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小説

ふと少年が目に留まった。

少年は電車から降りるとテクテクとホームを歩いていった。
どうしても気になり後を追いかける。

どう見ても4、5歳なのだ。

帽子を前後逆に被り、虫取り網を持っている。
わざわざ電車に乗ってどこに行こうというのか。

しかも一人だ。
大丈夫なのか。

ちょうどこんな日中に仕事はなかったので時間に余裕がある。
いつもは余裕もなく目が血走っている。

今日はたまたま電車に乗って景色を楽しむことができた。
こんな時間はほとんどない。

最近は時間が1秒でも惜しい。
設計の案件が溜まっているのだ。

いつもは営業担当の車で移動するが、今日は営業が体調不良で休み。
まあそんな日もある。

逆に気楽に一人旅である。
しかもかなり田舎な路線である。

こんな田園風景、何年振りに見たのだろうか。
いやおそらくたまに見ている。

通勤や移動で田園風景くらい見るだろう。
その時はただの背景なのだろうな。

常に仕事のことばかり考えている。
よく考えると馬鹿げている。

1万年前の人類は何をしていた?
一体現代の俺たちは何に急かされていのだ?

少年は細い田圃道に入って行こうとしている。
一体何を探しているのだろう。

そういえば俺も小さい頃は昆虫採集が好きだったな。
それも以上なくらいこだわっていた。

とにかくカマキリが好きで、より大きなカマキリを探し回っていた。
あまりにも毎日探し回っていて手がつけられなかったようだ。

あまりにも帰ってこない日があって警察に捜索願いを出したこともあったようだ。

俺にはそんなこだわりと探究心があるようだ。
今だって設計士として住宅をこだわって作っている。

いや、でも所詮メーカーの設計士。
自由度は少ない。

本当は自分で設計事務所を開いて自分の力で作りたい建物だけを作りたい。
でもそんなこと言っても無理だろうな。

資金繰り、顧客の獲得。
どれも苦手だ。

でも自由に作りたいものだけを作りたい。
本当はこだわりたいんだ。

少年は畦道に入り下を見ながらゆっくりと進み始めた。
何を探しているのだろうか。

俺だって本当はこだわりたい。
探し出したい、自分が求めているものを。

少年が何かを捕まえた。
カマキリだ。

でも納得していない。
すぐに逃して次を探しにいった。

どうしても心を奪われて少年を見ていると、少年が顔を上げた。
こちらを見ている。

目が合った。

その時ハッとした。

自分ではないか。

少年は背を向けてまた進み始めた。
俺は呆然と立ち尽くした。

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