見出し画像

ライフリンク・メディア報道・新聞の社説から⑤

東京都足立区は自殺対策の先進自治体として知られます。2009年5月にはライフリンクと協定を締結し、全庁一体の態勢を構築しました。自治体がNPO法人と協働し、首長の下に戦略会議を置き、様々な関係団体と幅広いネットワークを結ぶのは、全国でも初めてのことでした。その取り組みは、新聞各紙の社説にも取り上げられました。

2018年1月29日の毎日新聞社説「東京・足立の若年層支援 『あなたは大切』を伝える」は足立区の若者や子どもに向けた取り組みに注目しました。

ツイッターなどに自殺願望を書き込む若い女性が誘い出され、相次いで殺害された神奈川県座間市の事件は社会に重い課題を残した。
 対策を考えるうえで、東京都足立区が区内の小中学校を対象にした取り組みに注目したい。
 足立区では2006年に区内の自殺者が東京23区の中で最多となったことから、NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」などと連携し、本格的に自殺対策に乗り出した。このうち若年層への支援として、14年度から区内の小中学校で、保健師らによる特別授業「自分を大切にしよう」を始めた。
 授業では、不安や悩みを持つことは当たり前としたうえで、信頼できる大人を探し、SOSを出して相談することを勧める。さらに複数の相談機関の連絡先を書いた紙を渡し、つらくても信頼できる大人が見つからない時には連絡するよう伝える。
 子供時代に家庭の不和で苦しんだ有名人のメッセージや、子供を勇気づけるJポップグループの歌も授業で使いつつ、子供たちに強く訴えるのは「あなたは大切な人だ」ということだ。

2018年8月25日の読売新聞社説「子供の自殺防止 身近な大人にSOSを出そう」は、足立区が進める「SOSの出し方教育」を詳しく紹介しています。

何より大切なのは、つらい気持ちを信頼できる大人に伝えることだ。東京都足立区の「SOSの出し方教育」が注目されている。文部科学省も推奨する。
 困難やストレスに直面したら、周囲の大人に話すよう、保健師らが特別授業で説く。友人から悩みを打ち明けられた際は、一緒に大人に相談に行くことを勧める。都内の小中高校でも今年度から年1回、同様の授業が始まった。
 本来は子供の異変に敏感であるべき保護者や学級担任が、聞く耳を持たないケースがあるかもしれない。そんな時は、あきらめずに養護教諭やスクールカウンセラーなど受け止めてくれる人を探す。専門機関の窓口も頼りになる。
 こうした授業内容を、多くの子供たちに知ってもらいたい。

2012年2月12日の朝日新聞社説「ストップ自殺 足立区の努力に学ぼう」は、ハローワークを活用した自殺対策を高く評価しました。

参考になる取り組みの一つが東京の下町、足立区にある。
 区は09年までの5年間で自殺者が都内最多だったことから、NPOのライフリンクと手を結び、対策に力を入れた。昨年は自殺者が145人いたが、前年に比べれば2割も減った。
 自殺を考える人の多くは、失業、多重債務、うつなど複数の悩みを抱えている。自殺者の7割は何らかの相談窓口を訪ねていたという調査もある。
 ならば、相談に来た人からリスクの高い人を見つけて支えよう。そう考えて窓口や相談機関のネットワーク化を進めた。
 例えば、失業してハローワークを訪れた人が多重債務や不眠を打ち明けたら、弁護士や保健師につなぐ。それだけでなく、必要な支援を次の窓口で受けられたかまでフォローする。
 ハローワーク職員や弁護士、保健師らの専門家がそろう総合相談会を定期的に開いている。危険に気づく力を養うゲートキーパー(門番)研修も区職員の3分の2が受けた。

2016年5月16日の読売新聞社説「自殺防止計画 命を守る地域作り進めたい」は、地域の中での自殺対策に注目しています。

大切なのは、深刻な悩みを抱える人の兆候を見逃さず、機動的に適切な支援を行うことである。
 15年度に始まった生活困窮者自立支援制度では、自治体に総合的な相談窓口の設置が義務付けられた。失業や借金、孤立といった相談内容は、自殺とも密接に関連する。困窮者と自殺の対策を連動させ、相乗効果を生み出したい。
 東京都足立区では、暮らしや仕事の悩みの「総合相談会」で自殺リスクの高い人を把握し、専門家が問題解決を援助している。失業中の中高年の自殺が多い傾向に対応した仕組みで、自殺者の減少に成果があったという。
 政府は、地域の実態把握や自殺対策に携わる人材育成などを行う拠点を全ての都道府県と政令市に設置する方針だ。財政面も含め、自治体や民間団体をしっかりと後押しする必要がある。

足立区の自殺者は1999年には193人に上りましたが、2021年は114人と40.9%減少しました。同じ期間の減少率は全国36.1%、東京都22.1%で、より大きな減少率を実現しています。

写真は、パリのオルセー美術館にて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?