龍戦記ドラグーンソール 第六話

龍戦記ドラグーンソール

第6話:「水野彩香 才女が教える勉強のコツ」

 昼休みに入り、龍介は屋上へと向かう。今日は優香の手作り弁当とあって、授業がいつもより楽しく感じられた。

「お昼は、お弁当何かなぁ~? から揚げ大好き、鶏肉もおっけー」

 へんてこな歌を歌いながら屋上へと向かう龍介。

「さて、優香さんは…?」

「前にも言ったはずです。私は誰とも付き合いはしません」

「およ?」

 いつもの場所から、優香の断りの声が聞こえた。出入り口とは反対側のほうへと足を運ぶと相沢稔が桂優香に迫っていた。

「俺は、君をあきらめきれない!」

「…でも、私は!」

(また、告白しているのか!? しかも二度目のラブアタック!)

 二度目の告白現場を目撃した龍介。以前の龍介なら、躊躇しているだろうが今の彼は違う。

「やめろよ! 優香さんが困っているだろ! 相沢」

 2人の前に自分から姿を見せた。

「龍介くん!」

「巽川! …ちょっとまて、優香さん? 龍介くん? だと」

 稔は、2人の間柄の変化に戸惑いを感じた。「男が怖い」といっていた優香。だが、龍介にだけは心を開いているという現実。身体的に自分自身のほうが優れていると思っている。しかし、龍介の何が優香を惹き付けるのかがわからない。それに、数日前とは違って、はっきりと物を言うようになっていた龍介の成長にも驚きを隠せない。

「もう一度言うよ。相沢…優香さんが困っているから、引くんだ!」

「はっ、たった数週間で何があったかわからないが……俺はこの恋をあきらめきれないんでね。話っていうなら、こいつで俺を言うこと聞かせろ。巽川」

 稔は握りこぶしを作って、龍介に見せた。

「…! どうしても、話は聞いてくれないのか?」

 龍介は自分の意思で彼女の前に立った。

「ああ、男ならこいつしかないだろ?」

 稔は、龍介を脅すようにゆっくりと構える。

(こういう非力な奴には、力任せで一発やるよりも精神的に追い詰めて嬲ったほうが、頭に恐怖がこびりつきやすくなる……そうすれば、桂さんの前には現れないだろう)

「優香さんは離れていて…!」

「龍介くん…!」

「相沢、おまえの言う話し合いには乗ってやる。でもな、優香さんには傷1つつけたら許さないからな!!」

「へぇ、小さい男の子のくせに、やるじゃないか。あたしも気に入ったよ」

 3人の前に背の高い女子生徒が現れた。見たところ、身長は180センチ近くあり普通の男よりも背が高い。すらりと伸びた足と腕、体に見合った豊胸。

 栗色の髪をポニーテールに束ねて、風に揺られていた。

「おまえは…1組の水野彩香」

「彩ちゃん!」

「遅くなって悪いね。優香ちゃん…さて、あんたの言う話し合いとやらに、あたしも混ぜてくれないかな? もちろん、手加減はしないよ」

 すっと、腰を低くして空手の構えをする。

「……チッ」

 稔は舌打ちをして、構えを解いた。

「くそ、おまえとやるとこっちの負けがみえみえだっつーの。引かせてもらうぜ」

 稔は彩香の横を通り過ぎる。

「そうかい。なら、あたしの親友の前にもう姿を見せるな」

 ギラリと眼で威嚇した。

「……っ」

 稔はそのまま屋上から去っていった。

「え、えーと、助けてくれてありがとう」

「なに、気にすることないさ。あんたのことは、優香ちゃんから聞いているよ。巽川龍介。あたしは、1組の水野彩香。1年のころ、優香ちゃんとは同じクラスだったんだ」

 2人は握手を交わす

(うあ……大きい手だなぁ。俺の手が子どもの手みたい)

