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市川雷蔵『眠狂四郎 無頼剣』(1966年公開)

市川雷蔵の狂四郎シリーズはほとんど見ている。

その中で、他と違う色を感じるのが、『無頼剣』。
敵役の愛染(あいぜん)を演じるのは、天知茂だ。

天知茂の芝居は、完成している。

視線の投げ方、抑制の効いた声の調子、雄弁な沈黙。
明かりに浮かぶ三白眼の迫力。

愛染を演じる天知茂の迫力

狂四郎シリーズは、美しく妖しい女性が出ることが多いのだが、この作品は、天知茂の苦みばしった男ぶり、渋い歌声など、いつもと少し違う層が喜びそうな要素が勝つ。

主君の復讐のために非情になる道を選ぶ愛染は、リーダーシップがあり、知略に長け、それでいて無垢な子供には情を持って接する。
しかも、愛染(天知茂)は、狂四郎と同じ円月殺法の使い手。

愛染の描かれ方は、深さも長さも、主役級の比重で、最後は黒の着流しの狂四郎と、白の死装束の愛染が、向かい合って円月殺法を構える。
天知茂は殺陣も素晴らしい。

愛染は、情と非情の間で狂四郎に斬られるわけだが、全体で見れば狂四郎の負けではないかと思えるところが面白い。
もちろん、シリーズの中だから、そう思えるというのはある。

天知茂と市川雷蔵は、どちらも1931年生まれ。

天知茂といえば、わたしは『江戸川乱歩の美女シリーズ』が好きだった。
彼の明智小五郎は1977年から1985年までだから、見ていたのは再放送だったのだろう。

ときに犯人よりも恐ろしい、突き刺さる眼光。
一方で、助手とやりとりするときの、ふっとした温かさ。
あの明智小五郎の基礎は、愛染を演じる時点で、もう完全に出来上がっていたのだと感じる。

感想が、眠狂四郎なのか天知茂なのか分からなくなってきた。

ともかく、『無頼剣』は、シリーズの他作品とはバランスが違うのだが、天知茂の強烈な存在感で、長く記憶に残る。

狂四郎の黒と、愛染の白


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