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春巻きのお手前

隣町の友人宅の「換気扇バー」に招かれた。家族や恋人など親密な相手以外では、私が初めての客とのことで、とても光栄なことだ。

彼女が換気扇バーと呼んでいるのは、通路状の空間にあるI型キッチンのコンロの前に、小さなテーブル、両脇に椅子を置いたスペースのこと。冷蔵庫で白ワインは冷やせるし、揚げたてのおつまみは食べられるし、パンやチーズの追加もすぐできるし、すべてがその場所で完結して、会話が途切れないのが、とてもいい。ターコイズブルーの壁紙に、白地にオレンジが入ったタイル柄の床、暗い赤のシステムキッチン、シルバーの冷蔵庫に、白いワンピースの彼女、と空間も美しい。

私は誰かが料理をするのを見るのがとても好きなのだけれど、彼女が目の前で春巻きを巻く手つきが本当に美しくて、うっとりした。春巻きの皮を2枚並べて、まずは青紫蘇とチーズをトン、トンと、そしてチャーシューともやしを乗せていく。キュッ、パタッ、クルッ、ペタッ、クルッが2回続いて、小さな揚げ鍋に春巻きが飲み込まれ、しばらくすると皿の上にトンと置かれる。SNSに投稿される、彼女が毎日つくるお弁当の端正さは、このまるでお手前のような、折り目正しく、美しい動作があってこそなのかと、納得する。

この晩の目的は、映画「至福のレストラン 三つ星トロワグロ」の感想を語り合うことで、スクリーンに映し出された料理のこともいろいろ話したけれど、目の前で誰かが料理をつくってくれる姿を見て、それをその場で食べられることは、やっぱり私にとっての至福だ。

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