「かわいい手だな。傍から見たら小学生かと思っちゃうよ」

「彩ちゃん、そこまで言わなくても」

 優香がフォローする。

「ハテ…? 水野彩香ってどっかで聴いたことあるような? ないような?」

「ああ、それなら。多分これだろうね。あたし、空手部主将で県大会も優勝したから」

「そうなんですか、空手部主将で県大会…ゆう、しょう……?」

 え?と彩香がサラリとすごいことを言った気がする龍介。

「えええ? こんなにかわいいのに!?」

「か、かわいいって、あたしが?」

 龍介の言葉に驚く彩香。

「だって、そうなんだからいいようがないじゃないか」

「かわいい…ってはじめて言われた」

 か細い声で、頬を染める彩香。

「彩ちゃん?」

「な、なんでもないなんでもない! さっさっ! 早くお昼にしようよ。ねっねっ」

 話題を逸らすように2人を急かす彩香

「はい、龍介くん」

「わーい。優香さんの手作り弁当」

「へー、料理作るようになったんだ」

「ええ、まだまだですけどね。彩ちゃんには適いません」

「? 水野さんも料理を作るんですか?」

「ん? ああ。料理を作るのが好きなんだ。この弁当も私が作ったんだ。何なら、1つ食べてみる? 味の保障はするよ」

「それじゃーお言葉に甘えて、から揚げをいただきます」

 彩香の弁当箱からから揚げを取って食べる。

「おいしー」

「そりゃよかったよ。ところで、2人は付き合っているの?」

「つ、付き合っていません」

 優香と龍介の2人は否定する。というよりも、次の進展には時間がかかりそうだ。

「初々しいねぇ……お、ふ、た、りさん」

 彩香は優香と龍介をいじって遊んでいた。

「ところで、2人はドラグーンソールの謎を追いかけているんだって?」

「はい。といっても主に俺と俺の友人の豪が追いかけているんですけどね」

「そうなんだ。はて、ツヨシってどっかで聴いたことあるような名前だな。どこだったけ?」

 彩香は髪を揺らして、記憶を辿る。

「水野さんもドラグーンソールを知っているんですか?」

「ああ、ちょっとだけどね。水野じゃなくて、彩香でいいよ」

「わかりました。では、俺も龍介で」

 すっかり打ち溶け合っている2人。

「そういえば彩ちゃん。もう、中間テストの勉強はしているんですか?」

「ん? ああ。そんなものもあったけ? し始めているといえばしているな」

「中間、テスト…」

 (ドラグーンソールの戦闘ばっかり考えていたからすっかり忘れていたー!? てーか、そろそろ中間テストじゃないか!? 時期的に考えて、やばい。数学と英語が非常にやばい! ウルトラマンが欲しい!)

 ルーガルーのセリアの躾問題もそうだが、裸でうろうろする癖をなんとかしなきゃならない。戦闘戦闘で、学業がおろそかになっていては元も子もない。

「龍介くん?」

「あははは、中間テスト、オワタ」

「え? 何? どうかしたの?」

「あ、いえ、そのー…まったくしていないんで、どうしたものかと……」

(言えない。ドラグ-ンソールに変身していて、勉強のこと等すっかり忘れていたなんて絶対に言えない。というよりも、ウルトラマンとか仮面ライダーとかのヒーローって私生活はどうやって過ごしているんだ?)

「だ、大丈夫ですよ。これから頑張れば」

「英語、数学オワタ……」

「うーん…何なら、あたしが要点だけ教えようか?」

「え?」

「あ、それがいいかもしれませんね。彩ちゃんなら適任ですし」

「あの、優香さん? 適任って?」

「あれ? もしかして知らない? 学年順位1位だっていうの」

「え、ええええええ!?」

 龍介は驚いた。目の前にいる水野彩香が学年才女だったという事実に。

「え? ってことはもしかして、入学以来」

「ああ。当然、1位だよ。勉強は、ゲーム感覚でやればいいんだよ。龍介」

「うそだ、英単語や数字の方程式をゲーム感覚でやれだなんて、ウソダ」

 才女と凡人の思考の差に打ちのめされる龍介。

「んじゃ、今日からの放課後を彼借りていってもいい?」

「それは構いませんけど、あんまり無茶はしないでくさいね」

「ちょっと、まって! いつのまに「もの」扱いされてるの!? ねぇ? 俺の人権どこいったの!?」

 そんなこんなのやり取りを終えた昼休みだった。

 放課後、玄関前で龍介は彩香を待っていた。

「今日は、豪がいないし…一応放課後になったらメールする習慣つけてあるからセリアも見ているだろうから、心配はないけど。俺の勉強どうなるんだ?」

 素直に彼女を待っている龍介も律儀である。

「お待たせ。それじゃいきましょうか?」

「いきましょうかって、彩香さん。どこに行くんですか?」

「何言ってんの? あたしの家に決まっているじゃないか?」

「なんですと!?」

 (フ、普通…今日出会った男をほいほいと自宅に連れ込むんですか!? さ、才女の考えていることはまったく理解できない)

