24.04.12 春の夜

2024.04.12
好きな男と数ヶ月ぶりに飲みにいく。彼とは前に会った時にXのアカウントを交換していた。僕は彼のことを天真爛漫で、細かいことを気にしない、ぶっ飛んだ人間と認識していた。でも、Xでの彼は日々の生活におけるストレスをなかなかに汚い言葉で吐き出していて、普段の愛嬌のある姿とのギャップに驚いた。僕はもう彼に惚れていたので、そのギャップすらも可愛く思えたのだけど。

駅前で合流して店を探しながら並んで歩く。手頃な店を見つけ、二人でビールを注文し、飲みながら近況を報告し合った。彼は、どうしようもなく不満が溜まった時にだけ、その溢れる思いを吐き出すようにXを使っているという話をする。僕は、呟きを見ることは頭の中を覗くことだと思っていて、そこに人柄が表れてくることを期待していたが、断片的な呟きから見えるものには限りがあった。今、目の前に確かに存在し、笑顔で話す彼こそが本当だろと思う。

彼は発信をあまりしない一方、タイムラインはよく眺めているようで、僕がここ数ヶ月で呟いた内容に関連する話を積極的に振ってくれた。好きなアーティストの話。友だちの話。元彼の話。哲学の話。彼と初めて会った時、この人は相手にとても気を遣うタイプなのだろうという印象を抱いたことを思い出す。何度か会う中で、その印象は覆されていったのだが、彼が今日「人と会うと気を遣いすぎちゃうんだよね」と何の気なしに言ったのを聞いて、以前に僕が散々悩み抜いた挙句、彼に「明日暇?」という一文を送ったように、彼も今までずっと僕という人間がどんな人なのか想像し、彼なりに相応しいと考えるコミュニケーションを取ってきてくれたのだという気がした。

認識の解像度が上がると、コミュニケーションの方向性も変わっていく。彼との会話は今までのfunnyなものからinterestingな内容に緩やかに移行していった。選択される話題から、それは彼の意思によって行われている気がした。僕は、抽象的な事柄について議論が出来ることがすごく嬉しかったので、彼とはもっとふざけた話をしていたい、という気持ちを押し殺した。

店を梯子した帰り際、彼が終電を逃したというので家に誘ったのだが、フワッとかわされた。そのフワッとした感じが好きだなと思う。お互いに徒歩でも帰れる距離だったので、途中まで一緒に歩いたあと、じゃあねと言って別れた。しばらく歩くと、彼から「楽しかった!また飲みいこ!」とLINEが来ていた。その通知を見て、僕は惚れた相手である彼への想いを手放して、友達としての関係性を再構築することに決めた。

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