LLM留学:リーガルライティングの書き方(+Moot Courtの対応まで)


〜はじめに〜

米国LLMでのリーガルライティングは、具体的な法知識が身につきにくく、一方で膨大な時間を費やすため敬遠されがち?な印象です。思考を行ったり来たりしているうちに時間が溶けてしまうため、やっつけで終える人も多いかもしれません。ただ、多くの生の判例とにらめっこすることになるので、どのようにケースからエッセンスを取り出していくのかという訓練になるほか、実はMoot Court(模擬裁判)で求められる分析スキルと重複する部分も多いので、真摯にライティングに取り組むのは有益だと思われます。

各ロースクールで何が教えられているのかはよく存じ上げないものの、少なくとも私は以下のような観点を気にしながら取り組んだところ、LLMでライティング科目A+(FallとSpring)、Moot Court優勝という結果を納めることができました。突然始まった自分語り自慢で大変恐縮ですが(!)、なんらか皆様の参考になれば幸いです。

米国ローでのリーガルライティングとは

リーガルライティングでは、hypo(仮想事案)の複数の類似ケースから何がルールなのかを特定し、事案の当てはめを各要件毎に行います。具体的には、(1)指定されたフォーマットに則り、(2)アメリカ式の法的三段論法で、(3)hypoで原告・被告のどちらが勝つかを論ずることになります。(なお、thesisやjournal執筆も「リーガルライティング」と言えると思いますが、書いた経験がないので本稿では除外しています。)

(1)フォーマットについては、大まかに以下の二つの見方で分類できると思います。

(a)objective writingとpersuasive writing
前者は、新米弁護士が上司向けに、クライアントの案件が客観的に勝てそうか結果を予測するoffice memo。後者は、原告もしくは被告の弁護士として、裁判所が自分に有利な判決を出すよう説得するlegal briefが典型です。授業や教科書でフォーマットが提示されるはずなので、詳細はそちらに従います。

両者についての大きな違いは、前者は結果を客観的に予測する一方、後者は結論が最初に決まっている(クライアントの意向に沿った結論を導く)ということです。ただ、どちらのタイプであれ、根本で求められるスキルにあまり違いはなく、まずはobjective writingで書くならどうするかというアプローチを取るのが良いと考えます。なぜなら、legal briefを書く際の結論と違う部分があれば、すなわちその部分が自分の主張の弱点であり、その部分の反論を丁寧に論ずるか、もしくは意図的に矮小化するかという戦略を講ずることができるからです。

(b)open memoとclosed memo
前者では、hypoの解決の参考になる判例を、自分で探さねばなりません。一方、後者は教授から複数の判例(analogous cases)が割り当てられ、その中からルールを見つけて論じます。

ちなみに、各LLM生のリーガルライティングの授業がopen memoかclosedだったかTwitterでアンケートをとったところ(n=10)、open: closed: 両方やった=4:3:3となり、open memoを書くスクールはちょいちょいありそうです。open memoではWestLawやLexisを使ったリーガルリサーチの技術が別途必要になり、この記事では長くなりすぎるので省略しますが、10個ほどケースが見つかれば十分なのではないかと思います。

(2)アメリカ式法的三段論法については、後ほど5で詳述します。

なお、legal briefで書いた内容は、そっくりそのままmoot court(模擬裁判)に生かすことができます。moot courtの大抵のoral argumentでは時間制限があり、また、往々にして裁判官から途中で質問が入り時間を取られるので、legal briefのうち重要な部分を使って、場合によっては順番を変えたりして主張を構成することになります。

要約すれば、「office memo (objective writing)→legal brief (persuasive writing)→moot court (oral argument)」という流れになりますが、求められるスキル自体に大きな差はありません。

まずはゴールイメージが見えていた方がいいかと思いますので、ざっくり、このような成果物になるというのをお見せしておきます。英語のサンプルはどこかで見れると思うので、あえて日本語で書きます。


【Office Memo テンプレート例】

・表紙

・TABLE OF CONTENTS(目次)

