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革のおはなし-8

その革卸会社は商店街からは離れた裏通りにあった。

師匠に紹介されて訪問したが、それまでの街で見かけた革卸の店よりも規模が大きくて4階建てのビルになっていた。でも入り口を見ると丸められた革が無造作に積み上げられていた。

入り口に入るとムッとした革の匂いが充満している。右手にガラス張りの事務所兼ショールームがあって加工された見本の財布や鞄、ベルト、靴などが棚に並んでいる。入り口正面の壁には革の見本帳が何十枚も張り出されていた。部屋は大きく二つに分かれていて、向かって左側の部屋には棚が天井に届くほどの高さまであって、びっしりと革が並べられていた。向かって右側には大きな機械が2〜3台見えていて、スタッフが革を広げてその機械に通していた。

後でわかったのは、その機会は大型の革を薄くするための機械でいわゆる「革割り」をする機械だった。「革割り」または「全漉き」ともいう。つまり厚い革をその機械を通すと間に刃物が入って革の上面(銀面と呼ぶ)と下面(床面と呼ぶ)に分断されて二枚に分かれて出てくる。言ってみれば巨大なピーラーのようなものと言えばわかるだろうか?

革を発注するとき厚さ3mm厚の革を購入して、実際に使う厚さが1.7mmだとすると銀面を1.7mmにして裁断すると1.3mmの床面が分かれて出てくるということになる。床面には様々な用途があるので革にもよるけれど「床面残しでお願いします」と発注すれば使用する銀面に加えて床面も同封してもらえる。もちろん価格は革を買った時と同じ価格のままで2枚。

ヌメ革の床面はある程度強度があり、床革だけで鞄を作る人もいるようだが、あまりオススメはしない。まず、床革は副産物であり本来は廃棄される部分。ということは元々は価格のつかない部分なので本来はとても安価なはず。でも床革だけを使った鞄を見ると驚くような価格だったりする。これはどういうこと?

また革質によるけれど(クロム革では床革を使うことはほとんどない)基本的には強度が弱く1mm程度の厚さなら両手で引っ張って破れる程度の強度しかない。床革そのものを使うのなら、強度を増すための加工は必要になる。

床革の用途としては、鞄の補強用の芯材として使うことがおすすめで、その他には何重にも積み重ねて接着し、厚い板や塊にして木のように扱い、削って立体的なペン立てやカップ状に加工すれば接着面が年輪のように現れて面白い加工物ができる。

さて、今回は銀面を使ってブリーフケースを作る。師匠から言われた革の厚さは1.7mm厚。2.5mm程度の本ヌメ革を購入した。この頃は革の価格の相場など分からないから、後で考えると「卸会社」で買ったにしては高価な買い物をしてしまっていた。かなり張りがある硬い革だった。オイル革という油脂を染み込ませた革は味わいがあるのだがとても重くなる。

鞄は日常普段使いで持つものだからあまり重い革は避けたかった。「この重さが良いんだよ」というのは男性だけである。基本女性が持つような袋物の鞄は一般的にクロム革を使うので、薄く軽いのが特徴になる。

手に入れたのはまさしく正統派のヌメ革。

この革がどんな鞄に生まれ変わるのだろう?

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