ニチアサ対抗シリーズ 龍戦記 ドラグーンソール

ニチアサ対抗シリーズ 龍戦記 ドラグーンソール

 第一話:太陽の龍戦士 ドラグーンソール誕生 夕焼けの勇気


深夜1時15分。それは誰もが眠る時間。しかし、テレビやネットでは、24時間で映像情報を垂れ流し続けている。例え、嵐が吹き荒れようと。雷が天を引き裂こうとも、映像情報を垂れ流している。

そんな時間に、テレビ新聞には載っていない戦いだけの特撮番組が毎週放送されている。

その番組の名前は「龍戦記 ドラグーンソール」だ。

番組の筋書きとしては、真紅の龍戦士に変身したドラグーンソールが同じような龍怪人と戦うものだった。放送してから5回目。物語は急展開する。

『そこまでだ! 地球の平和を脅かす化け物め!』

 テレビの中で、ドラグーンソールが怪ロボットロベルガーを指差してけん制する。

『俺は太陽の龍戦士。ドラグーンソール! 行くぞ!』

 画面の中で、ドラグーンソールが宙を舞って飛び蹴りを繰り出す。

 怪ロボットが力任せにソールの右足を掴んで振り回す。

『俺は龍壊し。ロベルガー。ドラグーンソール。壊す』

『何?』

 ソールは、地面に叩きつけられて一瞬。息が止まった。力加減されていない投げ技は、相手を呼吸困難に陥れる。

『…く』

 ソールは後方宙返りをして、距離感を置いた。

『太陽の光よ! 邪悪な敵を焼き尽くせ! ソール』

 太陽の力を右拳に宿して、大地を蹴ってロベルガーとの距離を縮める。

『ナックル!!』

 拳がロベルガーに当たった瞬間。ドラグーンソールの体が刀で切り裂かれた傷ができて、テレビ画面から倒れてしまう。

 何も言わないロベルガーだけがたったまま、ナレーションが締める。

『ロベルガーの凶刃に倒れてしまった。ソール! 彼は再び立てるのか? 立て、ドラグーンソール。ロベルガーに対抗できるのは君しかいない』

 

 深夜に起きて、自分の部屋で見ていた小柄な少年の巽川龍介。

「5回目の放送で、主人公が敗れるのか……。昭和ウルトラマンレオをオマージュしたような展開だなぁ。でもソールはカッコよかったなぁ」

 携帯電話の着信音が鳴った。見ると親友からのメールだった。

 

犬飼豪

件名:ドラグーンソール見たか?

『 ソールが倒されてしまったな!? 次回どうなるんだ? 続きは、明日電車で話そうぜ』

 龍介は簡単に返信内容を書いて、ベッドに入る。

 巽川龍介

 件名Re:ドラグーンソール見たか?

『そうだね。 それじゃ明日、通学電車で話そう』

送信を確認してから、眠りに入る。

「いってきまーす」

 いつもの日常。他愛のない日々。もう5月の終わりだ。

駅に着くと、豪が待っていた。

「おはよ。昨日のソールは見ごたえあったな」

「おはよう。そうだね。特に、放送早々主人公が倒されると言う展開!」

「そうそう! 最近の特撮ヒーローにしては異色だよな。「主人公が負ける」という設定は驚きだぜ」

 2人は特撮ものが大好きで昔のヒーローもののDVDを買って鑑賞するのが趣味なのだ。

そして、いつかはネットを舞台にした個人ヒーローものの話を作ろうと言う夢があった。

「おっ。電車が来たようだぜ。いこう」

「うん」

 2人は電車に乗り込む。この電車の乗客の大半は2人が通う修繕高校の生徒だ。龍介の日常は、親友の犬飼豪と特撮談義をすることと―片思いの人をみること。

「おっ、桂優香が来たぞ」

 1つ駅を通過すると1人の女子生徒が電車に乗った。腰まである黒髪に胸が窮屈そうに張り付いている制服。安定した腰に、すらりとした両足。

 龍介は彼女の姿を見ただけで、鼓動が高まっていくのが感じた。

「おい、今日も見るだけなのか?」

「見ているだけで充分だよ。俺と彼女は比べたら、高嶺の花……」

 自分の背の低さと特撮番組が好きというオタクな趣味を持っていることが、コンプレックスで彼女に抱いている恋心さえ押さえてしまう。何よりも、桂優香の容姿からして、他の男子生徒が放っておくわけがない。

「そうか…。まぁ、無理強いはしないけどな。けどよ、ずっとこのままでいたら、何もできないまま終わってしまうぞ? 動かないことに何も変わりはしないと俺は思っている」

 龍介は豪から桂優香に視線を移した。

(確かに、豪の言うとおりだ。自分から動かないと変わらない。でも、その勇気が俺にはないんだ。特撮好きな男の子が、綺麗な桂優香さんに告白しちゃ……お?)

