「小説」龍戦記 ドラグーンソール 第8話
龍戦記ドラグーンソール
第8話 風と電気と破壊の影
荒川美奈子は、携帯電話を取り出してユニオン機関の同僚、紀野みなみに電話をかけた。
「はい。美奈子ね?」
「ええ。みなみに探して欲しい人がいるの。この間の日曜日に、ハイエルフのリーシと一緒にいた人間が見つかったわ」
「それで? 名前ぐらいはわかっているんでしょうね?」
「つよしといっていたわ。背の高さが170センチ前後、そしてもう1人、背の小さい男の子でりゅうすけと呼ばれていた子がいたわ」
「……なるほど。私が行く修繕高校の屋上で食事をしている学生の名前で「豪」と「龍介」はいたわ。おそらく、その2人だと思うわ。どうするの?」
「ちょうどいいわ。その2人を監視して、ドラグーンソールの放送がされた日に何かしらのアクションを取ると思うの」
「そう。なら、1ついいこと教えてあげるわ。巽川龍介という子、ドラグーンソールよ」
「なっ……!? ソールのコアカードは行方知らずで、まだ生きているってことは適合者として認められているわけ!?」
美奈子は驚いた声で言った。
「たぶん、ね。おそらく、ハイエルフのカードは豪って子が持っていると思うけど……どうするつもり? 真っ向から行ったら、勝ち目はないわよ?」
「大丈夫よ。成り立てのドラグナーなら、私の電気に敵うわけないわ」
美奈子は強気で言った。これまでの幻獣や竜、モンスターをカード化させてきた実戦経験があるのだ。
「瞬間移動能力を持っている。雅にも連絡するわ……そして、シルフのカードを奪う!」
ユニオンの超能力部隊が、動き出した。
ドラグーンソールの放送日は、2話連続のスペシャル版だった。
突如最初の番組は龍麗姫 ドラグーンアクアに出たドラグーンソール。
そして、この間の日曜日に行った製作プロダクション編の戦いだった。
「んー、今思えば……亜衣ちゃんに言った台詞。臭かったな」
「ああ。この上なく、恥ずかしい台詞ね」
豪とリーシはドラグーンソールを見て言った。
「思ったけど、電気娘って超能力者じゃないか?」
「超能力者? なんだそれは?」
リーシが尋ね返す。
「ああ。超能力者というは、自分の意思で火を発火させたり、物を動かしたりすることができる人間のことをいうんだ。アメリカでは、超能力開発研究なども行われていたらしい。上手くいけば、戦争等せずに暗殺とか簡単にできるってわけだ」
「ほう。他にはどんな能力があるんだ?」
リーシが興味を持って、聞いてきた。
「そうだな。火を操る能力はもちろん。物を動かしたり、浮かせたりする能力や瞬間移動能力なんかもある。後は念写や人の心を読み取る能力とかな」
「確かに、色々と使えそうだな。人間がそのような能力を欲するのもわかる気がする」
「まぁ、な。でも、超能力を持つって事は、異端者になるってことでもあるんだよな」
「異端者? 中世で行われていた魔女狩りみたいなものか?」
「乱暴な言い方だけど、それだな。普通の人間にとって、超能力者は怪物や化け物みたいなものなんだ。普通の人間がそういった行動に移るときの心は恐怖心、恐れ、何されるかわからないことからの脅えだろうな。こういった人間の感情は、一人一人ならそう怖くはない。しかし、それが2人、3人…大勢になればなるほど、感情が高まっていき凶行に走っていく。生物の立場で言えば、生存本能と説明できる」
豪は淡々と説明する。
「何か、嫌なものだな。怖いからといって、他人を排除するなんてものは…。私たちの住むユグドラシルは、他の種族の衝突が起きないように区別されているがそれでも争いはある。今は、ドラグーンアクア、ソール、シルフ、ジュピターの活躍のお陰で大きな騒ぎになっていないのが幸いだ」
「そうだな。……だが、ユニオンの奴らは何が目的なんだろうな? やっぱり、リーシが言うように、破滅の竜の復活か? だとしてもどうやって、復活させるんだ?」
「それはわからない。でも、私たちにはコレがある」
リーシはそういって、豪のパソコンを起動させて個人ブログを開いた。
「ドラグナーズというブログを作って、情報収集をしている。ネットの海は広大だな」
「って、おまえは! 勝手にブログ作ったのか!?」
「いいではないか。こういったブログを作って、情報を集める。アクセスするたびに、流れる「はじめてのチュウ」! これで足を運ばない奴はいない!」
情報を集める手段はあながち間違っていないが、曲自体が間違っているリーシ。
「ずれてる! 絶対にずれてるぞ! リーシ」
「何故だ! 人間は恋愛ものの歌が好きと私なりに調べてわかったことなのだぞ」
「いや、そこは…否定はしないけどよ。もう少し、曲のセンスを考えようぜ」
「むぅ。私が好きなのに…」
豪の反応を見て、リーシは、ブログを再編集する。
翌朝、豪は龍介にそのことを話した。
「なるほどねぇ。情報集めのために、ブログを作ったと。それはいいんじゃないかな?
