エンジニアのための経営学(3):取締役会の位置づけ
では、どうやったら経営者たちが(自分たちの職・天下り先の確保・維持のために)自分勝手なことをしたり問題を先送りせずに株主利益を考えた経営をするようになるのだろう。
米国式の資本主義社会の法則にのっとって株式会社を運営するかぎりにおいては、基本的には(1)取締役会を経営者ではなくて株主を代表する人たちで構成することと、(2)経営者たちに株主利益を増す行動をうながすインセンティブ(成功報酬)を与えること、の二つが組織・制度上とても重要である。
もちろん、経営者にふさわしい人を選ぶ、経営者だけでなく従業員全員が会社の成長のために一生懸命働くというカルチャーを作る、という「人」「カルチャー」面での会社作りもとても大切だが、それ以前の問題として必要不可欠なのが、給与体系も含めた「組織」面での会社作りである。
日本では多くの企業が、取締役会を社内の人間のみで構成し、実質的に(そして多くの場合、組織図上でも)社長の下に置かれた組織と見なす傾向がある。では、実際に日本の会社の組織図を見て見よう。
組織図上でも、社長の下に取締役会を配置してしまっているのが東京電力(下の図は東電のホームページから切り取ったもの)。
そもそも組織図に取締役会が書いていないので、分かりにくいが、経営陣がそのまま取締役会を構成している。大株主である銀行や生命保険会社を代表する外部取締役は一人もおらず、大株主たちは株主総会でも経営陣に委任状を渡してすべてまかせてしまっている。「コーポレートガバナンスが全く働いていない」典型的な例である。「経営陣が天下り先の子会社を作り、退任後は自らがそこに天下る」ようなことが常習的に行われているのはそれが原因だ。
オーナー会社の面影を多く残しているのがセイコーエプソン(これもやはりホームページから切り抜いて来たもの)。
組織図上は一応、取締役会を社長の上に上に配置しているが、筆頭株主である服部家を代表する服部会長以外のすべての取締役は組織上は社長の下にいる経営陣である。大株主の銀行や生命保険会社が選んだ社外取締役は一人もいない。
このケースでは、会長一人とは言え、筆頭株主である服部家が取締役会をほぼコントロールしている状況にあり、株主利益を優先した経営をする、という意味では(東電と比べれば)比較的健全な形になっていると言える。
しかし、本来の「株主全員を代表した取締役」という考え方を適用すれば、服部家から複数人数の取締役が来ていてもおかしくないし(議決権は取締役一人あたり一票なので)、銀行や生命保険会社が選んだ外部取締役が少なくとも一人や二人がいるのが健全な形だ。
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