 年頃の男子にとって、異性の家に行くというのは重大な意味を成している。しかし、ヘタレで奥手な龍介が、獣になるのはまずないだろう。

「何怯えているんだ? 別にスパルタ教育を施すわけじゃないから大丈夫だって」

「いや、そうじゃなくて」

「さ、行こう行こう」

 彩香に手をつながれて、連れて行かれる龍介。

(すごく柔らかい。女の子の手ってこんなに柔らかいのか? マシュマロみたい)

 初めての体験で思考回路がこんがらがってしまう龍介。何とか、この感触から意識をそらすために話を振ってきた。

「彩香さんは高校の近くに住んでいるんですか?」

「まぁ、バスで10分程度の所にね。それとも、女の子の家に入るのが初めてなのかな~?」

「か、からかわないでください」

「ふふ、冗談よ。冗談…今日は勉強のコツを教えるよ。家に帰ってから、時間があるときにすれば、身につくから大丈夫よ」

「え!? そんな方法があるんですか?」

「ええ。そうね~基本は歴史や世界史にも使えるものだけど、応用すれば化学や物理、地理や国語、英語にも使えるわ」

「おお~!? なんという便利さ! てかいつ見つけたの!? こんなすごい方法」

 龍介は興奮して、話しかける。

「それは、まだ秘密よ。家の近くに着いたから、降りるわよ」

 彩香が先頭を切って、バスから降りた。

 2人は、バス停から5分ほど歩いて、一軒家の前に辿り着いた。

「ここが私の家。遠慮しないで入ってよ」

「いや、ふつーに遠慮すると思うけどなぁ…うん」

 フレンドリーすぎる彩香に若干引きずられる形で彼女の家に入り込む龍介。

「あ、そうだ。私の部屋に入る前に、数分だけ待ってくれる? 制服から私服に着替えるから」

「ええ、そうです……え?」

 玄関で靴を揃えた時に、龍介は沈黙した。

「ぇぇぇええええぇぇぇ……!?」

 驚愕して、靴置き場にずっこけてしまう。

「だ、大丈夫?」

「ハイ……」

 彩香の手を借りて、体を起こす龍介。

「ふふ…もう、着替えくらいでそんなに驚かないでよ」

 彩香は微笑して、龍介の頭を軽くぽんぽんと叩く。

(いえ、普通に純情な男子なら驚いてしまいます)

 心の中で、そう切り返した龍介であった。

「それじゃ、私の部屋に行きましょ」

 彩香に案内されて、彼女の部屋の前まで来た。

「ここで、少し待っていてね」

「わ、わかりました」

 パタンとドアが閉まって、龍介は1人取り残される。

(わーーーー、どうしようどうしよう!? ドアの向こうで彩香さんが着替えてるよー!? 何で、こんなに無防備に、男の子をここまで連れてきちゃうの!? ねぇ、これが普通の女子なの!? それともこの状態がレアケース!?)

 心の中でパニック状態になっている龍介。頼れる親友の豪は、今日は風邪で休んでいるから連絡できない。かといって、片想いの優香に電話で助けを求めるのは、酷だろう。

 彼のパニック状態を知らない彩香は、鼻歌を歌いながら着替えていた。ドア越しから聞こえてくる制服のシャツが彼女の肌を擦れて、脱いでいく音。放り出されるスカート。

(もし、もし、優香さんに電話で連絡したら…)

『龍介くんって……実は、奥手な振りをしたドスケベライオンだったんですね……?

そんな人じゃないと信じていたのに……さようなら。ツー、ツー』

(こんなことを言われてしまうんじゃないのか―!?)

 さらに、ひどい状態へと発展していく龍介の妄想。これも思春期にある特徴のひとつといえるだろう。戦闘時に、何度も彼を導いた空想がこんな形で発揮されるのはすごく残念に思う。

「お待たせ。着替えがおわったから……」

「あ、ひゃい!」

「どうしたの? 顔が真っ赤だけど」

「い、いえ、なんでもありましぇん!」

「んー、緊張して噛んでるね。よし! 入って」

「え?」

 龍介の片腕を掴んで、力任せにベッドに放り投げた。

「うぼっ!」

「どう? すこしは、すっきりした? 緊張した時や嫌なことがあったらベッドに飛び込むと大体がすっ飛んじゃうんだよね」

 あはははは、っと笑い飛ばす彩香。

(いえ、むしろ悪化しています! 彩香さん…!)

