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戦い

黒光りする例のアイツこと"G"に遭遇してしまった。気持ち良くランニングを終え、コンビニで買った豆腐と烏龍茶を抱えて帰宅したら、マンションの自分の部屋の玄関の扉前で待機していた。最悪のタイミングだ。

自分のGとの戦いの歴史は長い。折角の機会なので特に印象的だった歴戦を記そうと思う。


・2008年夏
記憶に残る最も古い戦いは自分が13歳の時。家を改修し自分の部屋ができたことがきっかけになった。今までは、寝室にGが出た場合、それは家族で一致団結して解決すべき問題だった。だが、部屋が別れたことで、どんなに騒ぎ立てても、家族の誰もまともに取り合わなくなった。自力で解決するしかなくなったのだ。

そんな折、寝室にGが出た。自分は戦うことを拒み、部屋を明け渡した。ただし無策ではない。秘かにホイホイを配置したうえで無血開城した。数時間後、まんまとホイホイに吸い込まれた奴を恐る恐る処分し事なきを得た。

・2014年夏
時は流れ大学時代。その日はサークルの部室に友人がGのレプリカのおもちゃを持込み、こっそり机に置いて、気付いた人の反応を伺うという趣味の悪いドッキリを仕掛けていた。一通り遊んだあと、大袈裟な反応が面白かったのか、彼は僕のバッグの中にそのおもちゃを忍ばせた。

家に帰りバッグを開けるとGのレプリカが飛び出す。びっくりして大声を上げると同時に、偽物だということに気付く。だがその瞬間、飛び出してきたレプリカはカサカサと素早く動き回った。本物だった。あまりの衝撃に叫びながら逃げ出した。その後の詳細は覚えていない。ただ初手のインパクトがあまりにも大きかった。

後でバッグを見たらちゃんとレプリカのGも入っていた。偽物に釣られて紛れ込んだのか、偶然バッグに入ってしまったのか分からないが、次の日は友人に当たり散らかした。

・2020年秋
さらに時は流れ2020年。「今年の夏は部屋にGが出なかった」と喜んでいたのも束の間、秋口にキッチンに出現した。しかもこのGの一味違ったところは、部屋の明かりにも、立てる物音にも一切反応せず、ガス報知器の上に鎮座していることだった。

死んでいるのかと思ったが、壁を叩くと僅かに動くことが確認できる。事を荒げたくない性格が災いし、数日間放置して消えるのを待っていた。消えなかった。

帰宅すると決まってガス報知器の上にいるG。目に入らない振りをしてきたが、流石に耐えきれなくなりホイホイを買いに走った。Gが鎮座する報知器のすぐ下に御供物のようにホイホイを置く。ただ、何時間待っても動く気配がない。もう瀕死状態なのだろうか、ホイホイまでの距離を移動する気力すらないようだった。

このまま冷戦状態を続けるわけにもいかない。攻めの姿勢を取る事にした。しかし、焦った自分は、何を思ったかホイホイを逆開きにし、粘着部分でGを捉えるという戦法を取ったのだった。

粘着シートをGの体に当てる。すると奴が残り少ない力で動き出したのを感じた。これではいけないと粘着部分が触れる箇所を増やす。すると、気付いた時にはホイホイはGだけでなくガス報知器までも包み込み、一体化した。仕方なく丸ごと捨てた。Gは倒せたがガス報知器を失った。しかも報知器はリースだ。代償は大きかった。


Gとの戦いで学んだこと。それはなるべくことを荒立てず、罠をしかけてじっくりと待つことの重要さだ。ただ、時には待っていても解決しないこともある。そんな時はこちらから動くべきだが、ある程度の代償を覚悟しなければならない。

今日、絶望的な状況に追い込まれた自分はというと、まず人目につかない非常階段に移動し、Gの動きを伺うことにした。5分ほどして、マンションの廊下に戻ると扉の前に奴の姿がない。はす向かいの扉の前に移動していたのだ。九死に一勝を得た。やはりこんな時は経験がものを言う。

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