 彼女の顔を見ているとなんだか嫌そうな顔をしていた。そして、体を少しよじらせていた。

 彼女の背中に視線を移すと中年の親父がニヤつきながら彼女のお尻を触っていた。

(これは、噂に聞く。痴漢か!? しかも、俺が好きな桂優香さんを! ゆ、許せない!! で、でも…俺は無力だ。何もできはしないんだ)

 龍介はぐっと握りこぶしを作った。背はクラスで一番小さく、同世代の子に比べれば肉体的に弱者だ。その現実に自己嫌悪してしまう。

 龍介はもう一度、彼女の顔を見ると助けを呼びたくても怖くて叫べない状況がわかった。

「――! 豪! 桂さんが痴漢にあっているよ!」

「なんだって!?」

 豪は桂優香を探して、状況を確認した。

「こらっ! そこのおっさん! 痴漢してんじゃねー!」

 豪は、鞄を龍介に預けて中年の親父に渾身の一撃を当てた。

「ひい!」

「た、助けてくださいっ 痴漢です!」

「次の駅に着いたら、駅員に突き出すからな!」

 右腕を極めて、拘束した。

「いててて!」

「車掌さん! こちらに痴漢がいます!」

 他の乗客が車掌を呼んできた。その様子を見て、龍介は思った。

(これでいいんだ。これで、彼女が助かったんだから……)

 次の駅で、痴漢を引き渡して学校に向う。

「本当にありがとうございました。私、怖くて声が出せませんでした」

「いや、お手柄なのは龍介ですよ。こいつが教えてくれなかったら捕まえることができませんでしたから」

「あ、申し送れましたね。私は2年3組の桂優香です」

「俺は2年2組の犬飼豪です。そして、こちらは2年1組の巽川龍介です」

「よろしく」

「巽川くん。助けてくれてありがとうございます」

「いや。俺は何もしてないよ。結果的に見れば桂さんを助けたのは、豪だし」

 龍介は、自分を貶めて豪を押す。

「確かに、結果だけをみればそうかもしれません。でも、私を助けてくれたのは巽川くんの勇気のおかげですよ」

 優香は微笑んで答えた。

「それでは、私は先に教室に行きますね」

「またなー」

 豪は手を振って、優香の後姿を見送った。

「さて、と…言いたいことを全部言われてしまったな。龍介、お前が助けたんだよ。俺の力を借りようとも、お前が彼女を助けたことには変わりはない」

「豪……中二病を高校で患ったのか?」

 雰囲気が良かったのが、一気に台無しになった。

「うるせー。こんな小恥ずかしいセリフなんて、忘れてくれぇ!」

 そう言いながら、教室に向っていく。

「おはよう」

「おはよう」

 他の同級生に挨拶して、席についた。

「ヒーロー…か。好きな人を助けられもしない俺がヒーローに憧れるのは笑いものだな」

 小さい頃、初めてのヒーローが再放送の仮面ライダーだった。

 普通の人生から、無理やり改造手術されて「怪人」にされた仮面ライダー。しかし、体1つで次々と襲い掛かってくる怪人を倒して、人間の平和を守ってきた。「強さ」とは弱い人を守ることと小さい子心ながら、理解していた。強さは、肉体の強さだけじゃない。もうひとつは『意志』の強さだ。

どれだけ意志を強く持てるのか? しかし、現実はそんなに優しいものじゃない。強くなりたいと思っていても、「弱いものを攻撃する人間」が存在する。そういった存在が強くなりたいと言う思いを挫いてしまう。傷ついた心を治そうとしても、嫌でも弱いものを攻撃する手はやまない。