・INTRODUCTION(導入)
本件は、原告が被告と〜〜の関係にあったが、被告は・・・したという事案である。ーー州法では・・・であり、また、・・法はーーーと規定しているが、本件は〜〜であるから、原告は敗訴(勝訴)するだろう。

・STATEMENT OF FACTS(事案概要)
原告はーー州で〜〜のビジネスを行っており、・・・。被告は原告とーーの関係にあり、△△のサービスを提供していたが、・・・・。○○年、原告は契約に基づき・・・・したが、被告は・・・・・。(原告は●●の訴えを提起した。)

・ARGUMENT(議論)
[Umbrella section:議論全体の見取り図]
ーー州法では、1である契約は無効とされている(citationをつける)。また、・・法により、2の状況において締結された契約は履行されない。(citation)この書面では、まず1について論じ、次に2について論じる。

Ⅰ [Point Heading:一文で書く] 本件契約はーー州法に基づき無効である(ではない)、なぜなら、・・1A1B1Cに関係するhypoの事実・・・。

[Umbrella section:ルール1]
ーー州法においては、1Aであり、1Bであり、1Cの契約は無効とされている。(citation)そこで、これらの各要素について検討する。なお、1Bは争いがない、なぜなら、・・・。(The element B is not the issue because…)

 A [Sub-Heading:一文で書く]1Aは満たされる、なぜなら・・・。
   CREAC(アメリカ式法的三段論法)による記述

(Bは省略)

 C [Sub-Heading] 1Cは満たされる、なぜなら・・・。
   CREAC(アメリカ式法的三段論法)による記述


Ⅱ [Point Heading]本件契約は・・法の元では履行を強制されない(・・法の適用はない)、なぜなら、ーー2A2Bに関係する事実ーーー。

[Umbrella section:ルール2]
2Aの状況において締結された契約は2Bを満たす人には履行されない(citation)。そこで、これらの各要素について検討する。

 A [Sub-Heading] 本件契約は2Aで締結された、なぜなら・・・。
   CREAC(アメリカ式法的三段論法)による記述

 B [Sub-Heading] 被告は2Bである、なぜなら・・・。
   CREAC(アメリカ式法的三段論法)による記述


・CONCLUSION(結論:INTRODUCTIONを膨らませた記述)

原告は敗訴(勝訴)するだろう。なぜなら、ーー州法では1Aであり、1Bであり、1Cの契約は無効とされているが、本契約は・・<hypoの事実>・・のため無効だ(無効ではではない)からである。また、・・法は2Aの状況において締結された契約は2Bを満たす人には履行されないと規定しているが、本件契約は〜〜<hypoの事実>〜〜であるから、被告には適用されない(される)。


このような成果物を作るにはどうすれば良いか、以下、ライティングに取り組む手順をまとめてみました。大体は以下の順番になると思いますが、自分の想定していた議論の流れが微妙だったということはよくあるので、前後しながらぐちゃぐちゃに進めていくというのが実際の進め方になります。

1 hypoの内容把握→STATEMENT OF FACTSを書く

何よりもまず、課題となっているhypoを把握する必要があります。私の場合、だらだら読んでも中身が頭に入ってこないので、STATEMENT OF FACTS(事案の要約)の部分を書きながら読み進めています。

この段階では、なんとなく自分が重要そうだなと感じた内容をまとめて、一つのストーリーとして要約が一貫しているというところまで持っていきます。実は、自分が切り捨てた些細な内容こそが重要(逆も然りで、重要そうなことが不要な内容だった)ということは往々にしてあるのですが、その場合は後ほど適宜修正していけば問題ありません。まずは全体をおおまかに整えることが重要です。

2 analogous casesの概要把握

事案の中身がなんとなく掴めたら、analogous casesの内容把握、分析に入ります。
ここでお伝えしたいのは、各ケースを全部英語のまま読まない方がいいということです。なぜなら、実際の判例にはhypoに関係しない事実や主張が多々含まれており、そのようなものまで一々検討していたら時間がいくらあっても足りないからです。

