カービングスキーの論文(第3回)
スキーの基本動作とカービングターンに必要な運動要領の提案(Version 1.1, December 2024)
前回までの続きで、今回は 2.足圧中心とバランス軸 と 3. 『上下動』の基本動作 となります。是非お楽しみください。
2. 足圧中心とバランス軸
「スキーの基本姿勢」を取った時、足裏のどこに重さが乗るのか考察してみよう。
まずは関節を曲げず、両足を足の付根から鉛直に下した、直立した姿勢を取る(静止立位)。この時骨格を生かして最も体重を乗せられる足の重心位置(足圧中心)は、踝のやや前(踝の前方2cm)、踵と土踏まずの境付近にあることが知覚できる(Fig. 3-1)。
次に、足首・膝・股関節を適度に曲げスキーの基本姿勢を取ると、土踏まずの真ん中(足趾を除いた足裏の真ん中)辺りまで前方に移動する(Fig. 3-2)。この時、身体の重心位置が下がり安定感が増すと同時に、両足を捻ったり曲げたりといった運動がし易くなる。
スキーの前後方向のバランスでちょうど真ん中(いわゆるセンターポジション)とは、この土踏まずの真ん中辺りに足圧中心が位置する場所といえる。ピンポイントではなく、ある程度の幅、許容範囲を持っている。足裏全体からするとやや後ろ側に位置するので、一般にスキーを踏む適正な位置は真ん中よりやや踵寄りにあると言っていい。センターポジションでは踵から拇指球まで万遍なく足裏全体で体重を受け止めているのが体感できる。ターン前半拇指球に荷重するのが良いとする意見があるが、足圧中心が母指球近くまで前方に移動すると踵にかかる荷重が減ってしまい、スキーのエッジ後半部分が雪面をグリップし切れず横ずれ(スキッディング)してしまう。
詳細は後述するが、ターンの過程では前半から中盤にかけて足圧中心はこのセンターポジションを維持し、中盤から後半にかけてより踵側に移動する。このような足圧中心の前後方向の移動は、即ち、身体の重心が同程度、前後に移動することも意味するので、本稿では“支持基底面(両足の足圧中心)の重心”と“身体の重心”を結ぶバランス軸という概念を提唱し、身体や足圧中心の動き・バランスを一体的に説明することとしたい。
両足に囲まれた支持基底面の重心は、両足圧中心を結ぶ線分上で両足にかかる荷重割合と逆相関となる点に位置する(例えばFig.3)。両足に均等に体重が乗っている時は、無論同線分の中点に位置する。バランス軸はこの点と身体の重心の2点を通る軸と定義する。バランス軸は、平地に立っている時鉛直方向を向くし、斜面下方向を向いて直滑降の姿勢を取れば斜面に垂直な方向を向く。外足荷重のように片足で立つ場合、バランス軸はその足の足圧中心と身体の重心を通る。
このバランス軸をスキーヤーは、1)スキーの前後方向(長軸方向、ピッチ方向)には常に垂直に維持し、2)スキーの左右方向(短軸方向、ロール方向)には、ターン中遠心力が身体の重心に作用する時には身体を左右に傾けてこれに対応し、外力(身体が受ける全ての力の合力)と同じ方向に軸の向きを常時維持し続けなければならない。これは、所謂スキーを真上から踏むという姿勢である。そうすることによって効率的にスキーに力を伝達することが出来る上、ここで提唱する3つの能動的基本動作をいつでも自在に行うことが可能となる。
3. 『上下動』の基本動作
定義: 『上下動』は足首(足関節)・膝・股関節の同時曲げ伸ばしのこと。
『上下動』の動きそのものはスクワットの要領と基本的に同じである。
この動きの中で避けて通れないのが、スキーブーツの影響である。スキーブーツは滑走するスキーと身体の唯一の接点であり、運動(入力)の要であると同時に、身体バランスの維持を容易にする(補助する)機能をも有しており、それ故に足首の可動範囲が大きく制限されることになる。特に前後方向の可動域が狭いことに鑑みると 『上下動』は踵荷重のスクワットと同じ動きになることを強調しておきたい。たとえ足首の前後方向の動きが制限されているとしても、『上下動』中の足首はスキーブーツの可動範囲を超えて更に前方に押し曲げようと圧力をかけることでブーツを介してスキーを押す(抑える)力となる。これは外からは動きが見え難いが非常に重要な運動要素であることに留意したい。
一般的に踵荷重のスクワットで深く膝・股関節を曲げた姿勢を取ると、足圧中心位置はセンターポジションから踵(の後ろ)の方まで移動する(Fig. 4)。実際のスキーにおいても、カービングターンの後半には同程度に踵寄りに荷重することもあるし(スキーブーツ内での足首の前傾角度等により最適な足圧中心の位置は異なる)、コブや不整地での急な突き上げやショートターンでのエッジングによる雪面からの強い反発(衝撃)を膝・股関節を中心に大きく曲げながら吸収するといった瞬間的な動作等にもフルスクワットのような深い姿勢が表れる。このような時にスキーブーツ及びスキーのテール(の剛性)が身体のバランスの維持を容易にしており、踵の後ろまで足圧中心が移動してもバランス軸を垂直に保つ限り破綻を来さない。逆にこれを利すれば、足圧中心の前後の移動によりダイナミックなスキーを行うことが可能といえる。