曲の選択は別にして、敵の動きを知るには一番だし」
「ああ。しかし、アイツの趣味がわからん。何故、キテレツ大百科の「はじめてのチュウ」なんだ。同年代で知っている奴なんていないぞ」
電車の中で2人は話す。
「んー、社会に馴染むためにカラオケにでも行く?」
「カラオケか。それもいいな」
電車は、桂優香が住む駅に停まると、彼女が乗ってきた。
「おはようございます。龍介くん。犬飼くん」
「おはよう、優香さん」
「おはよう。いきなりで悪いですけど、桂さんってカラオケに行きます?」
「いえ、そういったところは全く行ったことないですね」
「え? 彩香さんと行ったりはしないの?」
「はい。彩ちゃんもそういった経験もないかと…」
(すげー、カラオケに行ったことのない女子高生。今時めずらしい…おっ)
ピーンと豪の悪巧みが思いついた。
「それじゃ、桂さん。今日のお昼に、水野彩香さんも交えて話しませんか?」
「何を話するんですか?」
「カラオケ大会です」
「カラオケ、大会ですか? でも、カラオケって、自分が好きな歌を歌う場所のはずでしょう? 盛り上がることなんてできるんですか?」
優香は娯楽関係に疎いので、全くわからない。
「まぁ、そうだね。でも、カラオケには採点機能があって、何点出せるかを競えるんだ」
「しかも、ランキングに殴りこみもできる。何万点出せるかも熱くなるぜ!」
学校のある駅に着いて、電車から降りて話を続ける。
「一番なのは、ネタで走るか自分の十八番で行くかということだね」
「ネタはあまりないだろ。機種にもよるし」
「え? カラオケの機種もあるんですか?」
「ええ、DAMやUGAとあと、カラオケに入れて欲しい曲なんかも頼めますよ?」
地方によって、アニメのキャラソンがぎっしりと詰められていたり、ちょびっとしかなかったりもする。人気のないアニメなんかはカラオケにすらなっていなかったりとすることもある。ちなみに作者が好きなデジモンシリーズはテニスの王子様の枠で埋められていた。
「そうなんですか。龍介くんや犬飼くんはよく行くんですか?」
「そうだねぇ。最近行っていなかったからねぇ。久しぶりに行こうかな~って」
「ああ。学生だと割引サービスとかもあるからいいんだ。まぁ、夏場は宿題する場所として利用していたからな」
カラオケで宿題をするという豪は、稀である。
「さすがに、カラオケで宿題をするのはどうかと思います」
「ま、カラオケでストレス発散には最適ってことだ」
高校の校門の上に白猫がじーと龍介たち3人の様子をみる。
(ふむ、犬飼豪、巽川龍介、両者確認。女子生徒の桂優香は対象外。…彼らはいつも通りなら昼休みに屋上に向かうはず)
白猫―紀野みなみはドラグーンのカードを持っている2人を監視していた。彼女は、猫の姿をして諜報活動をしていた。
(しかし、アレよね。いくら変身できるとはいえ、諜報活動するってどういう人選よ。かといって、実務部隊をこの学校に潜り込ませるのは簡単といえば簡単だけど……どうなるかしらね)
ユニオンの末端機関である超能力部隊の上に実務部隊として、2つの種族が存在する。
吸血鬼と飛天の種族だ。吸血鬼は名前の通りのだが、飛天とは天使、悪魔の種族を示している。超能力部隊が束になっても敵わない敵相手に構成されている。
(まぁ、屋上にでも…って!?)
