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【ネタバレあり】無職転生-異世界行ったら本気だす- 考察-10 「第16章 人神編」

 今回は主人公ルーデウスと龍神オルステッドの2度目の対戦にして、作中屈指の名場面になったと個人的に思っている泥沼vs龍神、狂剣王vs龍神を考察していきます。題名でネタバレは避けたいので中途半端な題名になっています。
 犯罪者予備軍と診断されてもおかしくない前世の男であったルーデウスが、自分の家族のために決死の覚悟を決め、乾坤一擲の大勝負に出ます。結果、善戦しますが奥の手である神刀を握ったオルステッドの前に、満身創痍に加え魔力枯渇となり、敗北します。余談ですが、神刀を持ったオルステッドは、王竜剣カジャクト・闘神鎧を装備した北神三世アレクサンダーと戦い、大きく魔力を消費しましたが戦闘自体は完全試合といえるような圧倒する戦力差でした。
 その後、ルーデウスを討ち取ろうとするオルステッドに狂剣王エリスがルーデウスの加勢に入ります。結果、エリスはオルステッドを撃退することができませんでしたが、オルステッドはルーデウスに対しヒトガミを裏切り仲間となるよう強迫します。このページでは、オルステッドがルーデウスに寝返りを呼び掛けるに至った背景を考察します。

オルステッド観点での整理

 ルーデウス目線、(今ループの)エリス目線は作中で余すことなく十分語られているので、オルステッド観点と、これまでのオルステッドの道のりを、作中で語られている限りを概観していく。
 オルステッドはこれまで100回以上ループを繰り返している。当初は身体能力も高くなく、よく死んでしまいループしていたようである。ループするごとに失敗を回避または乗り越え、試行錯誤の末にヒトガミ打倒まであと一歩というところまでに迫っていた。
 そして、ルーデウス編のループとなり、引き続きヒトガミ打倒への路線を敷き続けている最中、突如として転移災害が発生する。口ぶりからどうやら前回のループに発生した篠原秋人の召喚については知らなかったと思われる。転移災害の発生を初めて確認した事態であること、またこれまでのループで確認していないナナホシ、ルーデウスの存在、本来つるむはずのないルイジェルドとエリスが同行しているところに邂逅し、路線が狂いだしていることを認識しているが、変わらずこれまでの路線を敷き続ける。愚直であるかもしれないが、失敗しても次のループがあるという特殊な環境下であるからであろうか、考えるより行動の結果を観測するようにしている節がある。今ループでも間話「お仕事の一例」などが紹介され、将来ヒトガミ打倒への有効打となる布石の一手である模様。(メタ読み)
 オルステッドは、これまで数えきれないループを繰り返してヒトガミ打倒を目標に活動してきた。呪いにより他人と交流することもできず、悠久のループを孤独の中戦い続け、その果てに少ないながらも一人ずつ協力者を見出していった。何十、何百というループ、何千年という年数の間、特定の人物と交流し、対ヒトガミに効果的な人物をひいきにしている。特に思い入れのある人物もいるようでルイジェルド・スペルディアとノルン・グレイラットの娘のルイシェリア、ルーデウスのいない世界線で聖獣の使役者である「救世主」などがそれにあたる。ルイシェリアをこの世に生まれさせたいという、情以外の何物でもない理由がそれを物語っている。
 オルステッドはヒトガミの手先には容赦がないが、それも悠久のループを繰り返して機械的に処理しているからであろう。自身への協力者には、本来の性格が垣間見られ、特筆すべきは227話「恩のため」のゼニスの回想によく表れている。
 そして、ヒトガミ打倒のループを悠久の中で繰り返していた中、神子リリアがループを上書きしリリアが篠原秋人と共に生きたいと願った世界線を作り出す。この干渉により異分子であるナナホシとルーデウスは二人ともオルステッドの呪いが効かず、とくにオルステッドとナナホシは数年に及ぶ旅路を同行している。人族(と映る)で呪いに影響されない、恐らく初めてまともに意思疎通ができる相手であった。

オルステッドはヒトガミ打倒まであと一歩なのか?