 どくどくと血脈が騒ぎ立て、龍介の心臓をお祭り状態にさせる。

(女の子ベッドに放り投げられて、正気でいられる自信は君にはあるか!? あえて言おう! 俺にはない!)

 龍介の脳裏に2つの選択肢が現れた。

1:彩香を押し倒して、襲い掛かる。

2:このまま脱走する。

(俺は……この答えを選ぶぜ!)

龍介が選んだ選択肢は―……

「………きゅぅ」

 ……失神するだった。

「え? ええ?? ちょっ、龍介!?」

 彩香は慌てて、龍介を抱き起こした。

「あちゃー、気絶しちゃっている…。何がいけなかったんだろ?」

 うーんと悩む彩香。振り返ってみても、彼女にとって「何も問題」と思える行動を起こしたことはない。ごくあたりまえのことをしたまでだった。しかし、現に龍介が気絶してしまっていることには変わりはない。

「んー…確認するにはいい機会かもね」

 そう言って、彩香は龍介の上着の内ポケットに入っているカードホルダーを取り出して確認した。

「やっぱり、彼もそうだったんだ

 彩香は、机の一番上の引き出しから、水の龍を操っている女戦士のカードを取り出した。

太陽の龍、ドラグーンソールの適合者。巽川龍介

 彼女は、いくつかの推論を予め立てていた。

 一つ目の推論は、ドラグーンソールの第5話と第6話では、戦い方が全く異なっていたこと。第5話までの戦い方は、頭脳型で敵の弱点を探りつつも自分自身の能力も確かめていた。しかし、第6話では、「戦闘に慣れていない初心者が戦っているようなものだった」といえる発言や戦闘スタイルが力任せといったことにある。

二つ目の推論としては、「ドラグーンソール」の戦い方を知らないこと。いわば、「強みと弱み」を知らないことだ。ドラグーンソールは主に近接戦を軸にして戦っている。格闘技でたとえるならば、ムエタイや空手といった徒手空拳や肘や膝といった体を武器にしているのが特徴といえる。それが、ドラグーンソールの強みだ。しかし、弱点が露出したのは、翼竜ワイバーンとの戦いだ。遠方からの攻撃に弱く、長距離戦に持ち込まれたらほとんどなぶり殺しに近い状態に追い込まれてしまう。

そして、最後の推論としては親友の優香を守るように颯爽と現れて、去っていくことから彼女の危機を真っ先に察知できる立場にいる人間と条件が限られてくる。

ワイバーン戦や、九尾の狐では豪がCG加工されて出ていたことから踏まえて推理することから、消去法として巽川龍介がドラグーンソールだと答えが導かれる。

「残るは、どうやって彼に私の話を聞いてくれるかどうかってことよね」

 彩香はカードホルダーを龍介の上着の内ポケットに入れ戻しておいた。

「……これまでの戦いからして、あちら側の人間ではないことは確かね。アクア」

<そうね。ドラグーンソールには、あのカード…「コア」がなかった。となると彼にドラグーンソールのカードを仕向けた人が持っている可能性が高いわ>

「そう、ね。……何も知らないみたいね。ユグドラシルの事、もうひとつの世界」

 彩香自身も謎を追っていた。しかし、彼女独りでは調べることにも限界が生じてしまう。

幸いなことに、協力者となるべき人間―龍介が見つかったことはうれしい発見だ。

「アクア、今のところ異常はない?」

<はい。現時点では、異常は見つかりません。しかし、私が探知できるのは水を介した侵入のみです。それ以外となると…ルーガルーを仲間にしているソールの力が必要になるでしょう>

 ドラグーンアクアは、不安定なドラグナーである。ドラグナーとは、「龍の力」と「龍の魂」を併せ持っているドラグーンのことである。しかし、ドラグナーの力は神に等しきものであり、龍介たちの世界にどんな影響を及ぼすかはわからない。ドラグーンソールやドラグーンシルフといった2つの存在は「力」だけで、彼らの「魂」は存在していない。その代わりに、人間が変身することによって、神に等しき力を扱うことは可能である。

また、力の発現―いわゆる技は、ドラグーンの力の片鱗である。

例えば、接近戦で強いソールは拳系で、対象物を燃焼させる力が付属されている。ドラグーンの力をどこまで引き出せるかは、カードを持っている人間の意志の強さに比例される。