私のおすすめは、以下の読み方です。

A 各ケース冒頭のSynopsis(要約)を見る
B Factの部分を読み、hypoと似ていそうな部分をマーカーでチェック
C ケース全体をざっとGoogle翻訳にかける
D 先ほどBでチェックした箇所について論じていそうな部分を見つける
E 当該部分を読み、裁判所の使っているルールや重要そうな箇所にマーカーでチェック+その部分と結論をコピーしてWordファイルにまとめておく

これを全ケースについて行うだけでもかなりの時間を要しますが、この地道な作業が成果物のクオリティに大きく影響してきます。

3−1 基礎ルールの発見

前述2Eで作成したWordファイルを見ると、多少のパラフレーズはあれ、多くのケースに用いられている共通ルールがあるはずです。それが最も重要なルール(以下、「基礎ルール」)で、ライティングの大枠は基礎ルールの要件に基づいて構成することになります。基礎ルールは複数ある場合もあります。

次に、引用元の各ケースに戻り、そのルールが何個の要件に分けられて論じられているかを特定します。ケース内で要件ごとに具体的に数字が振ってあればそれを使いますが、そうでなければ、各ケース内での議論のされ方や文面上の区切りを見ながら、自分で判断することになります。当該ルールについて、Bar examの教材でどういう扱いがされているかを見るのも有益かと思いますが、州法の場合は若干スタンダードなものと違っていることもあるので、その点は注意を要します。

3−2 Case Comparison Chartの作成

これは必須ではないのですが、分析を見える化でき、また、実際にライティングをする際に思考をクリアにできるため、個人的にはおすすめしたい方法です。

具体的にはExcelを用いて、各行をケース名、Jurisdiction、Factや基礎ルールの要件ごとに、各列をケースごとに分け、それぞれの欄に記入していきます。自分の思考の整理用なので完璧を期す必要は全くなく、歯抜けでも適当でも構いません。以下は私が使っていた項目のフォーマットです。

・Case Name
・Jurisdiction
・Result(原告が勝ったか否か。legal briefでは自分に有利なケースを識別しやすくなる)
・Overview(ざっくりと、〜の職業の人が・・で揉めたケース、みたいな、内容を思い出せる簡素な記述)
・各要件毎の当てはめ
1ーA(当該要件がどのように論じられ、どんな結論だったか)
1ーB(同上)
1ーC (同上)
2ーA (同上)
2ーB (同上)
・その他メモ

4 ライティングの大枠作成

各フォーマットの詳細は教授の指定に従いますが、大まかには、以下の構成で原稿を作成していきます。

・表紙
・TABLE OF CONTENTS
・INTRODUCTION
・STATEMENT OF FACTS
・ARGUMENT
・CONCLUSION

この中では、ARGUMENTにおいて具体的な記述を行うことがメインの作業になり、INTRODUCTIONとCONCLUSIONは全体の流れのまとめになります。以下、ARGUMENTの書き方を中心に紹介します。

まず、ARGUMENTでは読み手に要旨がすぐに伝わるよう、冒頭にPoint-Headingという見出しの文章をつけます。基礎ルールが複数ある場合は、Point-Headingを分けて書きます。Point-Headingでは結論、ルール(の内容)、事実に裏付けされた理由が簡潔に一つの文章にまとまっていることが理想的で、教授の言を借りれば、「移動中のエレベーターで一瞬しか相手に話せない状況だとして、何を話すか考えればたどり着く」性質の文です。ただし、あくまで各セクションのまとめに過ぎないので、最初は考え過ぎず、形式的に書いておけばいいと思います。

次に、ARGUMENTの開始直後、もしくは各Point-Headingの直後に、Umbrella Sectionを入れるか検討します。これは全体の議論をどう進めていくのかを読み手に案内する導入部分で、私は基礎ルール自体をここで説明してしまい、各要件をこれから論ずる、と書くことにしています。

こうして枠組みを整えたのち、基礎ルールの各要件を検討していくことになります。ここでも分かりやすさの観点から、Sub-HeadingというPoint-Headingの簡素版のような文を冒頭に書きます。なお、このSub-Headingは複数あるかと思いますが、基礎ルールの流れに沿って逐一検討していく流れが、読み手にとっては分かりやすく親切です。

