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事業育成の実際22

●現実との乖離


昨年末に「来年の夏前に景気が低迷する」と言ったことがあります。
実際、夏を迎え何が起こっているのでしょうか?
新型コロナウイルス感染症は第5種になり、海外からの渡航者はこぞって日本を目指しています。円安が拍車をかけて日本製の商品だけでなく不動産屋株を含めて「日本買い」が横行しています。
かつての中国人による「爆買い」が経済界にまで浸透してきています。
株価は跳ね上がりバブル景気以上の高値をつけています。
では私たちの生活はどうでしょうか?
大手企業ではようやく給与所得の上昇が始まりました。
この夏にはボーナスも支給されるでしょう。
しかし全体の90%以上を占める中小企業では原材料費が高騰し、人材確保が困難になり、給与を上げれば経営を圧迫し身動きが取れなくなっています。
金融商品は好景気を反映している一方で現実の経済では貧富差が激しく起こっています。このまま原材料費と人件費の増大が続けば多くの中小企業が倒産するかもしれません。
目に見えない経済と目に見える経済では大きな乖離が始まっているように感じます。私たちのようにリアルマーケットで商売をしている人間の目には、その乖離が誰よりも早く伝わってくるのです。

●何が起きているのか?

私たちは様々な場所にあるポップ・アップショップで出店をしています。
するとかつて5年ほど前、つまりコロナ禍以前では考えられなかったような現象が起きています。
それはマーケットの「都市空洞化」と「サテライト化」です。
私たちの事業も今後は「サテライト化を目指す」と言ってきましたが、社会の中でその現象は思っているよりも急速に進んでいます。
この「空洞化」はつまり人の「購買行動」が都市部では大幅に鈍るという意味です。それが現実として始まっていることを私たちは肌で感じています。
私たちが出店している「梅田」や「なんば」あるいは「三宮」などの大都市圏では急速に購買意欲を持ったユーザーが激減しています。
実際にユーザー数が減ったという意味ではなく大都市圏での「購買行動」が減ったというのが正しい言い方でしょう。
それを端的に表している事業体があります。
それは「イオンモール」をはじめとする「大型ショッピングモール」のテナントと各小規模市街地ごとに存在する「コンビニエンスストア」の小型スーパーマーケット化でしょう。
ショッピンモールは元々ベッドタウンと呼ばれる市街地から1時間以内の中規模市街地にあります。
その存在は都心部の百貨店などのブランド品や大型量販店、雑貨店などのあらゆるブランド商品を手に入れる場所でもありました。
しかし、近年、このショッピングモールで販売されている商品に変化が見られます。都心部の百貨店に行かなくては手に入らない高級ブランドは影を潜め、日常的に必要な暮らしで使われる商品群が多く見られるようになりました。
そのことを如実に表しているブランドがあります。
それは皆さんの身近にある「株式会社良品生活」の運営する「無印良品」です。
最近「無印良品」の出店の仕方が変化しているのにお気づきでしょうか?
「無印良品」もその商品の多くは生活必需品となっています。カインズに買収された東急ハンズもDIY向け商品ではなく生活雑貨の販売を主体としており。各企業ともに生活必需品の販売へと業態を転換しています。
これらの店舗は生活圏に近いベッドタウンや新興住宅地に品揃えの豊富な大型店舗の出店を大規模に進めています。
それは人々の生活がより生活圏に近い周辺で完結を始めている、ということを示しています。

一方、高級ブランド品の販売を行っている百貨店業界では客層が国内の富裕層からインバウンドの富裕層へと舵を切っています。
私たちのブランドの展開も岐路に立たされており、「より日常生活に近い商品群」と「海外ユーザに向けた高級ブランド」への二極化が進める必要があると言えます。海外証券の開拓は思っている以上に素早い対応が必要であり、商品の品質確立、ブランド感のあるパッケージングなどにも並行して取り組まなくてはなりません。