みなみは移動しようと思っていたが朝の高校付近で黒いドレスを着て、金色の髪のストレートへアの女性を見て、嫌な汗が出た。
(きゅ、吸血鬼の女王のフェリスがなんでここに? い、いや、それよりもフェリスが出るほどの事態なのか)
フェリスは、龍介たちとただ、すれ違っただけだった。
「おっ、今の子すごくかわいかったな。外人か」
「んーでもどーかっで、見たことあるようなないような」
「でも、綺麗な人でしたよね。モデルか何かやっているんでしょうか?」
豪たちは、先ほどすれ違った外人の話題に触れていた。
「男の人って、ああいうのが好きなんでしょうか?」
「え?」
優香の一言に、顔を見合わせる龍介と豪。
「な、なんでもありません!」
そういって、彼女は走り去っていった。
昼休み、4人で弁当をつついていた。
「なるほど、カラオケかぁ。あたしも行ったことなかったかんだ。交流を深めるにはいいね。テスト対策は万全だしね」
水野彩香がそういった。
「ぐはっ、ドラグーンソールのことばかり考えていて、正直忘れていたぞ! やべぇ、まじでやべぇ! 今回のテスト落としたくねぇ」
豪は頭を抱えて悶えていた。
「今からでも遅くないんじゃないかな? 再来週テストだしさ」
「なんでおまえは、余裕なんだよ! 龍介」
「そりゃぁ、彩香さんに勉強教えてもらっているから。ねぇ」
「ああ」
「ひど! 学年才女から教わるなんて、モテナイ同盟を裏切る気か!?」
「誰が、そんな同盟に入ったってーの! いつできた!?」
男2人の痴話喧嘩が始まった。
「特撮談義でブートキャンプをした日々を忘れたとでも言うのか」
「だから、いつしたっての! ブートキャンプってビリーか!」
そのやり取りに、笑う優香。
「あははは。面白い、やり取りですね」
「優香…そうだね」
彩香は去年の優香を間近で見ていたからわかる。こんなに明るくなった彼女を見るのは初めてだからだ。
「ま、カラオケはテストが終わった休日ということでいいか」
「豪、態度変わりすぎ。ジャンルはフリーだから、何を歌ってもOK!」
屋上の貯水塔の下で白猫に変身した紀野みなみが監視を続けていた。
「この様子だと、放課後まで何事もなさそうね」
(ドラグーンアクアの水野彩香。 ドラグーンアクアの特設動画サイトにて29話まで公開されている。しかし、ユニオンの核となっている奴の素性がわからないのは、悔しいわね)
みなみはユニオンの行動目的を探るために単独で調査をしていた。しかし、わかったことは上位のクラスが超能力部隊よりも力が上だということ。渡り合うにはドラグーンの力がなければいけないということぐらいだ。
「しかし、フェリスが動き出すとは何かあるのか? ああ、高校3年生なのにどうしてこうも仕事ばかりが増えていくんだろう」
彼女の高校は、単位制の高校なので卒業するには何の問題はないが、受験が問題である。
嘆くな、みなみ。がんばれ、みなみ。日常の悪魔。勉強に負けるな。
放課後、豪は夕食の買い物をしないといけないことを思い出した。
「あちゃー、そういやリーシが着てから、食べる量も変わったんだよな。あの腹ペコエルフが着てから料理に張り合いがあるからいいけど、どうしたものか」
校門から、他の学校の女子生徒が2人やってきた。
「見つけたわよ。犬飼豪」
「おまえは、電気娘の荒川美奈子」
「電気娘というな!」
美奈子が訂正させる。
「ここではまずいので、来てもらいますよ」
豪は周囲を見た。まだ在校生もいる放課後時に、ここで騒ぎを起こしたら怪我人がでるかもしれない。そればかりか、「戦いの噂」が広まるかもしれないことを危惧した。
「……わかった。不意打ちはなしだぜ?」
「それは守るわ。私だって、不意打ちなんてことは嫌いだから」
修繕高校の校門を出て、2人に連れて行かれる豪。
「この辺なら、問題ないですわね」
「ええ。お願い」
栗色のツインテールの女子高生が美奈子と豪に触れると、3人はその場から消えた。
次の瞬間、3人はスクラップ工場に姿を現した。
「なっ、おまえは瞬間移動能力者か!?」
「ええ、まだ名前は言っていませんでしたわね。私は、愛野雅。荒川美奈子の後輩です」
「その様子だと、ある程度考えを踏まえていたわけね」
豪は、2人から距離をとって離れた。
(超能力者じゃないかと踏んでいたが、マジだったか。逃げるにしても場所がどこだかわからない上に、瞬間移動能力者もいるんじゃ詰んだも当然だ)
「おまえらの目的は、ドラグーンシルフか?」
「そう。ハイエルフが持っていたカードはそれなんだ。じゃあ、早速だけど」
美奈子の体が放電される。
「あんたには悪いけど、倒して奪ってあげる」
「ドラグーンシルフ!」
美奈子の電撃と同時に豪はドラグーンシルフに変身する。
電撃を回避して、距離を置いた。
「やるわね。でも、攻撃できなきゃ意味ないわよ」
美奈子の右手に電気が蓄積されていく。
「…くっ」
(くそー、相手は女の子の上に超能力者って、反則じゃないか! 傷つけるわけにもいかねーし、手加減した上で勝てってどんな無理ゲーなんだ!?)