そのことを知っているのは、現時点では水野彩香だけである。

「そう…。まぁいつ現れるかわからないから、彼に勉強のコツを教えておかないと」

 窓のほうで何か物音がしたので、近づいてみると学校でよく見かける白猫だった。

「なーん」

 彼女は窓を開けて、白猫を招いた。

「なんだ。みーか。最近よく来るな…おまえには関係ない話だから、帰ったほうがいいよ」

 彩香は、白猫に「みー」という名前をつけており、頭をなでた。

「ん……? ん?」

 アクアは龍介が起きだしたことに気づいて気配を消した。

「どうやら、やっと起きたみたいだね。龍介」

「あれ? あ…ああああああああ」

 龍介は今の状況を把握して、胸がドキドキと高鳴っていた。

「ん? そんなに赤くなるなって、緊張しないしない。ねぇ、みー」

「にゃー」

「え? 猫? この猫って、彩香さんが飼っているんですか?」

 龍介は、彩香の腕に抱かれている白猫の存在に気づいて彼女に近づいた。

「いや、最近うちに懐いている野良猫だよ。たまに学校でも見かけるんだ。適当にミーと名前をつけているんだ」

「へー…かわいいね」

 猫の背中をなでて、気持ちが和む。

「さて、勉強のコツを教える約束だったね。キーワードは「クイーンの掃除だ」だよ」

 白猫のみーを窓に放して、振り向き際に話し始める。

「クイーンのそうじだ?」

「うん。「く」は、くくりや分類。例えば、白熊とあざらしは、動物と分類することができる。「い」は、因果関係どういう関係なのか。食物連鎖の因果あるよね」

「はい。そこまではわかります」

「うん。オーケー。「そ」は相関関係こういった関係があるから因果関係が成り立っているという説明の補強なんだ。「じ」は順序。物事には順序があるから、どうなっているのかを知る必要がある。最後の「だ」は大小。物事の大きさと小ささを比べること」

「へー、こんな勉強法があるんですね」

「うん、これは歴史や化学の周期表にも使えるからね。何も「クイーンの掃除だ」を全て使って当てはめるんじゃなくて、当てはまりそうなものに使うとわかりやすくなると思うよ」

「ちょっと、メモさせてください」

「いいよいいよ」

 龍介は、「クイーンの掃除だ」をメモして家に帰ったら早速使ってみようと思っていた。

 彩香はいくつか簡単な質問をしようと微笑んで待っていた。

「龍介、いくつか質問するけどいいかな?」

「はい。どうぞ」

「英語と数学はダメでしょ?」

「その通りです。どうしたら、いいんでしょうか?」

「うーん、そうだねぇ。それじゃ、ついでに英単語を覚える方法も教えよう。今回のテストで数学は将来投資のために、つまずいた部分からやり直すことを約束してね」

「わかった。英単語を覚える方法って?」

「うん。14単語の法則って知っているかな? Mistranscribe で14単語の意味を調べることで語彙が広がっていく。英単語も分類して覚えればいいってわけ」

「それじゃあ、テスト範囲となるかもしれないところの英単語を分類して暗記しておけば、それなりの効果が出るというわけか」

「そのとおり。すぐに効果がでるかどうかわからないけど、やってみる価値はあるよ」

 すぐさまこのことをメモする龍介。

「それじゃ次の質問いくよ。あなたは、ドラグーンソールでしょ?」

「ええ、そうなん…え?」

 龍介は危うく「そうです」と答えそうになった。

 冷や汗がつうと背中を伝う。

(え? ばれてる?? 彩香さんにばれてるの!? なんで!?)

