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事業育成の実際17

●中期事業計画書

今、私たちは「中期事業計画書」の作成を始めています。
これまでも毎年「経営計画書」の立案を欠かさず行ってきました。
しかし、今回の「中期事業計画書」はかなり明確な目的を持って作っています。
会社を成長させるにあたって必要な金融機関からの融資を受けるために、今後の成長を含めて金融機関からの信用を得て融資を獲得するための「計画書」を作ろうとしています。
●私たちが企業として目標としていることと、その達成方法。
●目標を達成するのに必要な資本(借入)額。
●利益を出し、投資した資本(借入)を回収する具体的な方法。
●これまでの実績と今後の売上、経常利益の推移予測。
●現在の借入額と返済状況の確認。
●目標売上及び利益を達成できる裏付けとなる業務内容内訳。
●今後の業務推移に対応した資金繰り計画と事業費用途内訳表の作成。

今回の事業計画書の要点は次の三つになります。
①現状の経営状況の把握。
②経常利益額の把握と経常利益額を増やすための具体的手法と推移予測。
③融資の返済計画を可能にする経営体質の構築。

①は経営者として冷静に自社の実情の経営の弱点と強みを把握しているかの確認になります。また弱点に関してどのように改善するか?の方法に言及します。
②は現状の経常利益額を健全な状態にし安定した企業成長を実現するための方法を提示します。
③は企業成長を維持し、融資額の返済を可能にする安定した事業形態とそれを構築するための具体的な方法について提示します。

つまり①は現状を把握することで事業の問題を抽出すること
続く②はその問題点を解決するための方法とそれを実行した場合の効果
最後の③事業を成長させる仕組みと強い企業体づくり
これらを具体的な数字を交えながら実行できることを証明します。

金融機関は融資を行う際に、一般的には現在の実績のみを評価の対象とします。
その会社の将来性などに関しては確実な確証、つまり大手企業との契約の成立や画期的な技術の開発、大型マーケットのシェアを確実に獲得できる確証などがない限り、「将来の可能性」についての評価をほとんどしてもらえません。
口で「来年は売上が倍になるんです」とか「近々大手クライアントと契約が取れるんです」などのように確証がない将来の話は評価されないと考える方が良いでしょう。

地域企業に密着したローカル性の強い信用金庫などの金融機関は、長期にわたって伴走することでお互いの信頼性を確認し、常に情報を把握することによって信用度を増して融資を行う場合もあります。

●適正な債務

都市銀行などの大手では「融資」は業績を上げるための方法論であり、それは入稿したばかりの新人を「融資係」として配属することからもわかります。
新人「融資係」は必死になって自己評価を上げるために融資を勧めます。彼らの最初の実績は「融資」をどれだけの額達成したのかという数字になります。
ですから大手銀行ではかなり強引な「融資」も行います。
融資が出るまでの期間が短かったり、融資内容が行内で「稟議の通りやすい内容」に書き換えられたりということが頻繁に行われます。また融資額をできる限り「増額」させようと働きかけることも多いでしょう。
自分たちの事業にとって「適正な融資額」をきちんと把握をして不必要な負債を増やさないことが大切です。時に成長企業に対しては「融資額」の増額を勧めてきますが、債務額が増えすぎ景況感が冷え込んだ時に債務超過にならないように気をつけることが大切です。

良く「晴れた日に傘を差し出し、雨に日に傘を取り上げる」と言いますが、多かれ少なかれそういうことは起こりうると考えた方が良いでしょう。経営者は債務の適正額に関しては常に考えておくべきでしょう。
もちろん「企業を成長させる債務」もあり、債務が全て良くないということではありません。

●口頭での注意の喚起

大手都市銀などで担当者が約款を早口で説明して、面倒で聞き流してしまうという経験をしたことがないでしょうか?
小さな信用金庫で約款を説明しながら途中で「この部分に関しては〜という意味ですから注意してください」とか約款の内容に関連して「御社の場合は〜については注意深く敬意を見た方が良いと思います」などというように「契約」に関しては金融機関側にとってマイナス要因であっても、企業の業績や運営方法についての注意点などを言ってくれる担当者は良い担当者だと言えます。
「融資」という業務成績を上げたいだけの担当者と、担当企業の「成長」を考えてくれる担当者なら、「成長」を考えてくれる担当者の方がよりシビアに口うるさいことでも言ってくれるということです。

良く私も金融機関の担当者に対して「経営指導してくれる金融機関を尊重します」と言います。
金融機関にとって私たちは「お客様」ですが、単にお客様というだけでなく私たちの「成長」を望み、伴走してくれるパートナーであるという意識を持った金融機関が大切であると考えます。
単純に商品を売りつける金融機関は突然の不況時や企業側の経営不振に対しては「いかに債権を引き上げるか」を優先し、手のひらを返したように態度が変わります。