「愛野! 俺の鞄を持っていてくれ! 戦いの邪魔になるからよ」
「わかりました。鞄はどの道。邪魔になりますからね」
雅は、シルフから鞄を受け取った。
(さて、ある程度充電できたから、いつでも放てる。場所をわざわざスクラップ工場にしたのは、電気を通しやすい障害物が多くあること。例え、壁にしたとしても電気を伝うから逃げ場はどこにもない! どう戦う? ドラグーンシルフ!)
「準備はいいわね!? ドラグーンシルフ!」
「くそっ、やるしかねーのか!?」
美奈子の指先から放たれる電撃を紙一重でかわすドラグーンシルフ。
「だー! これが怪物とかだったら、やりやすいんだけど! 人間相手に戦うのは無理だ! 無理無理無理!」
ミサイルの雨のように、電撃が襲ってくる。スクラップの山を飛び越えて、逃げるが電気がスクラップの残骸を通して蜘蛛の巣のように広がっていく。
(しかも、電気が死なないで金属片が多いスクラップの山に通電するのか!)
ザザザザ…っとスクラップの山を下って隠れる。
(用意周到ってわけか。どうする? 電気を通さない物質なんて、あるわけ…いや、あるか。ゴムや風は通さない。となれば、今使えるのは)
「隠れても無駄よ! 乱れ撃ち!!」
電撃が乱れ撃ちで、鉄や鋼を通電させていく。
「畜生っ、逃げ隠れもできねーのかよ!」
逃げの一手しかできないドラグーンシルフ。風の力で相手を倒すことは簡単だが、手加減して勝利を得るというのが難しい。「チェンジアップ」という多段変身が可能だが、どちらも下手したら、彼女を殺してしまう可能性があるので却下。そして、敵である美奈子が有利な地形のため、防御はできない。ドラグーンシルフの唯一の切り札は、「ファーニバル」のカードだ。しかし、どんな効果があるかはわからない。「わからない」からこそ、相手の裏をかくこともできる唯一の手段だ。
「やってみるか……っ」
シルフは、ファーニバルのカードを手にした。
「カード!? 何をするつもり!」
「さあな…? カードスラッシュ! ファーニバル!」
ベルトにカードを挿入して、0と1に数値化されたデータを読み込ませた。カードが光り輝き、彼らの目の前に緑の鱗の模様した竜型のバイクが現われた。
「こうなったか!」
ドラグーンシルフはバイクに跨り、エンジンを唸らせる。
「バイクが出たぐらいで、逆転できるとでも!?」
美奈子は電撃をバイクに跨ったドラグーンシルフに狙って放った。しかし、紙一重でバイクが動き出して、スクラップの悪路を走っていく。障害物のあるモトクロスバイクのように操縦して、バイクを操る。
「くっ、この! この! この!」
美奈子は両手から、電撃を放ち、電気がドラグーンシルフに襲い掛かる。だが、ドラグーンシルフは電撃を避けながら、スクラップの山をジグザクに走っていく。
「こいつは、楽だぜ。いくぜ、ファーニバル!」
アクセルを解き放って、速度を上げていく。エンジンが唸り、美奈子との距離を縮めていく。
「まさか、ここまでやるとは……成り立てとはいえ。甘く見ていたのは私のほうかもね」
美奈子もポケットから1枚のカードを取り出した。
「ドラグーンジュピター!」
雷が彼女に落ちて、黒のスーツに黄色のラインが入った戦士に変身した。
「雷光の龍! ドラグーンジュピター!」
「なっ?! アイツもドラグナーなのか!?」
「サンダービースト!」
雷の獣が吼えて、ドラグーンシルフに襲い掛かる。
「ファイアートルネード!」
炎の嵐を巻き起こして、雷の獣を食い止める。
「やるわね。でも、それは囮よ! 本命はこっち!」
彼女の右手が銃を撃つ構えになっていた。人差し指に膨大な電気が集約されている。
「超電磁砲!(レールガン)」
電磁砲が彼女の人差し指から放たれる。空気が引き裂かれ、周囲にあるスクラップの塊が抉りとられて無残に削られていく。
「ハリケーン!」
ドラグーンシルフは嵐を巻き起こして空高く舞う。間一髪で超電磁砲の一撃を避けることはできた。その代償として、ファーニバルが破壊されてしまった。
(今ので、最後の力を振り絞ったはずだ! 狙うのは、あいつの足場!)