5 各Sub-Heading以下の詳細を書く(CREACの活用)

ここまで来るだけでも長いように思われますが、実は、ここからが一番大切な論述の部分になります。

ライティングにあたって、米国法学習者にとっては、IRACという言葉がかなり有名なのではないかと思います。IRACでは、Issue(問題提起)、Rule(規範定立、説明)、Application(当てはめ)、Conclusion(説明)という流れになり、試験も大抵はこの枠組で書くことになるのですが、実はリーガルライティングではもう少しひねった、CREACという書き方が良いとされているようです。

CREACは、大体はIRACと同じなのですが、最初に結論を持ってくること、ルールの説明をかなり丁寧にすることに違いがあります。

Conclusion(結論)
Rule(規範定立)
Rule Explanation(規範説明)
Application(当てはめ)
Conclusion(結論繰り返し)

最初にConslusionを持ってくるのは、多忙な弁護士の上司や裁判官がざっと見で結論が分かるようにするという配慮が根底にあるそうです。また、Rule Explanation(規範説明)の部分では、analogous casesで当該Ruleがどのように論じられていたのかということを、各ケースの概要、裁判所の当てはめ、結論を紹介することになります。(かなり簡素なCase Briefを書いているくらいの勢いです。)なぜREをここまで丁寧にするのかというと、次のApplicationにおいて実際のケースと比較しながら論ずることで、より客観的・説得的な文章になるからです。

例として、以下のような書き方がスタンダードになります。(スミカッコは文の役割を示すため、注として入れてあります。)

----------------

Subheading:原告は、・・・・のため、本件契約は1Aである。

 【C】本件契約は、1Aであると考えられるだろう。【R】契約が・・・を規定している場合、その契約は1Aであると見なされる。Tom v. Eric Corp.(Citation)【E】Tomケースにおいては、原告が〜〜〜という状況において、被告と・・の契約を締結したが、・・・が問題となった。ーー州最高裁は、当該契約は・・・のため、当該契約は無効であると判示した。(Optional:一方、Adam v. Smithでは、・・・繰り返し・・・)

 【A】ここで、(Here,)本件原告はーーーー。Tom判決のように/とは違って、 (like Tom/contrary to Tom,)原告は〜〜〜を行っており、この点は・・・と判断される可能性がある。

(Counterargument:被告は・・・と論ずるかもしれないが、この議論は見込みがない。なぜなら、・・・(クリエイティブに論じても良いが、REとの比較で論じるのがベター))

 【C】よって、裁判所は本件契約を1Aであると判示するだろう。

----------------

ここで強調してもし足りないのは、上記のRule(どうすれば個別の要件成立がそれぞれ認められるのか)が明確に書かれていることはそれほど多くない、ということです。その場合は、関係する各ケースのReasoningを比較検討し、自らルールを抽出する必要があります。(これをCase Synthesisと言います。)

例えば、前従業員が同業他社に転職する場合の競業禁止規約の有効性を判断する要件に、従業員が被るundue hardshipがあったとして、何がundueなのかというのは判然とせず、各ケースを見るほかにありません。前従業員の10マイル以内の同業他社転職の禁止規定は認められるが15マイルはダメ、全業種禁止は無効だが一部の特定業種に限れば認められる等の判例があれば、そうした判例から、「ーー州法においては、競業禁止規約は、(a)15マイルを超える範囲、または(b)エリア内の全業種を制限する場合には無効である」ないしは「ーー州法においては、競業禁止規約は、(a)10マイル以内の範囲、かつ(b)一部の直接競合する業種に限る場合には有効である」といったRuleを抽出します。

また、Counterargument をApplicationの末尾に入れることで、より説得力が増し、評価が高くなります。如才なきことながら、counterargumentにはさらに反論し、自分のapplicationの正当性をサポートできるように書きます。

applicationを考える際、同じ事実でありながら捉え方次第で結論が異なるような、判断の微妙な部分が出てくる場合があるかと思います。その場合は一旦保留のうえ、ライティング全体としての結論を出してみて、後でそれに沿うようなラインの観点からの議論をapplication本体、反対の観点をcounterargumentとして書くと整合的になります。それがObjectiveかと言われるとかなり微妙なものの、そうした方が読みやすくなるのは確かです。