●変化に向けた準備

マーケットでの商品の販売は不確定要素が多く、しばらくは売上の上下動の激しい不安定な状況が続くものと考えています。
多くのマーケットではマーケットそのものの再開発が進んでいます。
これまでのマーケットがどのような形になるかはここ1~2年で全容を現すでしょう。しかし現在の再開発工事を見ていると、以前と変わらないハコモノのテナント型商業エリアの再開発に見えます。
以前の商業エリアを隣接する隣のエリアに移転しただけのようにも見えます。
しかし前述したように都市生活者の購買行動は変化しています。
次の世代の購買行動を考えると以前のような商業施設ではユーザー層を獲得できないのではないかと感じます。
新しいマーケットには何が必要なのでしょうか?
ヒントは「リアル体験型」「ファンコミュニティ型」「ユーザー参加型」などのキーワードが考えられます。
大資本を投入したイメージ戦略だけではユーザーを獲得するのは難しい時代になってきています。
私たちは、大都市圏ではなく遠隔市街地に注目をしています。
都市中心部に40分程度の通勤時間で移動できる新興住宅地。
前述したようにリモートによる業務が普及することによって都市圏近隣に住まわなくてはならない理由がなくなりました。
実際和歌山県の白浜市では大企業のサテライトオフィスがたくさん誘致され、首都圏からミーティングや研修のために多くの人が来訪しています。
今後の再開発によって都市中心部よりも遠隔地での都市機能の充実が進んでいくと考えられます。
勤務地と居住地の接近あるいは融合といった現象が起こるに違いありません。
その遠隔エリアでの生活の一部となれる店舗が今後業績を伸ばすことができるのではないでしょうか?

●暮らしの一部となるのは商品だけではない

生活必需品や食品はもちろん地域の暮らしの中で大きなファクターを占めていると考えますが、人々の「生活」の中にあるのは食品や消耗品だけではありません。
その中には「地域コミュニティー」が存在し、人々の交流やさまざまな活動、例えば「教育」や「余暇」「レクリエーション」「娯楽」「趣味」といった要素が存在しています。
それらの生活圏の要素を商品の販売方法や商品の性格に反映させる必要があるでしょう。例えばエリアの主要な購買層が30代前半の女性であったとしても、エリアの状況が一戸建ての住居群、マンション群、公団住宅群では生活者の暮らしぶりは変わってきます。一戸建て住宅には家族の中に小さいお子さんが居られる場合が多いでしょう。マンション群では独身女性が多いかも知れません。公団住宅には既婚の夫婦が多く住んでいるかも知れません。そしてそれぞれのユーザー層は違った購買行動をとっていることが考えられます。
「生活圏」での商品販売には「エリアマーケティング」の要素が色濃く表れます。
その地域のユーザーにとって主要な商品を販売していること。そのお店の地域での認知度が高いことが重要となります。
そして商品と生活に関連するコミュニティーが形成されることが息の長いユーザーからの支持を得られる要素となります。

●エリアマーケティングの問題点

エリアマーケティングで最も重要なことはユーザー層の世代交代です。
地域No. 1の地位を店舗やブランドが獲得したとしても、現在地域に住んでいるユーザー層もいずれは高齢化し、彼らの住んでいる街自体が老朽化して過疎化が始まります。
そうなれば商品を販売するためのターゲット層を変えるか、あるいは別のマーケットエリアに店舗を移転せざる負えなくなります。
現在30代半ばのユーザー層は10年後には40代半ばになります。
商品デザインをリニューアルし、商品の中身も変化させなければ商品のブランドそのものが陳腐化してしまいます。
次の世代のユーザーに焦点を定めたブランドそのものの変革が必要になるでしょう。そして最もコストのかかることは新しい世代のユーザー層が獲得できるマーケットエリアに販売拠点を移す必要があるということです。
かつてユニクロが駅近の小型店舗から始まり、その後ロードサイドの大型店舗に移り、そして現在はイオンなどの大型ショッピングモールに場所を移しているように、時代とともにメーンターゲットである顧客層の購買パターンは変化してゆきます。
現在は大型ショッピングモールに隣接させるか、あるいはショッピングモール内に大型のフロア店舗を開設する傾向が見えています。
ユニクロは海外の新世代に活路を見出していますが、無印良品は国内の新世代の暮らしへの密着度を重視しているように思えます。
私たちのような小さな事業体であってもこのユーザーの購買活動の変化に臨機応変に対応できなければたやすく廃業の憂き目に遭います。

●時代性と戦う二つの方法

時代の変化に対応するには二つの方法しかありません。
一つは時代を追いかけ、あるいは時代を見越して素早く事業を変化させること。
そしてもう一つは時代に左右されない強い地盤を築くこと。
PRの方法は紙の広告からインターネットへと変わり、TwitterからYouTubeへ、さらにTikTokへと急激に変化しています。今後はこれに人工知能によるピンポイントなユーザー訴求が加わるでしょう。
しかし一方でエルメス、マリメッコなどのヨーロッパや北欧のブランドは大きな変化をせず、品質を強化しブランドへの信頼度を強化することで生き残り続けています。前者は急激に大きく成長するスタートアップ企業がよく使う手法ですが、老舗企業や技術を持った中小企業は後者の方法で生き残ってゆきます。
大きく違うのはこの二つの手法では訴求する相手のユーザーの嗜好性がずいぶん違っているということです。
前者の手法に反応するユーザーは時代の変化に敏感であると同時に熱し易く冷め易い性質を持っています。比べて後者のユーザーは商品や企業、ブランドに対する「信頼性」を評価し、長期間にわたってブランドを下支えしてくれます。
急激に成長したいなら前者、息の長い成長を望むのなら後者の方法を選ぶのが良いかも知れません。