「や、やだなぁ。彩香さん。そんなわけないじゃないですか」

「ドラグーンソールに変身するには、変身する個体の名称をいわなければならない。ちがうかな?」

 ドラグーンソールに変身する方法まで知っているとなると言い逃れはできない。

「……どこまで、知っているんですか?」

 龍介は覚悟を決めて、彩香に問いかける。

「あなたがドラグーンソールで、ルーガルーと仲間。そして、変身してから間もないことくらい、かな。私もあなたと同じ戦士でドラグーンアクア」

「ドラグーンアクア…?」

 龍介は、真剣な眼で彼女を見る。

「これから」

<大変です。彩香! 街の河に怪人が出現しました!>

「わかった。龍介、一緒に来てもらうよ!」

「えええ!?」

 2人は、玄関まで向かってすぐに靴を履いた。

「召喚、アクアドルフィン!」

 黒と白のシャチのようなデザインの大型スクーターが現われた。

「さあ、乗って」

「は、はい!」

 ヘルメットを投げ渡された龍介はそれを被って、彩香の後ろに乗る。

「しっかり掴まって、飛ばすよ!」

 エンジンが唸って、路面を走っていく。

 スクーターが海を泳ぐシャチのようにスイスイと車を追い越していく。

 スクーターの性能がいいからか、それとも彩香の運転技術がいいのかわからないが、風を流して進んでいることがわかっていた。

「変身! ドラグーンアクア!」

 彩香の腰にカードスロットベルトが現われて、カードが全て挿入される。彼女の体を水が包み込んで、波紋が腹部を中心に広がっていく。青色の手袋に両足にはハイヒール。首に巻かれている白いマフラーをなびかせて街中を疾走する。

「見えた!」

 見ると、警官とタコの怪人が戦闘を繰り広げていた。

「撃て! 撃って撃ちまくれ!」

 4人の警官が銃で発砲するがタコの怪人には全く効かない。そればかりか、タコの足で絡め取られて放り出されてしまう。

「がふっ…!」

「ぐあああっ」

「た、助けてくれー!」

 パトカーが足の1つで持ち上げられて、放り投げられて激しい音を立てながら、道路の上を玩具の車のように転がって破損していく。

「ドルフィンブレイカー!」

 スクーターのスピードを最大限にした。その勢いに乗せてジャンプしてタコの怪人に体当たりして、スライディングターンをしたドラグーンアクアがスクーターから飛び降りて登場する。

「地球の平和を穢す、化け物よ!」

 天に手のひらを翳して、十字に切る。その場でくるりと回って、白いマフラーを風に流して啖呵をきる。

「このドラグーンアクアが浄化させます!」

「貴様が、ドラグナーか! ユニオンの大儀のために、おまえを倒す」

 警官たちを投げ捨てたタコ怪人は、標的をドラグーンアクアへと変更した。

 タコの足6本が伸びて、襲い掛かる。

「彩香さん!」

 龍介は、変身して加勢しようと思った。しかし、彼女の体を直撃した時にドラグーンアクアは霧散した。

「!?」

「え!?」

「こっちよ! タコ怪人」

 声がしたほうに視線を移すと河原に、ドラグーンアクアが立っていた。

「何もしないまま、啖呵を切ったと思って?」

「くそ! 舐めた真似を!」

 砂利を払って、タコ怪人は接近する。

「アクアイリュージョン!」

 人差し指で円を描くと、彼女の分身ができた。

「なっ!? 増えただと!? だが、これは幻に過ぎない!」

 八本全ての足を攻撃に回して、8体のドラグーンアクアを倒した。

「ええ、幻にしか過ぎないわ」

 宙を舞って、タコ怪人の背後に回って、蹴りを放つ。

「こうやって、戦うことくらいには充分よ!」

「ぐう! 貴様」

 河に蹴り落とされるタコ怪人。

 ドラグーンアクアは河に飛び込んで、タコ怪人に接近する。

「彩香さん!」

(ダメだ。タコ怪人は元々海の怪人。奴のほうが有利だ! 俺も変し…)

 しかし、彼女は軽くブイサインを作って、龍介に送る。

 タコ怪人の足すべてが、ドラグーンアクアに襲い掛かる。しかし、彼女は流麗に足を避けて本体に接近する。水中から拳を叩き込んで、打撃系の技を繰り出す。

(軟体動物だけあって、感触は心地よくないわね。骨とかあれば、関節技とかで応えようがあるんだけど…手ごたえがない。さて、どうしたものか)

 タコ怪人は水中で攻撃を受けて、泳ぎ回る。

(一気に決めるしかない)

「ウォーター…」

「これだとおまえはわからないだろ?」

 タコ怪人は一気に大量の墨を吐いて、河を真っ黒に染め上げた。両者の視界が奪われた。

「くっ……仕方ない」

 ドラグーンアクアは、河から胸から頭まで出して周囲を見渡す。

 その時に、タコ怪人が張った罠の意図に気づいた。

「しまった! これは…きゃあっ」

 両足、両手、腰にタコの足が巻きついて、水中に引きずり込まれた。

 ドラグーンアクアの口から泡がいくつも湧き上がる。しかし、追い討ちをかけるように首にもタコの足が巻きついて離れない。

「油断したな。ドラグーンアクア。いくら、ドラグナーとはいえ人間が変身したものにすぎない。ここで窒息死の恐怖に溺れながら、骨を砕くのもいいだろう」

 ぎりぎりと、ドラグーンアクアの両腕、両足を広げて、関節を外そうしている。

「……!!」

(敵を甘く見ていた。いつものように倒せると思っていた。でも、まだ切り札はある。

ここには、本当のヒーローがいる…!)