その力を勉強やスポーツ、趣味に注ぎ込めば違う路が開ける。しかし、弱いものを攻撃する人間はそんな努力はしない。そうすることでしか、弱いものを攻撃する人間は自分を保つ方法しか知らないのだ。龍介も過去にいじめられた経験を持つ人間だ。その経験から、自分は何もできない人間だと思い込んでいる。半ば自暴自棄になって、最初は好奇心をもって取り組んでいた勉強だったが嫌いになってしまった。

「将来、か………………」

 あと1年で受験だ。しかし、夢も希望もないのが現状だ。

 昼休みの時間になり、屋上へと向う。いつも豪と2人で、屋上で弁当をつっついている。

「んー豪はまだみたいだな。屋上ってある意味特等席だよな~」

「桂さん! 俺と付き合ってくれ!」

「おお?」

 声が聞こえた方向に近づくと、屋上の出入り口の反対側で、男子生徒と桂優香が立っていた。

(こ、これって、いわゆる伝説の告白というやつですか? しかも……)

 男子生徒を見ると女好きの相沢稔だった。

(よりによって、相沢か! いろんな女に声を掛けては、やっていると言う噂があるという)

 龍介は、そっと覗いて様子を見ていた。

「…………」

 優香は黙っていた。龍介は彼女が承諾するのかとドキドキしていた。

(桂さんは、どう返事するんだ? ま、まさか…付き合うのか?)

 好きな人が自分とは違う男の人と付き合うということ。それは、想像したくはなかった。甘い考えかもしれないが、互いの距離を縮めてから告白するのがいいのだろうと思う龍介だが、現実はそう甘くはないのだ。

「…すみません。今は誰とも付き合うつもりはありません……ごめんなさい」

 申し訳なさそうに、優香は頭を下げて謝った。

(よっちゃ~! 断ってくれた~! これはこれでいいよお。桂さんには誰かと付き合って欲しくないし、相沢には悪いけど振られてよかったよ。)

 龍介は心の中で踊っていた。

「なっ…」

 相沢は絶句して、言葉を詰まらせた。

「ちょ、ちょっとまってくれ! 桂さんには好きな人がいるのか?」

「え? いいえ、そういうわけではないのですが……」

「なら、俺と付き合ってくれてもいいじゃないか!」

 彼女は少し間をおいて答えた。

「……ごめんなさい。私、男の人が怖いので……今は誰とも付き合うつもりはありません」

「いや、俺が克服させてみせる! 試しに俺と付き合ってくれないか?」

 相沢稔は、しつこく粘っていた。何が何でも自分のものにしようと迫っていた。

(桂さんが男の人を怖がるのは今朝のこともあるかもしれないなぁ……。俺から見ても桂さんはきれいで、清楚で男の人にとっては憧れの的だ。それだけに、痴漢などの危険にさらされてしまう。

それにしても、まだ粘って告白しようとしているのか。ここは俺が出て行って……でも返り討ちにあう可能性が……)