これらの論述パターンを、各要件ごとに埋めていきます。

6 CONCLUSIONを書く

全体を埋めたところで、一度頭からARGUMENTを読んでみて、明らかにおかしいところがないか確認します。概して問題なければ、CONCLUSIONを書きます。

CONCLUSIONは、全体としての結論(クライアント(原告・被告)が勝訴か敗訴か)と、各Point-Headingを適宜パラフレーズして書けば埋まるはずです。

(以下、Office Memoの場合は、9まで飛んでください。)

7 Persuasive Writingを書く際に変更が必要な箇所の特定

objective writingと自分の取るべき結論が違う場合は、各Sub-Headingの内容を必要に応じて書き換えていきます。

おそらくですが、全ての要件に関する議論が自分に不利な状況になっているということはなく、大分すると以下のようになっているはずです。

a. 自分側に明らかに有利な要件(=書き換える必要なし)
b. 微妙な部分はあるが、自分側に有利そつな要件(=書き換える必要なし)
c. 微妙な部分はあるが、相手側に有利そうな要件(=最も力量が必要な部分)
d. 相手側に明らかに有利な要件

このうち、dについては字数を割いても自分に良いことはあまりないので、”Element 1A is not the issue because…”とUmbrella Sectionで済ませてしまうのも賢いやり方です。

8 自分に不利な要件のSub-Heading以下の内容書き換え

自分側に不利な内容の議論であっても、まるごと削除するのは厳禁です。なぜなら、読み手が通常感じるであろうことが論じられていないと、それだけで書かれた内容への信頼性が損なわれてしまうからです。

やるべきは、Applicationで論じたobjective な分析をそのままCounterargumentに位置付け、さらにどう反論するかを検討することです。

Counterargumentには、2通りの対処方法があるように思います。
一つは、analogous casesとhypoのどこがdistinguishableなのかを強調し、その部分が要件成立の肝なのだと説明することです。もしくは、その部分に相手側の関与ないしは過失を強調できるように論じます。
別の切り口は、analogous cases内のdissenting opinionを引用することです。ただしこの場合であっても、なぜdissenting opinionが本件には元ケースより当てはまるのか、過去のケースとhypoを比較・差異を強調しながら論ずる必要があります。(だからこそ、REでしっかり事実関係まで書いておく必要があるのです。)

このような作業を地道にこなしていき、全てのSub-Headingが自分に有利なトーンになっているというところまで持っていきます。

9 STATEMENT OF FACTSのチェック

リーガルライティングは一つの書類の中で事実関係→議論が完結している必要があるので、ARGUMENTで論じたhypoの事実については、漏れなくSTATEMENT OF FACTSに盛り込むようにします。ARGUMENTで論じた以外のFACTも前後関係のつながりがわかる程度には入れるべきですが、明らかに不要な記述はこの段階で落とした方が、字数削減のためにもベターです。

また、リーガルライティングでは客観的な表現がどの形式でも好まれるため、主観的な評価のニュアンスが含まれる単語は極力排除し、事実ベースで書ける表現にパラフレーズしてください。(例えば、fast, brutally, rudeなどはダメ。ただし、angry等の感情の状態は、それ自体を事実として記述しうる。)

10 INTRODUCTIONを書く

フォーマットによって定型文があったりすると思いますが、それらにSTATEMENT OF FACTS、CONCLUSIONをさらに端的に簡素化したものを盛り込みます。

11 全体調整・仕上げ

・Point-Heading、Sub-Headingの修正
今一度、各Point-Heading、Sub-Headingが意味の通る文章になっているか、結論・ルール・関連事実を含んでいるかを確認します。いい方法としては、これらを全てコピーしてTABLE OF CONTENTS(目次)を作り、一見してARGUMENTの流れが分かるかチェックするのがおすすめです。