 彼女は信じていた。親友の優香をいつも守っていたヒーローが助けに来ることを。

太陽がある限り、彼は現われる。

「ソールスピンクラッシャー!」

 河を引き裂いて、太陽の弾丸がドラグーンアクアを捕らえていた足を引きちぎった。

「ギャアアアアアアア…! だ、誰だ!?」

 向こう岸の河原には、彼が錐揉み蹴りによって砂利が焦げた跡が残されていた。真紅の龍戦士がゆっくりと振り返る。

「俺は、太陽の龍! ドラグーンソール!」

 両腕で十字に空を引き裂いて、両手の拳を強く握り締める。

「ど、ドラグーンソールだと!? 馬鹿な! ドラグーンソールは一度倒されたはず!?」

 タコ怪人が動揺していた。

(ドラグーンソールが一度倒された? いったいどういうことだ? それよりも!)

「セリア、あや…ドラグーンアクアを頼む!」

「ふむ。異常な気配を感じてきたのがよかったな。娘。大丈夫か?」

「はい、なんとか。ドラグーンソール。敵は、打撃系は効きません。一気に肩をつけるには、剣による一撃よ」

 ルーガルーのセリアの背中にドラグーンアクアが横たわっている。

「わかった」

 瞬間的に距離を縮めて、渾身のソールナックルでタコ怪人の顔面を殴り、叩きのめす。

 橋の下まで吹っ飛んでいくタコ怪人。

「ふむ。これはいつもより怒っているな。龍介が戦っている相手はダゴンの仲間であるクラーケンか」

「クラーケン? それは、伝説上の生き物で大王イカとか大タコの一種で18世紀の漁師たちから恐れられていた化け物」

 ドラグーンアクアは、敵のタコ怪人―クラーケンとドラグーンソールの戦いを見守る。

「あたしも加勢に…」

「今はやめておいたほうがいい。龍介の強さを知りたいのなら、ここは彼に任せてはどうだ? 人間の娘」

「……そうですね。仮にも「男」ですから、守りたいものに対しての思いは強いでしょう。でも、危なくなくなった時は止めても無駄ですよ?」

「言うてくれる。私も最初から止まる気もないからな」

 ちょっとばかり、戦闘に関しては手が早いお2人です。

 一方、タコ怪人であるクラーケンの鞭攻撃を間一髪で避け続けているドラグーンソールは攻撃にでることはできなかった。足場が不安定な河ということもあってか、戦いが長引いてしまった。

「くそっ、攻撃することができない!」

「どうした。ドラグーンソール! 避けてばかりでは、俺を倒すことはできないぞ」

 クラーケンは、再生できた1本の足を鞭代わりにして攻撃をしていた。

 両者の意思には関係なく、河は流れ続けている。

 緊迫した空気の中。水平に2人は数歩走り出して、攻撃のタイミングを計る。

(このまま、長引けば奴の再生能力は活性化する一方だ。だが、どうする? ソールスピンクラッシャーのように、威力が高いものじゃないと奴を倒せない…!)

 彼は、ドラグーンアクアが言っていた。「剣」と太陽……そして、まだ使われていない必殺技からインスピレーションを閃いた。

「食らえ!」

 左腕をタコの足にからめとられて、そのまま投げ倒されてしまう。

「うああっ」

「ふははははっ、最強の龍戦士と謳われた英雄がどこの馬の骨とも知らぬ人間が変身しては、ただの弱者にしか過ぎない! 弱きものはより強きものの糧となるために存在する!