 覗き見している立場上、割り込んでいくのは簡単だが腕力が弱い。

 相沢と直接戦えば、怪我をするのは龍介のほうだ。

「おい、何のぞいてるんだよ?」

 相沢が覗いていた龍介に気づいた。

「……! 巽川くん」

「……相沢、桂さんが困っているから。これ以上はやめたほうがいいよ」

 龍介はなし崩し的に舞台の上につれてこられて、なけなしの勇気を絞って声に出した。

 龍介は優香を守るように間に入った。

「はあ? 俺が桂さんに迷惑掛けてるから、やめろって? ただ単に告白しているだけじゃないか? 恋は奪っていくのが当然だろ?」

「うう、でも…桂さんが困っていることには変わりはないよ」

「へー? そこまでいうなら、一発」

「殴るのはよしてもらおうか? 相沢」

「豪?」

「ちっ、2組の犬飼か」

 豪が姿を見せて、相沢をけん制する。

「親友に手をだすのはやめてもらおうか?」

「ハッ……別に、桂さんに告白していたところをこいつに割り込まれただけだよ。そんなに怖い顔をするなって、俺は帰るぜ」

 相沢は踵を返して、龍介たちに背を向ける。

「それじゃ、桂さん。またな」

 そういい残して屋上から去っていった。

「巽川くん、助けてくださってありがとうございます」

「あ。いえ、そんなことないよ。何もできなかったんだし……」

「そんなことありません。巽川くんがいてくれて、私うれしかったんですよ」

 そんなやり取りを見て、豪は妙案を思いついた。

「桂さん。よろしければ、俺たちと一緒にお昼を食べませんか?」

「え?」

「いや、俺たちいつもここで食べているんですが、たまには他の人を誘ってみようかなぁ~と思いつたんですが。どうですか?」

 豪はにこやかに誘ってみた。

「いいんですか? それじゃあ、私教室に行ってお弁当を持ってきますね」

 優香は明るい笑顔で屋上から教室に向う。

「……さてと。まだ気にしているのか? 龍介」

「うん。何もできなかったしね」

「あのなぁ~今朝もそうだけど、結果的に見ればお前が助けたんだぜ?」

「豪………」

「何もできない自分を卑下しているようだが、別に誰かの力を頼って助ければそれでいいと思うぜ? そりゃ、颯爽とヒーローのように助けられたらいいかもしれないがそこまで自分を責めなくてもいいと思うぞ」

「で、でも、いつまでも豪を頼っていたら、結局俺はいつまでたっても弱虫のままだよ……」

 龍介は頭を抱えて悩む。

「それもそんなに卑屈に考えることはない。さっきお前は、俺がいなくても自分から動いて桂さんを助けただろう。それがどういう形であれ、おまえは『自分ひとりで』で立ち向かったんだ」

「え?」

「最初から誰かの力を借りてしまった朝と違って、今はまず自分の力で挑もうとしたんだ。ちゃんと進歩しているだろう…小さな歩みではあるかもしれないけどさ。お前は、「変わりたい」という意思を持っていてそして少しずつではあるがちゃんと進歩もしている。この2つがある限り、いつかきっとできるようになるだろう」

「豪…本当にいい友人を持ってよかった」

「よせやい。我ながら恥ずかしいこと言ってしまった」

「お待たせしました。それでは食べましょうか」

「そうですね」

「おー」

 3人で昼食をとることにした。

「いただきまーす」

 3人は手を合わせて弁当をつつき始めた。

 放課後。委員会の仕事が残っている豪を残して、街中を歩いていく。

「さて、と。お昼は、桂さんと食べられてよかったよ。少しは距離が縮まったかな?」

 街中にある漫画喫茶に向う。

「お?」

 漫画喫茶の入り口にドラグーンソールのカードダスが置いてあった。

「はて? スポンサーなんかついてなかったはずなのに? カードゲームになっているのか? まぁいいか。試しにやってみるか」

 財布から100円玉を取り出して、お金を入れてカードダスの歯車を回す。カードの出入り口から数枚のカードの束が出てきた。

「あれ? このカードダスにはゲームルールが書いてあるカードがついてないのか。

普通なら、ついていくるだけどなぁ」

 ドラグーンソールのグッツは市場には出回っていない。もしかしたら、やっと出たのかと龍介は思った。たいていのキャラクターグッツには、グッツ販売する企業がスポンサーとなっている。しかし、ドラグーンソールには、番組のスポンサーすらついていないと言う異例の特撮番組である。

「まぁ、いいや。カード内容は……おお! ドラグーンソール! それに、武器カードの「ソールソード」に技カードの5枚か!」

 憧れのヒーローのカードが手に入っただけでもついている。

「よし、ついでに漫画喫茶で情報を調べてみるか」

 漫画喫茶に入ると入れ違いでショートヘアの女性が出てくる。

「次の太陽の龍……彼に決められた」

 彼女が漫画喫茶を後にすると、入り口に置かれていたカードダスが消えていた。

「うーん。やっぱりないよなぁ」

 漫画喫茶の個室で、パソコンでドラグーンソールについて調べるが「キーワードの情報はありません」としか表示されない。新聞のテレビ蘭にも乗っていない番組だ。だが、ネットで噂になっていてもおかしくないと踏んでいたが、龍介の推測は外れてしまった。

「でも、誰がこの番組を作って放送しているんだ?」

 手に入れたカードには、作者の名前もなかった。戦隊ヒーローや仮面ライダーのカードゲームでは挿絵にも作者の名前が書いてあることもあるが、このドラグーンにはなかったのだ。

