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「かてぃんピアノ」の音

※11月11日に加筆致しました。

かてぃんさん=角野隼斗さんのアップライトピアノ、通称「かてぃんピアノ」。

大成功だった2023年Reimagineツアー。

角野さんは各会場のグランドピアノと、そして調律師の按田さん(按田泰司様)と試行錯誤され、改造して生まれたアップライトピアノの2台で全国の皆さんを大きな感動に包んだ。

アップライトピアノはツアー最終日でご自身のサインも書き入れられた。

内部が見える、私が居る世界とは結びつかない洒脱さと、親密性のある音と、カタカタ動くハンマーの健気さにこのアップライトピアノにいつの間にか心を奪われていた。

角野さんのご自宅にはずっと使われているものが既にあるため、このアップライトピアノはSteinway Japanでメンテナンスを受け保管となります、という投稿に心からお疲れ様を送りたい気持ちになった。
X(旧Twitter)より

そして。暫くして。

ツアー後のかてぃんラボ(YouTube有料チャンネル)でひとつのアイデアが発表された。

全国にこのアップライトピアノを無償で貸し出すという事だった。

ピアノを愛するかてぃんさんのピアノが、そしてツアーでその魅力と存在感を充分に感じたアップライトピアノが見られる、弾けるというだけで特別な価値があると思った。

発想の素敵さに感動し、直ぐ様日本をあちこち旅する所を思い描いた。
そしていち傍観者としてその旅がSNS上でシェアされる事を秘かに楽しもうと思っていた。

改めて企画内容を貼らせて頂く。

ピティナ様とSteinway様の協力により、全国からアイデアと貸出先が募集され、7月に第一弾として数か所の設置スポットが選出された。リストを見て驚く。
その中に私の住む地域も含まれていたからだ。
更にSteinway様を皮切りにプロジェクトはスタートするが順番的にその次だった。

まさか自分がそしてこんなに早くかてぃんピアノと会えるとは思っておらず。
驚きと嬉しさと緊張とが同時に沸き起こる。

昔は習っていたがもう今は殆ど弾けない私は余裕など全くない。

何よりもその前に、まず娘が弾きたいかだった。
娘は人前で弾くことを躊躇ったが、好きな曲を弾いていいと説得し何とか出てくれることになった。
私も初心者向けの本の中から簡単な曲を決めた。

ここで私達が参加したかてぃんピアノの企画の主催者の方とコンセプトを紹介する。

主催者様 タニオ保険株式会社  
(リンク先には主催者様の思いや素晴らしいメッセージ、参加された方の演奏、貴重なピアノの運搬の様子があります)

申し込んだ本番の日は希望者数が多い為、余裕がないことが主催者様から頂いた丁寧な案内メールで分かった。

前日は多少の空きがあり、申し込まれている方は来れたら来てくださいと…。

多分緊張したり子供の事があるのでゆっくり写真を撮る時間がないかも知れないのと、ぶっつけ本番ではなく、やはり少しは予行練習がしたくて仕事が早く終われれば行くことにした。

何とか間に合いそうなことが分かりバタバタと用意して車で40分の道を急ぐ。

逸る気持ちを抑えながら会場の地図を確認し、目的の場所に近いドアから入った。

ピアノの鍵盤を模した大掛かりなパテーションと、角野さんのお写真とPROJECTについてのメッセージが大きく刷られたボードが目に入る。
時間的に初日のイベントの終了間際ではあったが、親子連れの方が楽しそうにピアノを弾いたりそしてそれを聴いたりしている姿が見えた。

受付の方に名前を告げると「お待ちしてました」と笑顔で迎えてくださった。
 
 ブーススペースに1歩足を踏み入れると奥に「かてぃんピアノ」があった。

右側にReimagneツアーを彷彿とさせるお洒落なスタンドランプがシンプルに置かれている。

フェスという場所柄、もう少し雑多な雰囲気になるかと思案したが(申し訳ありません…)、想像を超えてとても洗練されておりそれでいて温かみを感じる素敵なスペースになっていた。

かてぃんピアノスペース

ピアノのフォルムも改めて趣きがあって、側面に回るとあのスマイルマーク付きのサインが入っている。

とても神々しくてファンとしてはそれだけで感激してしまった。

(入場前には親子共々アルコールは使わず手を洗ってしっかり乾かしていた。)