そう、強いものが弱いものをどう扱おうが構わん! それこそがユニオンの目指す大儀!」

「好き勝手なことを言っているんじゃねぇよ。タコ怪人!」

 右手で、からめとられたタコの足を強く握り締めて、タコの足にある血管を潰して出血させた。

「弱いものを助けられない社会なんて、ただの張りぼてにしか過ぎない! 強いものが弱いものでも生きられる世界にするのが本当の強さだろう! 強いものだけが生きる世界など! 愛のない世界と同じだ! 誰かを好き勝手に扱うのはただの暴力にすぎない!」

 右手にさらに力を込めて、タコの足を握りつぶして引きちぎった。

「ギャアアアア!」

 クラーケンは数歩よろめいて、悲鳴を上げる。

「ソールソード!」

 右手を左腰にあてると、剣の柄が出てきた。ドラグーンソールは剣を引き抜くように柄を握り締めた。

「太陽の光よ! 悪しき魂を焼き尽くせ! 剣よ! 太陽の光を呼べ!」

 剣を両手で持って、切っ先で円を書く。太陽の光が、剣に宿る。

「いくぞ!」

 ドラグーンソールは、走り出した。

「く、くるなー!」

 クラーケンは、墨を吐いて視界を奪おうとする。しかし、ドラグーンソールは空中を、膝を抱えて飛び前転した。

「ハアッ!」

 ソールソードがクラーケンの胴体を貫いた。

 貫かれた背中から火花が散る。

「ぐ、く、あ…っ!」

「ソールクラッシュ!」

 胴体から剣を引き抜いて、左肩から右わき腹に切り落として、ドラグーンソールは大きく後ろに飛びのいた。そして、敵に背中を向けて、切っ先でメビウスの輪を描いた。

 太陽の炎が爆発して、クラーケンを飲み込んだ。

 ドラグーンソールの腰のベルトにクラーケンのカードが挿入される。

「今回のは、カードになった。一体、どうして? ユニオンって何なんだ?」

 夕焼けが染まる中、水野彩香の家の近くの公園で龍介、彩香、ルーガルーのセリアがいた。

「話をするけど、これからは私たちに協力してほしい」

「タコ怪人―クラーケンが言っていた。「ユニオン」が背後から糸を引いているからですか」

「ああ。でも、それだけじゃない。アクア」

<はい。初めまして、巽川龍介、ルーガルーのセリア。私はドラグーンアクアの「魂」です>

「なっ、生命の水を司るアクアだと!?」

「え? それってすごい人なの?」

「ばかもの! ドラグーンソールが太陽の龍。で命の審判者ならば、全ての命の活力となる水を司っているのがドラグーンアクアだ。しかし、何故、アクアが?」

<それはいずれお話しましょう。簡潔にいえば、彩香と出会ったのは今年の1月です。そして、今現在に至るまで戦い続けていたのです>

「そういうこと。独りで戦っていると、限界は来る。そこで、最近活躍している「ドラグーンソール」の正体を暴いて、コンタクトを取ろうと思っていたんだ」

 彩香が続けて話した。

「なるほど、これである程度の合点はいった。して、龍介。日曜日のこと話してあるか?」

「うん、一応。でも、急に見つかるのは何か都合が良すぎるというか上手く行き過ぎているような気がするんだ…」

<……彩香?>

「龍介の言うことも一理あるかもしれない。でもこれだけは言わせて欲しい」

 彩香は照れくさそうにはにかんだ笑顔で言った。

「あたしを助けてくれてありがとう」

 町の忘れられた場所にある公衆電話のボックス。今時珍しい公衆電話で、妙齢の女性がある処に電話をかけている。

「ドラグーンソールとドラグーンアクアの人物を割り出しました。通っている高校も把握しています。…はい。今後も彼らの監視を続けます。悟られないように配慮しておきます。

美奈子が取り逃がしたハイエルフリーシを見つけ次第報告します。それでは…」

 彼女は受話器を置いて、公衆電話のボックスから出て行った。

「彼らを追えば、いずれハイエルフも見つかると思う。ドラグナーは、惹かれあう。

巫女のミレディに先を越される前に手筈を打っておかなければ」

 紀野みなみは、路地裏を歩いていくと白い猫に変身した。

 あとがき

もげろ、龍介もげろ! フラグ建築しまくるな!! (フーフー!! 威嚇しております)

さて、色々と話が進んできたドラグーンソール。敵側も動き出し始めました。

敵を出すのに時間がかかったのは初めてです。最近のライダーは「欲望」をテーマにしているといいますし、戦闘シーンは最新のCG技術とワイヤーアクションを使っていますが、昭和みたいに肉体派のアクションはないのですかね。(難しいだろ?)

 ドラグーンシリーズもこれで3体目。敵の配役もある程度目処が立ってきたのでどうやって動かすかということになります。


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