「まっ。考えてもしょうがないか。今日は桂さんと一緒に食べられただけでもいい日だったし」

 昼間の光景を自己再生して恍惚する龍介。片思いの相手との食事ができただけでも、幸運なのだ。いずれは、デートとかもしてみたいと妄想に浸る。

「って、いけない。もうすぐ電車が来るじゃないか」

 腕時計を見ると、後1時間で帰りの電車が来る時刻だった。

 漫画喫茶を後にして街の大通りを歩いていると声を掛けられた。

「あれ? 巽川くん」

「桂さん。その荷物、買い物帰りですか?」

「ええ? 妹と一緒に買い物していたの」

「お姉ちゃん、この人誰?」

 隣にいたツインテールの女の子が優香に声を掛ける。

「この人はお姉ちゃんの友達なのよ。亜衣。ご挨拶して」

「うん。私、桂亜衣。小学4年生だよ。よろしくね」

「初めまして、巽川龍介です。桂さんとは友達です」

「そうなんだ~。ねぇ、お姉ちゃん。何で友達同士なのに下の名前で呼び合わないの?」

「え?」

 優香と龍介はドキッとして固まってしまう。

「私の学校じゃあ、友達同士で下の名前で呼び合っているんだよ。お姉ちゃんたち仲悪いの?」

 純粋すぎる質問に、どう答えたらいいのか戸惑ってしまう優香。

「ほらほら~お姉ちゃん」

「あ、もう。改めて、りゅ、龍介くん」

「あ、ゆ……優香さん」

 互いに下の名前で呼び合っただけなのに、妙に緊張してしまう。その様子に1人ニヤニヤと笑う亜衣が小さな手でブイサインして、龍介の袖をひっぱる。

(よかったね~龍介くん)

(え?まさか)

(こうでもしないと、お姉ちゃん奥手だからね。龍介くんの好き好きオーラを感じ取ったから仲良くしてもらいたいなぁ~って)

 ひそひそと小声で話し合う2人。

「あら、もう。亜衣と仲良くなったんですね」

「あ、ええ」

「うん。もう仲良しだよ~!」

 さりげなく優香から誤魔化した。龍介は、たははは……と乾いた笑しか出なかった。

 何せ恋心を小学生の女の子にまでばれてしまうという失態を犯してしまったのだ。そんな自分が情けなくもあり、いじけてしまいそうになる。

「それじゃあ、帰りましょうか」

 3人が駅に向おうとしたとき、どこからともなく彼らの前に1体のロボットが現れた。熱で焦げた装甲に3つのアイカメラ。双肩には、尖った突起がつけられていたそのロボットは深夜のテレビで見たロベルガーだった。

「あれは、ロベルガー? あれ?ドラグーンソールの撮影でも始まるのか?」

「どらぐーんそーる?」

 亜衣が聞き返した。

「毎週水曜日午前1時15分にやっている特撮ヒーローだよ。でも、なんで?」

 龍介は簡単に、亜衣に説明する。しかし、何故、ロベルガーの着ぐるみが目の前に?

「破壊する」

 ロベルガーが声を出したのを聴いて、ゾクリと悪寒が背中を疾走して嫌な予感がした龍介は優香と亜衣の2人を押し倒した。

「危ない!」

「きゃっ」と優香と亜衣が小さな悲鳴をあげた。龍介がいた場所にロベルガーの拳が打ち込まれてアスファルトが砕け散った。

 ゆっくりと拳を引き戻して、ロベルガーは3人を視認する。ロベルガーの拳からアスファルトの粒がパラパラと零れ落ちる。

(これは、特撮なんかじゃない! これは……本物だ!!)

 嫌な汗がじわりと手のひらを濡らした。現実に現れた怪ロボットに対抗する術は、今の彼らには存在しない。いや、警察に助けを求めたとしてもロベルガーの攻撃の前では無力だろう。

「逃げろ!」

 3人はすぐに駅とは反対方向の住宅街に向って走っていく。

 ロベルガーはガシャン、ガシャンと単調な機械音を少しずつ短くしていき、彼らに忍び寄る。

「お姉ちゃん……まって……!」

「がんばって、亜衣」

 この中で最年少の亜衣が一番後ろから走っている。

「がんばって、亜衣ちゃん! 今は、ロベルガーから逃げるんだ」

 夕陽に染まった住宅街を3人の少年少女が走っていく。その後を怪ロボットロベルガーが執拗に追いかけてくる。殺人ロボットの迫りくる恐怖に、彼らは必死になって足を動かした。

「あぅ!」

 亜衣の足がもつれて、転んでしまった。

「亜衣!」

 優香は買い物袋を放り出して、妹の元に駆け寄った。

「立てる?」

「うん。お姉ちゃん…!」

 夕陽を背にロベルガーが2人の距離を縮めて走ってくる。

「亜衣ちゃん! 優香さん!」

 龍介は立ち止まって、振り返る。迫る敵。危険にさらされている大切な友達。いや、自分が一番好きな人……! 彼は、欲する。力を。テレビのヒーローのように誰かを守れる力を――

(こんなとき、こんな時に、力があれば!)

