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ライフリンク・メディア報道・コラムを読む②

今回からは、全国紙の1面コラムを見ていきます。1面コラムは紙幅は狭いもののの、的確な指摘に出会うことが多くあります。子どもの自殺やいじめが数多く取り上げられています。

2023年3月19日の朝日新聞「天声人語」です。

「歌は革命を起こせない。しかし、歌は、自殺を止める力を持っている」。サザンオールスターズの桑田佳祐さんの歌詞集『ただの歌詩(かし)じゃねえか、こんなもん』に寄せた解説で、作家の村上龍さんはそう締めくくった。

絶望しかないとき、思いとどまらせるものはないか。昨年の小中高生の自殺者数が514人だったという厚労省の発表に、やりきれない思いがした。統計のある1980年以降で、最も多い▼学業不振や進路の悩み、友達や親との不和といった原因から見えるのは、将来への不安と支える人の不在だ。コロナでつながりが減った一方、家にはストレスを抱えた親がいる。相談する場が必要だ。

求められているのは声より、チャットによる文字でのやりとりなのだ。子どもの伝達手段が進化しても、受け止める大人が追いつけているか。希望が持てる社会にできていないことにも、責任を感じる

2022年8月25日の読売新聞「編集手帳」です。

夏休みの終わりに小中高生の自殺が増える。新学期を前に不安が高まるためといわれる◆作家の金原ひとみさんは中学には4日しか通わず、高校は中退し、悲観する母親との不仲に苦しんだ。「自分が息のしやすい場所を大切にしてほしい。ゲーム、漫画、小説、何でもいいです。これをやっているとき、ちょっと楽だなと感じる場所です」。本紙社会面に連載中の「STOP自殺 #しんどい君へ 」で、身の守り方を語っている◆東京・渋谷では受験で心を乱した中3女子による刺傷事件が起きた。のんきに過ごせる秋口を、大人が用意できないせいもあるだろうか。

2021年9月5日の毎日新聞「余録」です。

人をさいなむ「いじめる」と物をもてあそぶ「いじる」は同根の言葉という。人をもてあそぶ「いじり」は最も陰湿な「いじめ」となる。そして今日のサイバー空間での「いじり」は被害者の日常にも入り込む▲「おまえらのおもちゃじゃない」。東京都町田市立小学校に通っていた6年生の女児は叫ぶような遺書を残して昨年11月に自殺した。その両親によれば、女児へのいじめの道具となっていたのは学校が配布したタブレット端末だった。

おりしもコロナ禍によりタブレットやパソコンを使ったオンライン授業が「学び」の救世主となった今日である。学習や級友とのコミュニケーションに欠かせぬ機器が「いじめ」のツールになる恐ろしさに慄然(りつぜん)とした方もおられよう▲情報端末を子どもたちに渡すならば、それを危険な凶器へと変えぬような教育や仕組みも整えてもらわねばならない。12歳の女児が遺書に残した叫びは、大人たちに向けられた言葉だと受け取るべきである。

2019年2月7日の毎日新聞「余録」です。

山口県で県立高2年の男子生徒が自殺した問題で、県の検証委は一部教員にいじめに類する行為があったと最終報告した。テスト中に「ちゃんとやったか」と話しかけたり、授業の最中に名前を連呼したり、いわば生徒いじりである▲報告は生徒間のソーシャルメディアでの仲間外しなどのいじめを認定したが、教員の行為がいじめを助長した可能性も指摘する。教師は集団を掌握する軽い「芸」と考えたのかもしれぬが、いじられ役を負わされた生徒はたまらない▲圧力釜にも似た学校の空間では軽いくすぐりも時に残酷な暴力に変わるのは教師なら知っていよう。そして学校でいじられキャラを演じさせられている君、つらくとも死んではいけない。人の心にひそむ魔物に君の未来を手渡さないでほしい。

2020年7月4日の読売新聞「編集手帳」です。

「お前が虫だ」。同級生に取り巻かれ、そう言われたのはお笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二さんである。本紙連載「STOP自殺#しんどい君へ」を読んだ◆小学3年の夏だった。学校では体が小さく「ちび」と呼ばれ、上履きが消えたり、自分の教科書が校舎から落ちてきたり…そんな日々に虫捕りに誘われ、舞い上がった。「いじめは終わったんだ」。うれしくて早めに待ち合わせ場所に行った◆すると木の陰から同級生らが飛び出してきた。「お前が虫だ」。袋だたきにあったという。
もし斉藤さんのような目にあっている人がいたら、贈りたい詩の一節がある。<私は知らなかった。私がこんなに善良さをいっぱい持っていたとは>(ホイットマン「大道の歌5」)。そう気づけるまで君は生きるべきだ。

写真は、東京・上野の国立西洋美術館にて。

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