「一陣の風よ! 天空に届く龍となれ! ドラゴンツイスター!」
竜巻が龍の形となって、ドラグーンシルフを包み、荒ぶる!
「風の…龍!?」
ドラグーンジュピターは驚愕していた。ドラグーンシルフにまだこんな力があるとは思っていなかったのだ。彼女の完全な読み違えによる敗北が決定した瞬間でもあった。
「おおおおおおおおおっ!」
「サンダーバード!」
残った力で雷鳥を解き放つが「ドラゴンツイスター」の前では、ただの電気でしかない。
「……完敗ね」
負けを認めたドラグーンジュピターの足場をドラグーンシルフが大穴を空けて、崩していく。竜巻が通った跡は、大きく抉られて、大地がむき出しになっていた。
「先輩!」
雅が瞬間移動で別のスクラップの塊の上に彼女と一緒に移動した。
ドラグーンシルフが2人の前に立った。
「…俺の勝ちだな」
「そうね。甘く見ていたわ。奥の手のレールガンまで避けられたなんて、想定外よ」
美奈子はドラグーンジュピターの変身を解いて立ち上がった。
「さ、やるならやるなさいよ。また狙うかもしれないし。厄介事はさっさと済ませたほうが身のためよ」
「そうだな…」
「せん」
「アンタは黙って、雅。これは私が挑んだ戦いよ。自分が有利になる条件で戦ったにも拘らず負けたんだから、遅かれ早かれ、消されるんだから―あと、コロッケよろしくね」
美奈子はそう言って、雅に最後の言葉を残す。
「はー……準備はいいか?」
「いいわよ」
そう言って、美奈子は目を閉じた。
「エアーカッター」
指先に見えない空気の刃を纏わせて、ドラグーンシルフは彼女の髪を数本切った。
「…え?」
「これでよし」
ドラグーンシルフは変身を解いて、切った髪をポケットに入れた。
「ちょっ、な。なななななな、何で殺さないのよ!?」
「はぁ? 俺は最初から殺すつもりはないっての。それに、電気娘だろうがなんだろうが知らないけどさ。おまえは「女の子」なんだろ? 好きな異性と恋や友達と友情深めてもいいんじゃねーの?」
「なっ!?」
美奈子は超能力者である自分が「女の子」として見られたことに驚いて頬を染める。
そればかりか、自分たちはドラグーンシルフを倒すつもりで来たにも拘らず、こんな言葉をかけてくれる男が目の前にいるのだ。
「また狙おうがどうだろうが勝手にしろ。それに、怖かったろ?」
そういって、美奈子の頭を優しくなでた。
「き、気安く触らないでしょ!」
顔を真っ赤にして、美奈子は電気を放電する。
「ぎゃああああ!」
感電して、ひっくり返る豪。
「あ、あんたの学校はわかったから、今度携帯電話の連絡先教えなさい……よ」
美奈子は明後日の方向を向いて、そういった。
「せ~ん~ぱ~い~」
にやにやとする雅。
「今のこと忘れなさい! 雅!」
「いーやーでーす♪」
ギャーギャーと騒ぎ立てる2人。周囲が夕焼け色に染まった時に、空気が一変した。
「何っこの空気」
「これは、インスペクター?」
「な、なんだ。インスペクターって?」
「私たちの世界とは別の世界から来る龍や幻獣のことをインスペクターと呼んでいるの。
この感じだと、かなり強敵よ……!」
美奈子と雅が警戒を強める。
彼らの前に空間が波のように揺れて、そこから傷だらけになった天使と悪魔がドサ…と倒されていた。
「飛天の中級悪魔と天使!? どうして2人が」
ユニオンの実務部隊では中級クラスの強さを持つ悪魔と天使が倒されていた。2人がかりでも敵わない相手は誰だろうか。
「おい、誰か来るぞ」
豪は、美奈子と雅に伏せるようにジェスチャーで伝えて、3人はその場に伏せた。
空間から、黒い鎧を纏い、首に赤いマフラーを巻いている騎士が現われた。
