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満点な一日

以前、我が家の次女に障がいがある。
ということをお伝えしたのだが、
今回は、その頃、私が心掛けていたことについて少し聞いて頂きたい。

次女の病名がはっきりし、しばらくは
泣いて泣いて泣き続けていたが、

それではダメだ。

と思い直してからは、
私はできるだけ明るくいることを心掛けていた。

元気でいた子が突然
障がい児になったことに
周りの人たちの反応は様々で、
何があったのかを根掘り葉掘り
追及する人もいれば、
何も語らずとも、ただただ
涙を流す人もいた。

当初は少し引きこもってから
世間に再び登場したのだが、
「元気でいよう。明るくいよう。」と
心掛けるも、相当無理をしていた。

経緯を話せば泣いてしまうから
本当は何も話したくなかった。
普通を纏っていたかった。

私が明るくしていないと、次女は
不幸な子どもとして見られてしまうと思い
まずは、笑顔でいることを第一に考えた。

私が明るく、普通を心掛けることで、
改めて、今まで通りに声をかけてくる人が
戻ってきた。

「神様は、乗り越えられない試練は
与えないんだって。選ばれた人だよ」

と言った人がいた。

今ならなんとなく頷ける言葉だけど、
その頃は私も意識していないと簡単に崩れる精神状態だったから

「はぁ?そんなの選ばれたくないんですけど。他人事だと思ってよくそんな綺麗事が言えるよね。選ばれたって全然嬉しくない。」

と荒んだ心はすぐに私に戻ってきた。

大丈夫だと思っていたのに
まだ脆かった。

また、明るくしている私に

「ねぇ。ムリに笑ってるのイタイよ」

と言った人もいた。

無理するしかない。
無理して笑ってないと生きていけない。
無理してることに気付いても
黙って流されてよ。

明るくすること。
そうするしか無かったこと。
涙を見せないこと。

心の葛藤は、
夜、一人で入るお風呂の中、
シャワーの音でごまかしながら
大泣きすることで
バランスを取っていた。


次女は仕方なく保育園を退所したけれど、
長女は引き続き通園していたので、
園の行事には意を決して
バギーに乗せた次女も連れて行っていた。

興味本位で覗き込むような人もいたけど、
比較的、私に合わせて普通を気遣って下さる方が多かった。
先生方は戸惑うことなく今まで通りに話しかけてくれた。

出掛ける度に優しさと、苦い思いと両方味わってはいたけど、
徐々に私も家族も強くなっていた。


辛い気持ちにギュッとフタをして、
決して開けないよう、
いつも気をつけてはいたのだけど。


そうして、
4割程は意識せずとも明るさで過ごせるようになるまでに
それ程時間はかからなかったと思う。

私は、明るさと同時に
身なりにも気をつけていた。
華美ではなくとも、清潔感を大事にし、
また、堂々としていることも大事にした。
それは夫も、長女も長男も、
そして次女にも
…恐らく、それぞれが、様々な思いを
持ちながらだとは思うけど、
暗黙の了解のように、
自然に統一されていた。


「障がいがあることに
引け目を持つことなく」

逆に、

「障がいを持つ人を
大事にするのは当たり前」

というような思いは持たなかった。

ごく普通に、

困ったらお願いする。
親切にして頂いたらお礼をいう。

そういったこともきちんと
目を見てはっきりと伝えるようにした。


ある日、
ホームセンターへ買い物に行った時の事。

まだ小さかった長男が一生懸命、
次女の乗るバギーを押す。
しっかり者の長女が、
それをサポートしながら誘導する。

中睦まじく、姉弟3人で外の園芸コーナーを
歩いている。

…始めは中睦まじかった。

小さな弟のバギーの操作はおぼつかなく、
他のお客さんの迷惑になりかねない。
長女は気が気でなく、横から手を出し、
「私が替わる!」という。
弟はそれに納得できない。
バギーに乗った次女は、
取り合いの激しさから揺れに揺れて、
あからさまに迷惑そうな顔をしている。

よくある姉弟げんかが繰り広げられる。

私が仲裁に入り、泣き出した息子を抱き、
長女がバギーを押すことになった。

3人それぞれの主張を聞いたり、なだめたり、次女の顔色を伺ったりしているうちに
だんだんと笑顔も戻ってきた。

…やれやれ。

というところに、年配のご夫婦が
私達に声をかけてきた。

…ちょっと迷惑だったかな💦
と恐縮しつつも、顔をあげると、

ご夫婦はとても優しい顔で

「あのね、ごめんなさいね、
変な風に思わないでね。
…これ、受け取ってくれない?」と、
サラッとした手で、私の汗ばんだ手を取り、
包みを渡してきた。

「感謝」と書かれたポチ袋だった。

もちろんすんなり受け取れるわけもなく、
「いやいやいや…」
「いいの!いいの!」とありがちな
やりとりを何度かしたのだけど、

「あのね、、
見ていてとても楽しそうだったの。
お母さんも大変なことあると思うけど、
可愛い子たちね。
おばあちゃん、アイス買ってあげたくなっちゃって、
でも知らない人に急にアイス貰っても
気持ち悪いでしょう?ウフフ。」

と笑って言った。

「ほんとに少しなの。アイス買う分だけなの。子どもたちに。ね?」

おじいちゃんは黙ってにこにこ頷いていた。

もう、お断りする気持ちにはならなかった。

私は、ちょっと滲んできた涙を
それ以上流して、困らせてしまわないように
グッと堪えて、ありがたく受け取り、
子どもたちと一緒に
心からの笑顔で
「ありがとうございます」と元気よく言った。

気をつけて心掛けてきたことが
報われた思いだった。

気持ちの持ち方や振る舞いに
少しだけこだわりと勇気をプラスして、

どう行動していけば
自分の中の幸せを伝えることができるのか
少し分かってきた気がした。

ご夫婦が、声をかけてくれたことが
何より嬉しかった。

声をかけやすい雰囲気を
私達から感じてくれたのだとしたら
今の私達には満点だ。

そう思えた
忘れられない初めての出来事だった。




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