龍戦記 ドラグーンソール

第4話:翼竜、再戦

時刻が水曜日 1時15分を告げた時に龍戦記ドラグーンソールが放送される。

その放送を龍介とセリアが見ていた。

「ほう。龍介の戦いを放送しているのか。これは興味深いな」

「うん。しかも、倒せなかった回を放送するのは心情的に辛いけどね」

 ワイバーンとの初の空中対戦で結果的に敗れてしまったドラグーンソールの過程を淡々とテレビ画面に映し出されていく。

「あれ? こんなこと思ったけど、独白まで映像化されているのか?」

「ん? こういうのが流行ではないのか?」

「いや、特撮に関していえば、主人公の内的独白は声に出さないんだよ。心のうちまで、表現するのは、小説や漫画などではよく使われるけどテレビに関してはそこまで表現するのない。あれ? ちょっと時間があったら今までの放送のも見返してみるよ」

「ふむ、そうか」

(ここまでの追走や、空中にさらわれた龍介を撮るのは、普通の人間による機材では無理だな。となると……こっち側の住人が何らかの意図を持って放送していると考えられる。しかし、ワイバーン戦でいっぱいいっぱいになっている龍介には教えるにはまだ早いな)

 セリアは人間形体のままでドラグーンソールを見る。これまで誰にも知られずに龍介1人で戦ってきたのだと、察した。

 龍介は、ルーズリーフを取り出して、簡単な図を書いて、ワイバーンとの戦いを考察する。敵の飛行能力、ドラグーンソールに変身した時の跳躍力はどれくらいか? 独り言をいいながら、案を練る。

 その様子をみて、セリアは思う。

(最後まで、この命。おまえのために使い果たすぞ…)

 そのとき、携帯電話の着信音が鳴り響く。慌てて、携帯電話に飛びつくと相手は優香からだった。

「は、はい。龍介です」

 優香からの電話の時は緊張して、正座してしまう龍介。

「こんばんわ、龍介君。今日のドラグーンソールは見ましたか?」

「ええ。今さっき見終えました」

「ドラグーンソール、今まで1人で戦っていたんですよね。でも、仲間ができてよかったと思います。助けてもらったのに、何もできない私ですが、誰かそばにいる仲間ができてよかったと思っています」

「優香さん…」

(そうだ。今はひとりじゃない。それに、優香さんが応援しているんだ。正体が俺だと知らないくても、応援してくれるんだ)

 誰かが思ってくれるだけで、力になる。それが、どんな困難をも打ち破る勇気を生み出す。

「そうですね。でも、ドラグーンソールは応援している人がいるから戦えると思います。次はきっと勝ちますよ」

「私もそう思います。どんなときでもあきらめない。それが」

ヒーローだから

 翌朝、龍介はこっそりとコンビニで朝食と昼食を買い物していた。セリアを飼うことになったのはいいがこの間の戦いで食料やリード、首輪、服などを買えなかった。

「1100円になります。ありがとうございましたー」

「ふう。これでよし。セリアは何食うかわからないけど、とりあえずパン食と飲み物を買っておいたから、大丈夫なはず」

 買い物袋を持って、自宅に戻る。

「…というわけだから、留守番だからね」

「わかった。しかし、自由に外出できない上に個室に監禁って不便だの」

「せめて、普通の犬ぐらいの大きさなら問題ないんだけどね。外においても。でも、セリアはざっと見たところ170センチくらいで、ソールの時は三メーターくらいの大きさにまで化けるでしょうが!」

「はっはっはっ。ルーガルーだからの」

 笑って、事を済ませるセリア。

「まぁ、トイレとかは人間と同じようにすればいいからいいとして。絶対に学校には来ないでよ」

「わかっておる。こうして留守番もしているから、安心しろ」

「まぁ、本は自由に読んでもいいけどね。んじゃいってくるよ」

「いってらっしゃい」

 人間の姿に変身して、龍介を見送る。

(はぁ、拾ってから数日経ったけど…どうやってワイバーンを倒すか? 敵は空を自由に飛ぶし、こっちは飛べないし。かといって、都合のいいアイテムがあるわけではないし……)

 龍介はいつもの時間より少し早めに駅に着いて電車を待っていた。いつもポケットに入れているカードホルダーを広げて、ドラグーンソールと技カードを見る。

「使っていない技を使うしかないのかな?」

 使っていない技カードには、ただ名前しか書いてなかった。「ソールナックル」「ソールシュート」は、先代のドラグーンソールが使っていたから龍介でも扱えたのだ。しかし、未知の技である残りのカードは使用方法すら書いていない。

「それに……俺の未来。このままずっと、戦い続けることになるのかな?」

 カードと同じようにわからない自分の未来。もし、自分の未来がこうなるとわかっているのならば、学校のテストみたいに対策とかもとれたのだろうか?

わかっている未来になっているならば、面白みもあるだろうか?

 国の状態を見れば、未来に希望を持てない若者が多く。就職したくても就職できない人もいる。たとえ、就職できたとしても、うつ病になって3ヵ月で辞職する人もいる。希望のない国といえる。いや、何が希望なのかさえわからないと思う。

「はぁ~…勇気や希望って何だろう?」

 ポケットにカードホルダーを閉まって、青空を見上げてふと思う。「勇気や希望、夢」といったものはなんだろうか?

