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革のおはなし-16

革教室を始めたのはOLAに通いはじめてわずか10ヶ月後のことだった。

最初は「教室で教える」なんてとんでもない話だった。

まだ革や技術の知識なんて初心者レベルで、教えられることなんてわずかだった。

でも、デザイナーを辞めて、貯金を使い果たしていたから、とにかく何らかの方法で収入を得なくてはならなかった。

教室を始める少し前に革鞄関係の会社に面接に行ったことがある。でも最初から年齢で弾かれた。その時の年齢は45歳。ベテランならまだしも「初心者の45歳」は相手にもされなかった。これから10年修行すれば55歳。

ようやく役に立てる年齢になった時点で引退なんて、雇う側からすればナンセンスな話だろう。

ミシン教室に通いながら手縫いの勉強をしていたのがせめてもの救いだった。

もしもミシン教室を開講するならせめて3台は種類の違うミシンと沢山のオプションが必要。スキ機やその他の道具を揃えると100万円仕事。

でも、手縫いなら最低5~8万円ほどで道具が揃う。

あとはゆっくりと揃えてゆけば良い。

ただし、手縫い教室を開くには手縫い用のサンプルが必要になって、「道具が最低限」で出来る工夫が必要になる。

「初心者のレベルって何を基準に考えれば良いんだろう?」とまずはこれまでのプロの世界とは違う「アマチュアの世界」を知る必要があった。

アマチュアの場合「趣味で製作して」よりも「ネットで販売」の方が目的の人が多い。もちろん作品を見れば腕の差は様々。

私の教室は最初は「小物」のコインケースやカードケース、パスケースなどを中心に教えていた。

手縫いの道具の使い方、革の処理、縫い方などの基本を中心に教えていた。私自身は鞄をサンプルでいくつか縫い上げていたが、それを部屋に展示しているとやはりそれを縫ってみたいという生徒が現れるようになった。

最初の工房は自宅の端っこのわずか3畳ほどの和室。そこにみんな座り込んで縫っていた。最初の生徒数は3名。

最初、ブログを立ち上げたけれど、もちろん見にくる人はいない。小さなショップカードを作って知り合いの飲食店などに置いてもらった。それでも2ヶ月くらいは何の問い合わせもなく、Facebookに寄稿したりしながら貯金がなくなっていくのを心細く見ていた。ある日電話で問い合わせが来た。

とりあえず、見学に来ませんか?と投げかけると続けて5名ほどの見学者が来るようになった。小さな手縫い教室のスタートだった。

それまで学習したことを基礎に「革の種類・特徴」「道具の使い方」「型紙の作り方」「カリキュラムで作る作品のサンプル」「小さな体験教室」などの資料を作って見学に来られる方達に説明をした。

革縫いは縫う技術についてはどの生徒さんも面白いし集中できるけれども、型紙を作るのは苦手なようだ。多くの教室では型紙の作り方を教えることは少なくて、既存の型紙から縫製して簡易な仕上がりの鞄をミシン縫いで仕上げることが多い。

縫製工場で働いても型紙から作れる技術のある方は少なくていわゆる「サンプル師」と呼ばれる型紙の製作が出来る人は一握りしかいない。

革縫製の業界では「デザイナー」「サンプル師」「縫製係」などに分業されていて、デザイナーのわがままをサンプル師が形にして、それを縫製係が量産する。

私の教室では「型紙」から作る。生徒が最初は基本通りの外縫い、内縫いを既存の型紙で作ってみて、そこから自由製作に入るからオリジナルの型紙を作らなければならない。

ほとんどの生徒はこの型紙製作で3ヶ月以上の時間が必要になる。根負けして型紙を作る最中にやめてしまう生徒もおられる。

でも自由自在に型紙を作ることが出来れば、オリジナルのブランドだって立ち上げることが可能になる。

そしてオリジナルが出来上がった時の達成感は半端ない。

その達成感を感じて欲しいという思いと、自分でオリジナルを作る技術を身につけて欲しいという思いで教室をはじめた。

でもそれはこの教室が大きくなるのにとても時間がかかるという事でもある。

とにかく、こうして革縫い教室は少人数で自宅の片隅ではじまった。


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