 無力な自分という現実。しかし、その現実を打ち破りたいという強い思い。そして、誰よりも何よりも桂姉妹を守りたいと願った。

 ドクン……と小さな鼓動が、制服の内ポケットに入れたカードから伝わった。

 その鼓動は何かを訴えるかのように、龍介に伝える。鼓動から熱に変わって、声が聞こえた。

 叫べ、我が名を――

(え!? 声……! 誰なんだ!)

 誰かの声が、龍介にだけ聞こえた。

 そして、脳に直接映像が流れた。漆黒の龍の鎧を纏い。そして、敵を倒すために強い意志を持った赤い太陽のような眼を持った戦士の姿が映し出された。

その映像が流れ終わるときに、戦士が声を出す。

叫べ、我が名を―――と! 太陽の力を手に入れろ!

  ガシャン、ガシャンと足音を立てて、怪ロボットロベルガーが桂姉妹に近づいていく。ロベルガーは3つのアイカメラを回転させて、右拳を振り上げる。恐怖心からか、亜衣はその場に座り込んで動けずにいた。

「亜衣!」

 優香は妹だけでも守ろうと抱きしめる。

 ロベルガーの右腕が振り落される。その瞬間に、龍介の意識が戻った。

(守りたい。2人を! この命を賭けても!)

 龍介は強く握り締めて、ヒーローの名前を呼ぶ。

「ドラグーンソール!!」

 太陽の光が龍介の内ポケットに入れてあるカードに集まって輝き! 周囲を強い光が包んだ。

 腰に変身ベルトが現れて、カードがスロットに挿入される。

 炎が体を飲み込んで、漆黒の龍の鎧を纏った戦士に変身する。

 真紅の龍戦士が空中で翻ってロベルガーの背後をとって、そのままバックドロップを繰り出した。

「イヤアアアア!」

 ロベルガーの頭がアスファルトの路面に突き刺さる。

「……! え?」

 優香が恐る恐る目を開けると、真紅の龍戦士が立っていた。

「大丈夫? 怪我はない?」

「あ、はい」

 龍介は、ドラグーンソールに変身した。だが、何が原因で変身したのかは、このさいどうでもよかった。今は、優香と亜衣の2人を守りたい。それだけだった。

「危ない!」

 亜衣が叫ぶとロベルガーのかかと落としがドラグーンソールの背後に迫る。

 ドラグーンソールは右腕でかかと落としを受け止めた。

「少し、離れていろ。ここは、俺がやる」

 ドラグーンソールは立ち上がって、振り返り際に右拳をロベルガーに打ち込んだ。

「は、はい……!」

 優香は亜衣を連れて、その場から離れた。

(この感じ、この感触。すべて、『本物』なんだ。俺が、俺が変身してやっているのか?)

 龍介は、変身して戦っていることに戸惑うが、大切な人を傷つけようとする怒りが勝っていた。

「龍戦士、破壊する」

「ソールソード!」

 右手を左腰に当てると剣の柄が現れて、抜刀すると1本の剣が現れた。

「行くぞ! とぁ!」

 剣を振り回して、ロベルガーを攻撃する。ロベルガーの装甲が硬く、火花が散る。

「ならば、ここだ!」

 右上腕と右前腕の間にある関節を切り裂いて、腕を破壊する。

「ぐううううう」

 ドラグーンソールは剣をしまうとロベルガーに背を向ける。

「これ以上。彼女達に手を出すな」

 龍介はこのまま見逃すつもりだった。これ以上戦ったとしても何も意味がないと感じ取っていた。

(やりなれないことをするのはきついなぁ~。まだ心臓がばくばくいっている)

 龍介は脈動する心臓を感じながら息を吐いた。

「! 避けてください!」

 優香が声を上げて叫んだ。

 ドラグーンソールは、後方に1回転して、よけるとロベルガーの破壊された関節部分から隠し剣が飛び出ていた。

「ぐああっ」

 剣がドラグーンの胸を裂いた。赤い血が流れ落ちる。

(痛い痛い痛い痛い! それに傷口が焼けるように熱い。痛いのは怖い)

 龍介はこれまで喧嘩と言う喧嘩を経験したことがなかった。それだけに、傷つけられた痛みは怖く恐ろしかった。

(痛い、痛い。怖い。痛いの怖い………!?)

