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きょう心にしみた言葉・2024年5月29日

自分がいじめられたときは誰にも知られたくなかった。特に親にばれたらショックを受ける。絶対に隠そうと親のいないところで泣いた。今思うのはちゃんと伝えればよかった。一人で抱え込まず、親じゃなくても信頼できる友だちにでも言ってほしい。絶対に一人ではないんで。

「怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ」(森合正範・著 講談社)
第2章・田口良一引退会見から 

東京新聞記者、森合正範さんのノンフィクション「怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ」は、いま世界最強ボクサーとして君臨する井上尚弥選手の強さを、井上尚弥選手に敗れた選手たちの言葉から描く異色の作品です。
井上尚弥選手と闘った10人の選手が登場しますが、その中のひとり、田口良一さんは、小学生のころにいじめられたつらい経験があります。そんな田口さんが心動かされたのが、いじめられていた主人公がボクシングを通じて成長し、世界チャンピオンに上り詰める漫画「はじめの一歩」(森川ジョージさん作)でした。田口さんは、ボクシングの世界に飛び込み努力を重ね、漫画のストーリーそのままに世界チャンピオンになります。
また、田口さんは、井上尚弥選手と闘っても倒されず判定まで持ちこたえた唯一の日本人選手でした。

冒頭の言葉は、田口さんの引退会見で、記者から「いじめれっ子から世界王者になった。今いじめられている子どもに掛ける言葉はありますか」と聞かれて答えたものです。「絶対に隠そうと親のいないところで泣いた。今思うのはちゃんと伝えればよかった。一人で抱え込まず…」という言葉は、被害を受けた当事者しか語れないものです。

田口さんが登場するノンフィクション「怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ」には、他にも印象的な場面があります。井上尚弥選手に敗れたボクサーたちが口をそろえるかのように「話を聞いてくれてありがとう」「覚えてくれていてありがとう」と取材する森合正範さんにお礼を言うのです。その人の思いを聞くこと、心の中を吐き出すこと、言葉にすること。その大切さが改めてわかります。


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