・各要件を論述する順番の検討
例えば、ルールの各要件の中には、threshold issue(ある要件が成立しないと、そもそも他の要件を考慮することが困難なもの)があることがあります。すると、まずはこの要件から論ずる方が分かりやすいということになります。各要件を論述する順番を、スタンダードなルールの書き方から変える場合に、Umbrella Sectionに明示しておいた方が、自分の意図を伝えることができ分かりやすいと思います。

Umbrella section の書き方の例:
ーー州法においては、1Aであり、1Bであり、1Cの契約は無効とされている(citation)。ここで、まずは1Bについて論じ、次に1Bによって1A、1Cが生じたかについて検討する。

なお、教授からは、自分が強調したい内容、有利なポイントを先に論じるやり方もあると紹介されましたが、読み手側に混乱を招くような気がして、また、Umbrella Sectionが言い訳がましくなるので、私は特段しませんでした。

・Blue Booking
判例や制定法を使い議論を支えるのは必須ですが、その際にはBlue Bookingといい、Citationを正式なルールに則って書く必要があります。教授によって求められる厳格さに差があったりするので、課題を進める前に聞いておく方が無難です。

・Analogous casesのJurisdiction確認
大抵は書き始める前に一定程度hypoに関係するJurisdictionのケースが準備されているため大きな問題は生じませんが、厳密にはbinding authorityかpersuasive authorityかという区別があるため、binding authorityのケースが優先して使われる構成に書き直します。(例えば、同じルールを複数のケースで説明する際には、binding, persuasiveのケースの順番で書く等)

余談ですが、ある要件の説明に使えるケースがPersuasive authority しか見つからず、散々書き方を悩んだうえ教授に相談したら「別に区別しないで書いていいよ(そんなことで悩んでたの?)」という反応をもらったことがありました。結局bindingかpersuasiveかはcitationから分かりますし、あまり厳密に書き分ける必要はないのかもしれません。

・Modal(助動詞)の活用
教授曰く、法には常に曖昧さがつきまとうため、断言的な文調は好まれない傾向にあります。ですので、would, could, may, might等を形式的にでも用いて、表現をふんわりさせておくと良いです。

・文章のスムーズな流れ
個人的あるあるなのですが、英語を書く際、主語を人にするか名詞にするか、能動態にするか受動態にするか、副詞節を前に持ってくるか否か、というのでいつも悩んでしまいます。一般的にはWordinessや受動態の多用は避けるというルールはありそうですが、やりすぎてぎこちない文になってしまうと感じることもあり、また、必ずしもそうなってないネイティブの文章を読むこともあります。

おすすめのシンプルな解決法は、old→newを一文ごとに意識して書くことです。文の前半は前の文で触れたことを受けており、後半に新しいことを言っているという構成です。これを教授に教えてもらってから、スラスラ文章が書けることが増えました。悩むまでもなく文頭に来るワードないし情報が決まるので、あとはそれに合う構文を選ぶだけということです。

12 Moot Court (Oral Argument)への対応方法

最後に、Moot Courtに出る人、とりわけ非ネイティブで英語が苦手な人に向けて、Oral Argumentの対処法を紹介します。

私の出たMoot Courtは、原告・被告のどちらかの立場が教授から割り当てられ、12分で口頭弁論を行うという短い(?)ものでした。事実については裁判官はすでに知っているという前提で、制限時間内に原告or被告が正しいのだと、裁判官からの突発的な質問に答えながら説得する必要があります。裁判官役としては、教授や州裁判所の裁判官、弁護士さんが協力してくださっていました。

話す内容はlegal briefと変わりませんが、とにかく時間制限が厳しくどう端的に説明するか、とっさの質問に答えるにはどうするかというのが問題になってきます。
出たとこ勝負な面はありつつ、以下の準備・マインドが自分には効果的だったので紹介します。

・人前で話すという基本に立ち返る
模擬裁判は結局プレゼンなので、アワアワしない、堂々と自信満々にやり切れるのが最低ラインです。私がとにかく強調したいのは、英語が苦手なら尚更、「とにかく大きい声で」「はっきりとゆっくりと」「オーバーなくらい胸を張って、ときたま身振り手振りも交えながら」「相手の目を凝視するレベルで見ながら話す」という当たり前の徹底しか勝ち目はないということです。英語では勝てないのだから、人としてのやばさ、圧で相手を上回るしかありません。練習の段階で、目の前に裁判官がいる想定で、ひたすら良いドヤ顔をどう作るか検討を重ねました。(もはや錯乱)