 心理状態が不安定になって、混乱してしまう。

 ロベルガーはその様子をみて、狙いをドラグーンソールから、桂姉妹へと変更する。

 ロベルガーは桂姉妹に迫った。

「亜衣!」

 優香は亜衣を突き飛ばして、彼女を守った。

「きゃっ」

 ロベルガーは左腕で優香を抱きかかえた。

「お姉ちゃん!」

 亜衣の声で、パニックから脱出した龍介はロベルガーを見る。

 ロベルガーは周囲にある壁や電柱きり刻んで行く手を阻む。

「危ない! 亜衣ちゃん」

 龍介は、亜衣を抱きかかえて崩れ落ちる電柱や壁から守った。

「ロベルガー……!」

 龍介は亜衣を降ろして、ロベルガーを睨む。

(優香さんが人質にされている。助けなきゃ……でも!)

 彼の脳裏にテレビでやられたドラグーンソールがやられた場面と自分が胸を刺された場面を重ねてしまう。ごく普通の少年が命を賭けて戦うことになってしまった展開。人質にされている好きな人を助けられるかどうかと言う不安に押し潰されそうになる。テレビの中のヒーローのように上手くできない。返り討ちにあって、死んでしまうかもしれない。それでも、ドラグーンソールに変身した龍介しか、助けられない。

 彼の両手、両足は死の恐怖に震えていた。

「助けて、……助けて! 龍介くん!!」

 優香の叫び声を聴いて、彼は顔を上げる。

「……………!」

 震えていた両手を強く握り締めて、恐怖を押し殺す。

(こういうときこそ、こういうときこそ!)

 

ヒーローになるんだ!

「まてぇ!」

「!」

 ドラグーンソールの気迫がこもった声が響く。

 ざっと左足を引いて、右手を突き出した。

「地球の平和を脅かす化け物め! このドラグーンソールが許さん!」

 しゃがんで、路面を右手で叩いて高くジャンプして距離を縮める。

「太陽の光よ! 邪悪な敵を焼き尽くせ!」

 左手に太陽の光を集約した渾身の一撃を解き放つ。

ソールナックル!