●金融機関よりも大切なパートナー

金融機関にとって私たちは融資先であると同時に大切な利益を落としてくれる顧客でもああります。
問題は資金をコントロールできる側が有利であるということです。
業績が伸び利益を生み出している間は私たち企業側が優位に立ち、業績が落ち込み資金が枯渇し始めると金融機関側が優位に立ちます。
それが「晴れた日に傘を差し出し、雨に日に傘を取り上げる」理由でもあります。
私たちが成長するために融資を繰り返し必要とするのは現在の社会構造では避けられない仕組みです。
その中で時に上から目線で迫ってくる金融機関と渡り合うには複数の優秀な財務パートナーが必要です。
複数と言ったのは財務において難敵は「金融機関」だけではないからです。もう一つの難敵は「国税」です。
我々の生活を豊かにするはずの税金は時に企業を倒産に追い込むことがあります。
品質の良い商品を適正に販売して売り上げを伸ばしたとしても、その利益のほとんどは国に持って行かれてしまいます。
税金で収めるよりも私たちの従業員に還元する方が企業にとっては良い効果があるでしょう。
事業を拡大し成長させるためには優秀な財務担当者を社内、社外の両方に持つべきでしょう。企業経営者が最初に注力するべきなのはその人材の確保になります。
正しく安定した事業そのものが破綻するのは財務に問題があるからでしょう。
経営者ももちろん財務を学習しなくてはなりませんが、経営者の能力だけでは事業を大きくは成長させられません。
経営者以上に能力を持った財務担当者がサポートしてくれる体制、組織づくりが不可欠なのです。

●新しい一歩に必要なリスクヘッジ

私は経営者としては大胆なタイプではなく、むしろいつも失敗するのではないかとビクビクしている小心者です。
でもそれが有利に働いている一面もあります。それが「リスクヘッジ」に対する意識の強さです。
どんな事業においても必ず「リスク」はつきものです。
「経営者は強いリーダーシップで牽引しなくてはならない」なんて言葉を良く聞きますが、そういう強引な経営者はできればお近づきにはなりたくありません。
そういう人や、その人が経営する会社には必ず大きなリスクが潜んでいるからです。突然会社が倒産したり、取引がある場合には売り上げを回収できない場合もあります。
私もかつてデザインの仕事をしている時にやたらと羽振りの良い、テレビCMまで打っている大きな企業の経営者から仕事を頼まれたことがありました。最初の仕事が終わっていない時に次から次へと仕事の話を持ちかけられました。
最初の仕事は無事に終えましたが、その請求をした直後にこの会社は「夜逃げ」を決行したのです。
電話で社長が居留守を使い出した頃からおかしいと思っていましたが、夜逃げ(ある日一等地にあった事務所がもぬけの殻になっていました)がわかってすぐに会社の素性を調べ、東京に系列の親会社があることを突き止め「内容証明」付きの請求書をその親会社に送りました。3ヶ月かかりましたが売り上げを回収することができました。
それ以来「おいしい話」には裏があるといつも慎重に対応する癖がつきました。
もちろん、事業を拡大するためには「リスク」を呑み込まなくてはならないこともあります。そういう時には「起こりうるリスク」を全て考えた上で、それらに対応できる手を全て打ってから取り掛かるようにしています。
多くの場合問題になるのは「リスクが見えていない」ことにあると考えています。

●事業計画書にはリスクへの対応を入れる

事業計画書は今はまだ実績のないことに対して今後の目標と予測できる実績を証明する作業になります。
その中で最も重要なのが起こりうるリスクの抽出と、もしもそのリスクが起こった時にどのように対応して切り抜けてゆくかを明記することです。
金融機関にとって一番問題になるのは融資が不良債権化して回収できなくなることです。
ですから企業が破綻せず事業を継続し、常に利益を生み出し続けることが重要になります。
思ったような大きな成長を実現しなくても「大きな失敗をしない」ことの方が重要であり、それなりの成長をすることで返済が滞りなく行われることの方が重要なのです。
もちろんリスク分を「担保」で補填しようとしますが、できれば担保を設定しないで済むならばそれに越したことはありません。
動く金額が徐々に大きくなってゆくのが「個人事業」との違いであり、この動きを企業側がコントロールすることが大切です。

●融資の中の融資

金融機関からの融資はできるだけ窓口を絞り込み一本化する方が管理がしやすいものですが、融資を受けて返済を行なっている最中にも売上は上下し、下がった場合に追加融資を受けなくてはならない場合があります。
例えば「アパレル業界」のように業績そのものに季節性がある場合、春夏物、秋冬物というように、そのシーズンに入る直前から売り上げが上がり始め、そのシーズンに入ってしまうと売上が下がる周期性があります。
さらに売上の落ちる夏には秋冬物の生産が佳境になり、同じく冬には春夏物の生産が佳境になります。資金的余裕のないシーズンに最も仕入れと経費が必要になります。
このように周期性のある事業の場合、期首に融資を受け、期末に返済を終わらせるような定期的な融資のリズムを作る方法があります。
ただしこれも、ある販売シーズンに暖冬や不確定要素で売上が振るわなくなるとその次のシーズンに焦付きを起こすことになります。
また、追加の融資に関しても返済窓口の統一などを考え先に受けた融資とこれから受ける融資を合算した「借換融資」にする方が良いかもしれません。
今後のことを考えるのであればやはり資金のストックで備えておく必要があるので「自転車操業」にならないように少しづつでもストックを作るべきでしょう。
私たちの事業にもある程度の周期性があります。
次回はこの周期性を緩和する方法について考えてみましょう。


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