外国語でプレゼンするというのは相当ストレスフルで、日本人に限らず、どの国の留学生も頭が真っ白になりグダグダになっているのを多く目にします。だからこそ、こいつやばいな、振り切れてるな、と思ってもらえるのが重要です。

・スピーチ原稿の作成と丸暗記
1分あたり何単語話せるかは個人差があると思いますが、私は留学経験ゼロ、仕事でも殆ど英語を使わないというドメドメ人間であり、加えて軽い吃音があるというのもあり、110単語を目安にしました。また、1/3が質疑応答になると予測し、8分×110単語→ちょっと減らして850語を目安にしました。850単語なんて覚えきれないのでは?と感じるかもしれませんが、考えて書いたlegal briefに基づいた原稿は意外とすんなり頭に入ります。

口頭弁論には入りと締め等に独特の言い回しがあるので、原稿にも入れておきます。具体的には教授に聞くと良いですが、以下を紹介しておきます。

入り
Your honor, may it please the court. My name is xxx xxxx, and I represent Plaintiff. Today, I am gonna prove that …

締め
In conclusion, …議論の要約… We respectfully request that this court affirm the decision in favor of Plaintiff. Thank you for all your attention.

初稿ができたら、口に出して読んでみます。すると、おそらく不自然に感じる部分がたくさん出てくるはずなので、その部分を逐一言いやすいように修正していきます。ある程度できあがれば、あとはそれを丸暗記するだけです。

・想定問答集の作成
主要部分をLegal Briefから抜き出してスピーチ原稿を作成したら、legal briefのうち使わなかった部分から想定問答集を作成します。各要件ごとに目立つ議論をそれぞれ解答として3〜4文でまとめ、その解答が発動するであろう問立てを考えます。つまり、問立てから解答を考えるのではなく、解答から問を考える逆のアプローチで、切り口によっては複数の問立てが一つの解答に収斂することもあります。

また、念のため、自分が超絶いじわるで悪意のある人間になったとしたら、何を聞いてくるだろうかという観点の問を2問ほど入れておきます。

ここでの想定問答集の答えは、丸暗記はせずとも、一通りは言えるように練習してください。また、当日の裁判官からの質問に対しては、100パーセント答えきれる内容でなかったとしても、かする想定があればそれを言ってジャブを打ってください。正確に回答しようとその場で悩んで、結果アワアワして良くない印象を与えるくらいなら、30%でもスムーズに答えて、二の矢に備えましょう。初手で満足してくれれば御の字です。

なお、質問に答える際には一言クッションを入れ、Your honor, thank you for your confirmation…などと言いながら、準備していた文章を頭で整えます。

・スピーチの練習
あとはひたすら丸暗記した原稿を空で言えるように練習するのみです。意外と5回もやればいい感じになってきます。

ある程度仕上がってきたら、次に、想定問答集と自分のスピーチ原稿を照らし合わせ、教授がいつどの問を聞いてくるかというタイミングについても想定を行います。原稿にマーカーでチェックを入れ、ここでこの問を聞かれたらどう答えるか、というのを踏まえて練習します。こうすることで、質問で遮られたとしても自分の思考の枠組みを崩さず、元のコースに戻ることが可能になります。
少し高等テクニックかもしれませんが、あえてスピーチで不明瞭な部分を作っておいて、質問のタイミングを誘導し自分の土俵に乗せるというトラップも可能なら入れ込みます。

上記の準備で臨んだところ、大体は自分の想定ラインの問が飛んできたため、ほぼほぼ頭にある原稿を読むという対応で終えることができました。

〜おわりに〜

ダラダラと書いてしまい、なのに抽象的という酷い仕上がりになってしまった気しかせず、長文申し訳ありませんでした。
皆さんが授業で指定された教科書を読んでみて、それでもピンとこなかったときに、少しでもお役に立てれば幸いです。

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