈴木さんにひっそりと好意を寄せていることだってわかる。

僕はこの匂いがわかる現象に「臭」(しゅう)と名づけ楽しんでいた。なぜこの名前にしたかというと、人の感情は中々に臭いのである。
例えば嫉妬や憎しみ、苛立ちなどは言葉でうまく表現できない生臭さがあり、中でもダントツに臭いのは殺意である。

なぜ殺意の匂いがわかるのかというと、家族仲が異常に悪いからである。常に家の中は殺意の匂いが充満しており、喧嘩中はその匂いが増すのである。僕は日々その「呪いの臭み」に悩まされていて、最近はもうあまりの匂いに精神が病んでいた。

「、、、、、で、その匂いから解放されるために両親、妹、祖母を刺したと?」
「はい、僕が刺さなくともあの人達はいずれ殺し合っていました。」
「、あのね、そんな話誰が信じると思う?そもそもそれが実話であったとして、証明出来ないだろ。それに匂い耐えられなかったとして、人を刺して良い理由になるとでも思うか?」 

今僕は呪いの臭みの中に包まれている。

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