 ロベルガーの胸を打ち砕き、右腕で優香を抱きかかえる。

「ぐぅう!」

 ロベルガーの胸部から全身に亀裂が走り、爆発する。

「もう、大丈夫だな」

「あ、ありがとうございます……」

「騒ぎを聴きつけられる前に、俺は立ち去ろう」

 ドラグーンソールは優香を降ろして、住宅街の屋根を飛び移っていく。適度な場所で変身を解くと腰に変身ベルトがあったが、光となって消えていった。

「あ、危なかった~」

 龍介は腰を抜かして、その場に座り込んだ。

「でも、俺は変身したんだよな……ドラグーンソールに」

 ポケットに入れていたカードを取り出してつぶやいた。

「いけない! 急いで優香さん達と合流しないと怪しまれちゃうよ! 鞄も置きっぱなしだったし」

 龍介は急いで優香たちがいる場所に戻っていった。

 戦いの一部始終を電柱の上から見ていた女性がいた。

「何とか生き延びたようね。……太陽の龍戦士。ロベルガーを倒せたのはスタートラインに立てたことにすぎない。嫌でも戦いに巻き込まれる日常が始まる」

 女性は懐かしそうに言葉を紡ぐ。それは遠い過去の思い出を語るかのように、ただ優しく、懐かしくも儚い思い出。

「巫女の予言がすべての始まりを告げる。神の地を取り戻そうとするものとそれを阻止しようとするものの神代を超えた物語の始まりを―」

 そういい残して、彼女は消えた。

 数日後の水曜日既定の時間に、ドラグーンソールが放送された。そこには、GC加工された桂姉妹が出ていた。その放送をみた龍介は確認する。

「これは、本物なんだ! 本物のドラグーンソールの物語なんだ!」

 カードを手にして、実感する。

 そこに、携帯電話が鳴った。

「はい。もしもし」

「あ、龍介くんですか? 優香です。今日のドラグーンソール見ましたが、カッコイイですね」

「え? 優香さん、見たんですか?」

「はい。私たちを助けてくれた恩人ですし、亜衣に迫られて見てしまいました」

 龍介が変身を解いた後に、桂姉妹と合流して互いの携帯電話の情報を交換したのだ。

「もし、よかったらですが……」

「ん?」

「今日も昼ごはん一緒に食べてもいいですか?」

「それはもちろん大歓迎ですよ」

「よかった。では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 電話を切って、龍介はガッツポーズをとった。

 距離感が縮まったことの喜びを体感する。

あとがき

 ドラグーンソール…ようやく動き出したヒーロー小説。今では絶対に需要がないジャンルですけどね(笑)小学生を主人公にしたガクリュウオーから、高校生を主人公にしたドラグーンソール。

ヒロインも昔ながらの引っ込み思案の女の子。今時の高校生と言う図式で書いています。

カードから変身するというのは、仮面ライダー剣と仮面ライダーディケイドが使っていたものですが、この作品ではオマージュしております。(今更ながら、戦いの夢を見たから変身できると言う設定にしたほうがよかったかもしれない)

 しかし、告白もできない龍介に恋の進展はあるのか?とガクリュウオーとは異なる展開となっています。

ここで少し解説を「ソール」は北欧神話で出てくる太陽の神さまの名前です。

 呼び方は他の神話やフィンランド神話によって、ソルとも呼ばれています。

(北欧神話の鍵は「巫女の予言」にあるとされている。ガクリュウオーでできたロギは北欧神話のロキです。)

正直言って、戦い方を知らない子どもの戦いなのが仕方ないのが残念です。(戦闘シーンがほとんど力任せの感じがやりきれない)これでも、昭和ウルトラマンシリーズと仮面ライダーBLACKRXの殺陣を取り入れました。ライダーではRX! 主題歌で燃えるならRXと仮面ライダーX

二話目はどうやって楽しもうかなと。

追記:ドラグーンソールのきっかけとなった漫画 平成28年7月31日加筆

漫画: 雷星伝ジュピターO.A.著:なかざき 冬 原作:和智 正喜

作品アドレスはこちら 

https://www.amazon.co.jp/%E9%9B%B7%E6%98%9F%E4%BC%9D%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%94%E3%82%BF%E3%83%BC%EF%BC%AF%EF%BC%8E%EF%BC%A1%EF%BC%8E-1%E5%B7%BB-%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%96%E3%81%8D-%E5%86%AC-ebook/dp/B01CFZRA0U/ref=pd_rhf_gw_p_img_2?ie=UTF8&psc=1&refRID=SHC70ZBMB0DMGHCNC2MX

 ドラグーンソールの制作のきっかけとなった作品をアマゾンのリンクで引用紹介しておきました。

連載当時影響を受けて、ワクワクしておりました。ところが、打ち切りに;; 続き―;; 当然、続きがないわけで…読みたくても泣き。

なので、この作品を超えるドラグーンソールを作ってやるー(泣)と自己満足で始めました。

もしも、ジュピターがいなかったら、ドラグーンソールを生み出すきっかけは無かったのかもしれません。この場をお借りして、ありがとうございます。

作中では、円谷作品、東映特撮 デジモンなどのアニメ作品も動力となっているので、先人たちの作品があり、敬意の念を抱いて書いております。

作品を作るにしても、作者さん達の先人がいたから作れたのだ。と。感謝と尊敬の想いを馳せながら、書いております。同人小説の分類なりますが。

この場をお借りして、再度感謝の念を。

「雷星伝ジュピターO.A.著:なかざき 冬 原作:和智 正喜」を世に出していただきまして、

ありがとうございます。これからも、作るきっかけとなった作品に負けない作品を書き続けていきたいと思います。

レミーより

投げ銭していただけると、喜びます(´っ・ω・)っ「創作関係に投資」(´っ・ω・)っ今さら編集できることを知る人・・・(天然すぎぃ)