「俺の行く手を阻もうと戦い続けたのが運の尽きだったな。天魔」
背中から巨大な剣を片手で持って、構える。
「まだいるんだろう…? ドラグーンシルフ。ドラグーンジュピター」
強大な殺意を放つ騎士。放たれた殺気によって、美奈子たちは声すら出せなくなる。
「声すらだせんか。ならば……引きずり出すまでだ」
ジャキ…と両手で持つ剣ツワイヘンダーを片手で握りなおして、剣を大きく振った。
突風が吹き荒れて、スクラップの塊はごみ屑のように舞い上がり、美奈子たち3人は、黒い騎士が巻き起こした剣圧によって吹き飛ばされる。
「きゃあああ」
「くっ、ドラグーンシルフ!」
豪は変身して、風を操って、美奈子と雅を助けた。
「美奈子、雅! おまえたちは逃げろ! ここは俺が食い止める!」
「ちょっ、バカ言わないで! 私だってできるのよ!?」
「男が女を守ることができなくて、何がドラグーンだ。鞄の中に携帯が入っている。いざとなったら、龍介にでも連絡しろ。雅!」
「は、はい!」
雅は鬼気迫った豪の声に驚いて硬直する。
「美奈子を頼むぞ」
雅は頷いて答えた。そして、美奈子を連れて瞬間移動能力を発動した。
「人間が風の龍の力を使っているか。性格も奴に似て人情があるな」
「他の化け物と違って、おまえは話しやすいな。名前はなんだ?」
「破壊の龍。ドラグーンシュテールンク……我が剣は、シュテールンクツヴァイヘンダーだ」
大剣を担いで、ドラグーンシュテールンクが凍るような声で話した。
(デカブツの剣を一振りしただけで、突風を起こすぐらいって事は現時点では最悪な敵だ……こいつと戦えるのか?)
豪の鼓動が高まっていく。戦闘という命を削って戦うことの恐怖を体が知ってしまった。
逃げることは死につながる。それなりに鍛錬を積んできたが、本能的に敵わないと知ることができるのも1つの境地だ。だが、豪は負けるわけにはいかない。守るべき命がある限り、彼は戦うことを決める。
「どうした? 女子を逃がすための時間は十二分に与えたが、恐怖に呑まれて動けないか」
「いや……ドラグーンにしては紳士的だなと思ってね。あんた、何人の命を奪ってきた?」
「さぁな。それは剣に聞いてくれ」
剣を構えるドラグーンシュテールンク。
「行くぞ!」
剣を大きく振りかざして、ドラグーンシルフとの距離を縮める!
あとがき
どうしてこうなった。どうしてこうなった!
ようやく特撮ヒーロー物の展開となってきた本作品。色気あり、恋要素あり(主人公フラグ建築中つーか、もげろ、龍介、豪)、バイクアクションあり、(バイクはカッコいいね!)敵の行動も出てきた。
ドラグーンだけで、どこまで話ができるのか。作者次第です。おおぅ;
最近の仮面ライダーもバイクを使ったアクションが出てきたので「ライダー」らしくなりました。はっきりいって、昔のライダーみたいにシリアスな感じを出したいのですが、高校生のまったり会話の龍介たちの日常に介入するのは無理ですね。
今回最後でようやく登場した5人のドラグーン。彼の目的はなんなのか?
さて、コアキャラが確立したことで、脇役キャラを作っていきたいと思います。
サキュパスが企てる、龍介の友人を操った暗殺計画。(すみません、嘘です。
既に次の話はできております。ジョグレス進化する予定です。デジモン!)
次回のドラグーンソールは!
私は知らなかった。龍介君がいつも守ってくれたことに。
シュティールンクとの戦いで、目覚めない龍介君。
好きな人の為に、私ができることは、なに?
「第9話 嘆きの雨」
次回予告は、桂優香がお送りしました。
投げ銭していただけると、喜びます(´っ・ω・)っ「創作関係に投資」(´っ・ω・)っ今さら編集できることを知る人・・・(天然すぎぃ)