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食べるということ-10

有名店舗がなくなる、というのを何度も見てきた。

店舗を閉鎖する理由はいろいろあるけれど、ある傾向が共通している気がする。

有名店の多くは地域に「密着」している場合が多い。客席数は30名〜40名と手頃な広さで、いつも賑わっている。そして特に昼間の賑わい時にいろんな人たちが来る。街中の店では女性客も男性客も同じく沢山いて、たまに地域に住んでいる家族連れも訪れる。

「地域に愛されている繁盛店」

それがどうして閉店に追い込まれるのか?

イタリアン、インド料理、日本料理、閉店していった店の共通点は「移転」。

大抵、移転するときに前よりも大きな店舗を街の中心に移そうとする。もちろん家賃も高くなるはずだし、もしも以前の店舗と同時に経営するならもう1店舗にも優秀なシェフが必要になる。生え抜きの育て上げたシェフに任せるのならまだしも、急遽店長候補を雇い入れて短期間に育てると上手くいかない。

小さな繁盛店や名店が大きくなるために新しい店舗を出すときに、コンサルティング会社なんかが入ってアドバイスすると、そこのお店がどうやって大きくなったのかを良く考えないで「良いとされる商圏」だけを探してきて、駅前の一等地の大型テナントなんかを勧めてきたりする。

小さな繁盛店・名店は、その周辺の商圏にマッチしていて、大きさもその商圏で最適な大きさだったりする。それが都心に出て大型化したときにその良さは永続できるんだろうか?

私の知っているお店は都心に大型店を出した途端に「ウェディング事業」を始めて、エントランスは海外から輸入した食材のマーケットになった。大人数の予約を優先して、少人数の予約客は閑散とした別室に通され、ほとんど接客はなくなってシェフの顔も見えなくなった。

小さな店でイキイキと働いていたスタッフはどこにいるのか分からず、厨房の賑やかな喧騒も聞こえなくなった。

その店は程なくして閉じてしまった。

「都心に出る」→「客が増える」→「儲けが出る」というのは幻想だと思う。

大きくなってもお客様とのコミュニケーションを失わない工夫が必要だし、それ以前に大きくする必要があるのか?をもっと考えるべきだろう。

小さな店が「繁盛店」になって「名店」と呼ばれるに至るまで10年近い年月が必要。

多くの店が開店してから3年程度で閉じてしまうのを堪えて、生き延びながら少しづつ改善して、3年に一度は改装をして、リピーターを増やしながらやがてお客様に愛されるようになる。

オーナーシェフはお客様から目を離さず、いつもその店の最高のサービスと料理を提供し続けることが出来れば、いつかその店は繁盛店になり名店となるんだろうな。

移転したり支店を出せるほどにお店が成長したら、少し周りを見回した方が良い。

お客様からそっぽを向かれないよう、もう一度考えてから踏み出せば、もしかすると二つ目の名店を作れるかもしれない。


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