神聖な気持ちでピアノに近づく。

温かいライトのオレンジ色がピアノを彩って内部の金属部の美しい輝きが煌めく。

美しい内部が見える。保護の為アクリル板があり安心

初めに娘に弾いてもらった。
しかし初めてのシチュエーションに緊張するらしく暫く触ってやめてしまった。

もうこの後弾く方は居なかったので係の方に私にも「どうぞ」と声をかけて頂いた。   

オーナー様は勿論、どのスタッフの方もお客様やかてぃんピアノへの心配りが行き渡っていることを感じた。バタバタと訪れた私達にもとてもにこやかに丁寧に対応してくださった。

心のなかで最大限に遠慮しつつ椅子に座る。
改めてピアノと対面した瞬間。

これはファンだからかも知れないけれど…凄くかてぃんさんの魂みたいなものを感じる。
あったかくてスタイリッシュで…私達には少し掴みどころがない感じ。。
でも懐が大きくてその辺りの空気を全て包み込んでいるような感じ。

触ると思った以上に鍵盤が軽い。
自宅のピアノの半分くらいの感覚。
その為却って力加減が物凄く難しかった。
Steinway様が記してくださった素晴らしいnoteを思い起こす。

思い通りに弾けそうでそうはいかないピアノ。正しくそのとおりと思った。

何とか譜面を見れば弾ける位にまでした曲を弾いてみた。家族とスタッフの方以外は誰も見ていないのに手が震える。
弾き進めていくと手に力が入らず滑っていく。。
そして弾く時に5本の指がそれぞれにしっかり独立して神経が行き届いていないとちゃんと和音が鳴らない。軽い為に打鍵の調節も、練習不足の人間にはとても難しい。

家ではそれなりに弾けていたのに途中で辞めたくなるくらい弾きこなせなかった。

舞い上がっている私に係の方が再度声をかけてくださり
「このレバーを引くと音が変わるんです」と鍵盤裏の左下にあったレバーを操作して下さった。

そうだった、忘れていた。
この音を弾かなければ勿体ない。

声をかけて下さったスタッフの方にとても感謝した。
カコンと軽い音がしてフェルト部分が動く。

また同じ曲を弾いてみる。
そして驚く。

一瞬でかてぃんさんが仰っていた「内省する」時空に包まれた。

家のアップライトピアノも足元のレバーを操作すれば鍵盤は弱音になり輪郭が消えたような音色にはなる。

けれど全く違う。

柔らかいその音色は感傷的な気分だけになるのではなく自然と自分と向き合う感覚になった。初めての感覚だった。

そしてその瞬間何故このピアノを貸し出して下さることを決めたか、また自分のためにピアノを弾いて欲しいと仰ったのか分かった気がした。

程なくして「絶対ぼくはピアノをひかない」と言っていた筈の息子(ピアノ習いたて)がとことことピアノに近づいてくる。
それはとても魅力的な、でも触っていいか分からないものを目の前にした時みたいに。

そして私が下りた後の椅子に座り、誰に言われずともそっと自然にピアノの鍵盤に手を伸ばした。
実は人前では少々難しい性格の息子なのだが驚いたことに習ったばかりの「チューリップ」を、今まで見たことないくらい真剣に弾いている。ド・レ・ミしかその時は習っていないため休符もたくさんあるのだけど、無言で拍を数えているのが分かった。因みに息子は拍を数えるのが苦手だ。

これはかてぃんピアノだったからなのかどうかはわからないけど、レッスン中も落ち着きのない息子に手を焼いていた私としてはとても驚く光景だった。

トータルでは20分位その場にいて、弾こうと思えばその時間の中で多分もう少し弾けたのだろうけど、やはり恐れ多い事とピアノが弾けない事が自分の中では勝ってしまった。

スタッフの方や途中声を掛けに来て下さった社長さんに挨拶し会場を後にする。

けれど弾き終わった後の感動。
ファン欲目の込み上げるものもあったけど、やはりあのピアノが持つ不思議な音色と、対面した時の世界観、かてぃんさんのピアノであることの意義があったのではと今も思える。

そして気になっていた「内省する音」について。
数日後SNSを見ているとかてぃんピアノは次の場所に移り、実際弾いてこられた相互フォロワーさんの投稿を目にした。
こちらからその投稿にお返事するとやはり「自然と内省する感じになる音」と頂いた。
嬉しかった。
思い込みの激しい私だけがそう想ったのではない事がわかりテンションが上がる。

