エンジニアのための経営学(2):コーポレート・ガバナンス

あまり経営に興味がない人でも、コーポレート・ガバナンスという言葉は聞いたことがあると思う。「企業統治」という日本語役が割り当てられる時もあるが、あまり適切な訳語とは思えないので、英語の Corporate Governance をそのままカタカナにしたものを使わせていただく(User Experience = おもてなし、のような絶妙な訳語を見つけたいものだ)。

いきなりこんな言葉を引き合いに出すと「やなり私は経営学になんかは興味がない」と耳を塞ぎたくなる人も多いとは思うが我慢して読んでいただきたい。

というのも、1990年から続く日本の低迷の大きな原因の一つがコーポレート・ガバナンスの欠如にあるからであり、それが「役に立たないのに給料だけはたくさんもらっている上司や経営者」の存在を許しているからである。

「うちの会社には何をしているのか分からない人がたくさんいる」「もの作りをしたくてメーカーに入ったのに、やる仕事は仕様書作りと社内調整ばかり」「親会社から天下りしてきた何も仕事のできない上司が私の何倍も給料をもらっている理由が分からない」と感じているとしたら、それはたぶんあなたの会社のコーポレート・ガバナンスがうまく機能していないからである。

そんな意味でも、「コーポレート・ガバナンスとは何か」を理解することが、自分が働いている会社に将来性があるかどうか、もし転職するとしたらどんな会社を選ぶべきか、の良い指標になる。

前書きが長くなってしまったが、コーポレート・ガバナンスとは、ひとことで言えば「株式会社の経営者が、株主価値を最大化をするために努力することをうながす仕組み」のことである。

注目して欲しいのはコーポレート・ガバナンスとは「最大化すること」でも「努力すること」でもなく、「経営陣の努力をうながす仕組み」である点。「コーポレート・ガバナンスが欠如している」とはそういう「仕組み」がないことを示し、「コーポレート・ガバナンスが機能していない」とはそいう仕組みがあるにはあるがうまく働いていない(つまり、経営陣が「株主価値を最大化する努力」をしていない)ということを示す。

上に「1990年から続く日本の低迷の大きな原因の一つがコーポレート・ガバナンスの欠如にある」と書いたが、それを如実に表すのが下のグラフである。

1990年1月1日から現在までの、日経平均とニューヨーク株式市場のIndexをグラフ化したものだ。この期間、米国企業の経営者たちは株主価値を3倍にしたが、日本企業の経営者たちは株主価値を半分以下にしてしまっている。

ここで注目すべき点は、「日本は景気が悪いから株価が下がっている」のではなく、「日本の企業が価値を生み出していないから景気が悪い」のだということ。

ではなぜ、日本の企業は「価値を生み出す」ことを辞めてしまったのだろうか?戦後の45年間、あれだけの価値を生み出し続け、日本のGNPを世界第二位にまで一気に押し上げた企業戦士たちはどこへ行ってしまったのだろうか?

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