●混沌の時代

現在の企業の動きは迷走しているように思えます。
かつての手法がそのままでは通用しない時代が続いているからです。
大震災、コロナ感染症、地球温暖化、世界規模の紛争。
これまで考えられなかったような外部からの環境変化と、それを発端として国力を他者から奪おうという動きが目まぐるしく起こっています。
国も企業もどこにどれ程の投資をするべきか迷っているように見えます。
目の前に起こっていることに対応することで精一杯で、さらにその先に起こることを予測できなくなっているように思えます。
これまで長期にわたってストックしてきた資本を出してみたものの状況は改善せず、追加での投資を続けているうちにもうストックが底をついてきて、慌ててもう一度資本を回収しようとしている。そんなふうに見えます。
これが企業レベルにも国家レベルにも起きているように感じています。
このような混沌の時代はある一定の人々には「火事場泥棒」のようにチャンスとも言えますが、しかし、天変地異が起こって生き残るのに必要なのは「冷静さ」であり「適正な動き」「システムを正しく整える」ことであると考えます。
市場でもユーザーの動きが変わっていることに対応しきれていないように感じます。過去の売上やユーザーの動向に囚われていて、現在の動きに対応しきれていないように見えます。
大手の企業はいまだに大型開発を止めようとはしません。かつての高度成長期やバブル期に行ったような大型の投資を地域と新商品の開発に投下しています。
しかしその思惑とは裏腹に市場の動きはかつての時代とは違った動きを見せています。かつては大企業が自ら市場をコントロールし、金利を操作し、公共事業に投資し、新しいマーケットを生み出し資本を回収していましたが、現在は大企業の思惑とは関係なく海外からの巨大企業からの投資や無数の個人投資家の動きが活発で一つの国がコントロールできないほどに市場規模や影響を与える要因が拡大しています。私たちが向ける視線もこれまでとは違った視野に向ける必要があります。
もはや市場は国内の規模では支えきれず、国外に向け、さらに大きなマクロの視点だけではなく小さなコミュニティーに向けたミクロな視点を併せ持つ必要があります。なぜなら市場全体を動かしているのはもはや大企業ではなく膨大な数のユーザーだからです。
原点に立ち返り、ユーザーに対し何を働きかけ、ユーザーの共感をどのようにして手に入れるかが大企業の衰勢さえも左右する局面に思えます。日本のホスピタリティーが見直されているのもそのような背景からだと感じてます。

●時代の荒波に耐える体制を

しばらく景況感は激しく変化を続けると思われます。
企業の強さの根幹を支える財務の強化と、このような低迷期だからこそ長期にわたってユーザーの支持と信頼を得ることのできる強固なブランドと商品の開発を続ける必要があります。
ただし巨額の投資によってブランド開発をするのではなく、継続的に精度の高いブランド開発を進めなくてはなりません。投資が必要なのは景況感が落ち着いた時でしょう。その時期の多くのユーザーに認知してもらうための投資が必要になります。不況時にできることは限られています。
不況時には経営資本は枯渇しますが、この時期にでも少額の資本ストックは必要になります。
そのためには事業の中にある無駄を排除し、事業の効率化を図る必要があります。
ほとんどの企業では人員の不足で悩んでいるでしょう。それを解決するためには既存人員の能力をアップし生産性を引き上げる必要があります。余裕のある時期ならばオートメーション化やIT導入に向けての投資が可能でしょう。しかし多くの中小事業者はそんな余裕はないものです。人の動きの無駄とムラを是正してゆくのがまず第一歩となります。
補助金や助成金に頼る企業も多いと思いますが、それらの資金を現状の改善にのみ投下するのではなく、将来的に事業に広がりを持たせるための資本として投下することが重要になります。
例えば自社ブランドの国際商標の獲得に投下し、将来の海外での販路の獲得に備えることや、原価率を下げるための新しい材料の購入ルートを確保したり、ネット上での販売力を強化するために顧客のコミュニティーアプリの開発に投下するといった手法です。
投下した資本をすぐに消化してしまうのではなく、将来の売上拡大につながる投下の仕方をするということです。すぐには効果が表れなくても、将来の企業経営が強化される方向で動くことが重要です。


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