そしてその「内省する音の出るピアノ」を貸し出してくださった角野さんに思いを馳せる。

参考までに「内省的とは」


「自己を省みる性質を持つ」といった意味で使われる形容詞です。自己の心理や心情、行動に向き合い、自己分析や自己反省をおこなう態度や性格のことを言います。

2022-12-13 17:29(更新:2023-10-19 12:12)LM編集部コラム記事


角野さんが、ある時誘われたピアノLIVEでカスタマイズされたアップライトに初めて触れ、その時の心を癒やされた事をご存知のファンの方は多いと思う。勝手に想像してもその思いは本当に行き場のないものだっただろうと…それを救ってくれたのだとしたら。

更に少し想像した。

その時弱くなったかも知れない心が今はもう完全に前を向かれていてそしてこうして他の誰かを思う気持ちを生む。
生まれた頃からピアノとずっと過ごしてきたご自身を見つめ直し、ピアノへの自分の思いを再確認されたかも知れない。

プロジェクト内で特に「子供達に」という所にこれから未来を背負って立つ子達へのサポート、そしてそのサポートを大人として担う事をご自身が感じておられる所も。。
そこが私はとてもかてぃんさんらしいと思った。

かてぃんさんは何となく閃いたアイデアが実はご自身も思っていた以上の素晴らしい事を生んでしまう気がする。
そして元のコンセプトから例え外れようともそれはそれでOKとして下さる。(実際各地で催される企画は様々)
主旨が活かされるかよりも実際ひとりでも多くの方にピアノに触れてもらいたいのではないか。
そういう余裕と懐の大きさがあるからこそ、皆がこのピアノに集まれる。

この企画の始まりの思いはご自身の何かの為でなく。
あくまでも人の為であり純粋で見返りを求めないものと私は感じる。

置かれる場所、各設置場所の主催者の方の思い、またそこに参加されて弾く方のひとりひとりの思い、状況…かてぃんピアノに触れる思いは無限。

私達は…。

今回まずもって緊張しすぎたこと、かてぃんさんのピアノというだけで舞い上がってしまったこと、娘に体験させたい思い、何よりもピアノが弾けない事があって「内省的な時間」をじっくり過ごす事は出来なかった。

また次の日が本番だったのだけど完全な私の準備不足のせいで娘も私も満足と言える演奏は出来なかった。
娘には本当に申し訳ないことをした。
それこそかてぃんピアノに自分というものを突き付けられた気がする。
(※娘のピアノの音色について迷いがなくて綺麗だと褒めてくださった方がいらした 心から感謝致します)

それでもとても幸せな時間を過ごさせて頂いたことは間違いない。
あの音から得た感覚は今も優しく私を見守っている気がする。

またピアノを弾かれたたくさんの皆さんの素晴らしい演奏のお陰で、このピアノのどこまでも広がってゆく音色を味わえ感動出来た。

そして帰ってから娘から「普段と違って(ピアノそのものに向き合えて)楽しかった!」と嬉しい台詞と共に笑顔も見れた事も書かせて頂く。

ここからは余談だけれど、この企画に参加出来るとは思っていなかったので、ずっと購入するか迷っていた子供達のピアノの事があった。

まず実家にずっと置いてあったアップライトピアノを現在の住まいに運ぶことを決めていた。
中まで全てチェックして頂き、修理もして頂いた。

そして。

購入した楽器店の社長さんに相談し、前板を外してアクリルの板を付け、中が見えるようにすることにした。

子供達にピアノを少しでも好きになってもらいたかったから。

アクリル板は知人の業者の方が快く引き受けてくださることとなり、自宅のアップライトピアノが生まれ変わった。

前板を外した自宅のアップライトピアノ

前板があるままだとちょっとよそよそしい感じがしていたピアノだけど、中が見えた途端とても愛着が湧いてたまらない。
(少し残念なのは楽譜を置いてしまうとハンマーのカタカタは見えなくなること笑)
音の改造もしようかと少し過ったけれど今はこのままに。

俄然子供達のピアノへ向く時間が増えた。
そして練習すると上手くなって先生に褒められる。またやる気がでる。

かてぃんさんみたいに弾きこなして、時に自分と向き合えるまでは到底いけないけれど、あの日から私達の生活の中で確実にピアノの存在がこれまでより大きくなった。
勿論私も弾く時間を作って触るようにしている。

そしてこのアップライトピアノは幼少時に突然ピアノを習いたいと言い放った私への両親の愛の形だ。

新しい何かを安易に手に入れるだけでなく、眠っていた宝物に命を吹き込むこと。
改めてピアノの価値、気付けていなかった大事なものに気づく事の幸せを理解した。
そのきっかけを下さったかてぃんさんに本当に感謝してもしきれない。。

かてぃんピアノと私達の小さな物語。

お読みくださりありがとうございました。