 オルステッドは、ヒトガミ打倒まであと一歩だと言った。これはリリアが干渉していない世界線での感想である。では実際はどうであったか。
 オルステッドは、ヒトガミがいる無の世界にいく方法と、その触媒となる5つの秘宝の所在を突き止めている。4つまでは可能であると言い、狂龍王カオスの秘宝はルーデウスを軍門に下したときにすでに回収していること、将来秘宝を回収するためかペルギウスと深く関わろうとせずまたペルギウスもオルステッドを嫌っている。(オルステッドが意思疎通を図ろうともしないためであろうか)他2つは現時点で作品内の言及がない。またラプラスの秘宝の回収の仕方も知っているようであるから、無の世界への到達経験があってもおかしくない。
 そして無の世界への同行者がいたのか。呪いにより龍族以外からは恐怖され、その龍族も5人の龍王という実力者は秘宝を獲得するため倒さなければならなかった。また別世界線でのオルステッドが北神カールマン3世に対して行ったやり取りから、魔力をできる限り使わないようにして適当にあしらっていたため、恐怖の呪いに勝るような信頼関係を築けた人物が果たしてどれだけいたかである。
 オルステッドがループを開始してからはループ期限まで生存もまともにできなかったことを考えると、残りの段階は「ラスボスを倒すだけ」といえる状態で全体の段階を踏まえるとあと一歩といえる。しかしこの一歩にそびえる壁が、万全の態勢のオルステッド一人で打ち勝つことができる相手であるのかである。以前にオルステッドが無の世界へ到達したことがあると仮定した場合、そのときオルステッドは魔力残量など万全の態勢ではなかったと思われる。そして力尽きたときに徹底的に侮辱されたであろう。魔力量をできる限り残せるようなルートを模索している最中であろうと思われる。
 ルーデウス編の「最後の夢」では、オルステッド勢がヒトガミを大勢で寄ってたかってなぶりものにして、人間界に介入できないようバラバラに封印した夢を見たことが語られている。オルステッドとヒトガミの戦力差は不明。ヒトガミは六つの界の神の中では力は弱い方と思われる。根拠として初代龍神は四つの界の神と戦い満身創痍となり、あげくヒトガミに不意打ちを受け瀕死の中、宝珠で多少回復したとはいえ、ラプラスいわく三日三晩戦闘を続けたあげくヒトガミを無の世界に閉じ込めたのではないかと思われる。ヒトガミ側とすれば完勝せねばならなかった状態である。これもヒトガミの勝ったと思った油断からなのであろうか。それでもオルステッドは、ルーデウス・七星・篠原が介入しなければ、呪いにより仲間ができないか、魔力量が足りないかのいずれかの事態に陥り無限ループとなると思われる。

ルーデウスのいない世界線でのエリス

エリス・ボレアス・グレイラットは聖級に近い上級剣士でルーク・ノトス・グレイラットと婚姻していた(毎回ではないがアリエルは非常に強い運命にありオルステッドが介入しない基礎の世界線と、オルステッドが敷くルート上。)。王女アリエルの親衛をルークとともに務め、その勇猛さから赤獅子といわれた。ルークとエリスの間の子孫がどんな役割を果たしていたのかは不明。ただし老デウスの日記の中でルークがヒトガミの使徒と記され、今ループでもそこまで殺害することに躊躇しなかったことから、ルークとエリスの間の子孫はアスラ王国の存亡、ラプラス・ヒトガミ戦に有力な人材は出てきていなかったようだ。

(6/27追記)この戦後結果自体がターニングポイントではないか

 ここから下を書くのを忘れていました…
 原作者は、ルーデウスがオルステッドの配下になるシーンをターニングポイントにすべきか言及していました。(感想返しより)
 筆者の個人的見解では、この後の結果から、ターニングポイント1に次ぐターニングポイントではなかろうか、と思っています。というのも、これまでルーデウスは第16章に入るまで、少なくとも自分の中では「今度こそ本気で人生を全うする」という目的で生きてきました。そしてターニングポイント1の転移災害が発生します。転移災害は、およそ100年後に生まれる再生の神子リリアが、前回ループの際魔力を行使し異世界人を呼び出すイレギュラーを発生させた結果です。(参照)転移災害により、ルーデウスをはじめ各人物の生死、行動が一変します。またこの時からしばしばヒトガミの指図がありましたが、それでも16章以前は、なぜか夢に出てくるよくわからん胡散臭いヤツからの助言程度という認識で、聞く聞かないの自由はありました。それが、16章に入り、ルーデウス本人が明確に意識できるほど六面世界の歪みといえる争いに深く関与していく結果となりました。第17章からは、「主人公の人生完遂」から「世界変革に関与」することを主人公自身が確と認識して行動するという舵を切る節目となりました。
 ルーデウスも読者も、これまでヒトガミが何を考えているのか不明であり、胡散臭いヤツだけど敵なのか味方なのか、そのどちらでもない愉快犯なのかわからない状態でした。一つあるとすれば第12章ベガリット大陸編で、ルーデウスが遠征を逡巡し、もし行ってなければ「あれ、これロキシー死んでたんじゃね?」と勘繰れるくらいでした。それらしい言い訳をしていましたが、第16章でヒトガミの思惑が判明し、ロキシーを死亡させる目的が明確になってから聞くとかなり弱い言い訳であります。それでも目的がはっきりしていなかったベガリット大陸編ではパウロのこともありうやむやになりました。もし行っていなければロキシーは死に、捲し立てるルーデウスにヒトガミは嘲笑しながらネタ晴らししたのでしょうか。
 原作者は、この無職転生の物語を外伝と位置づけており、本編の構想のなか無職転生編を思いついたとしています。ルーデウスの目的はこの後も一貫して「人生完遂」であったでしょうが、無職転生の物語が、六面世界の物語に一変したように見られる、スケールが大きく広がる節目でした。
 私個人は、作中一番心が揺さぶられたのはこの章でした。

以上が「第16章 人神編」の考察でした。



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