誰かから与えられるものなのか、それとも自分で見出して作り上げていくものなのか。しかし、それさえわからないのが16歳と言う若さなのだ。

大人になれば、職業とプライベートを割り切って生きていけばいいのかもしれない。または、仕事にほれ込んで、励めばいいのかもしれない。そんな生き方なのかもしれない。

「勇気とは、不安や不満と言った心の弱い感情と戦うもの。そして……勇気の意味は、普通の人が、恐怖、不安、躊躇、あるいは恥ずかしいなどと感じる事を恐れずに(自分の信念を貫き)向かっていく積極的で強い心意気の事。勇ましい強い心をいう。まぁ、一般的にはそういわれていることだ」

「豪?」

「しかし最近のおまえもひどいよなぁ。親友を置いてきぼりにして、先に駅に行くんだもんなぁ。このリア充め」

 豪は、肘で軽くつつく。

「まぁ、何にしてもおまえは勇気をもっているといえるだろ。桂さんとの距離を自分から縮めたり、色々としているみたいだし。んで、デートしたか?」

「で、デートって!? まだしてないに決まっているでしょ!?」

 真っ赤になって、否定する龍介。

「残念…。しかし、まぁ今回のドラグーンソールはピンチだな。空の敵をどう倒すのか?」

「そ、そうだね。もし、豪だったらどうする?」

「俺ならねぇ…ダメだ。思いつかねーわ」

「ええ? どうして?」

「例えるなら、剣で戦闘機を叩き落せというもんだぞ? ドラグーンソールだってそんな無茶なことはわかっているはずだ。でも、やらなきゃいけないんだよ。誰かを守るために、戦わないといけないんだ」

「豪…」

(そうだ。俺が戦うのは、このかけがえのない日常を守るためだ。でもどうやって…勝つか)

 電車が着たので2人は乗り込んで電車に揺られた。

「敵を高い位置まで誘い込めばいいんじゃないか? そうすれば必ず敵も来ると思うんだ。そこをがつんと」

「うーん、それはいいけど。被害はでるよ?」

「だよなぁ。被害を最小限に抑えつつ、敵を倒すって難しいな」

「一撃必殺じゃないと無理かな?」

「いや、そうとは限らないだろう? 例えば、格闘ゲームじゃあ、小技を重ねてダメージを蓄積させる方法もひとつの技だ。じゃあ、技とは何か? これは俺の自論なんだが、技とはその人の勇気だと思うんだ」

「その人の勇気…」

「昔の歌で、「大人たちがなくしている 力を今取り戻そう」という歌詞があるんだが、今の大人は、責任から避けて、安全な場所へと逃げていく人が多い。それが悪いというわけじゃない。大人になるにつれて、恥ずかしいとか子どもくさいなと思うことができなくなってきたんじゃないかと思うんだ。子どもの頃には真っ直ぐに信じていたものが、本当はつらくて、体を壊してしまうものだった。テレビのヒーローとかそんなものだ。でもな、信じるのも勇気だと思うし、誰だってヒーローになれることを忘れてしまっているんだと思う。社会に出て、望んでいない職に就いたとしても、夢のカケラまではなくしてないだろ?」

 次の駅に着いたときに、スーツを着た大人たちが駅を降りていくのを2人は見送った。

「夢のかけらがまだあるなら、その先に続く明日を作ればいいと俺は思うんだ」

「豪…」

「ちょっと、ドラグーンソールの話から脱線してしまったけどな」

 2人の前に、胸の辺りが窮屈そうな制服を着た桂優香が腰まである黒い髪を揺らして、現れた。

「おはようございます。龍介くん。犬飼さん」

「なーなんで俺だけ、犬飼さんで龍介はくんなんだ」

「え、えーと…」

 豪はいじけて、優香をいじり始めた。

「豪、そんなことでいじめたらダメだよ」

「冗談だよ冗談。それより、桂さんもドラグーンソールを見たか?」

「はい。苦戦でしたね。ドラグーンソール…でも、必ず勝つと私は信じています」

「俺もそう信じているよ」

 豪は笑って答えた。

「あ、忘れるところでしたが、今週の土曜日にピクニックに行きませんか?

妹の亜衣が龍介くんたちと行きたいと行っていたのですが、予定は空いていますか?」

「全力で同行させてもらいます!」

 豪が即決した。

その日の夜、龍介は、狼姿のセリアに話した。

「というわけで、ピクニックに行くことになりました」

「なんだ。気分転換になっていいじゃないか。好いている女子と行くことに何の不安がある?」

 ベッドの上で人間の姿になったセリアが問う。

「いやだって、初めてので、デート? だしその、緊張しているんだよ」

「でーとというのは知らんが、緊張したところでどうにもこうにもならんだろ? まぁ、心配ならば私もついていこうか?」

「え? ええ? どうやって!?」

「忘れたか? 私はルーガルーだ。いざとなったら狼にも人間にも変身できるんだぞ? 飼い主である龍介が忘れてどうする」

「あ、そっか。んじゃ、遠い親戚の子として紹介しておくよ」

「おお、そうしてくれ。いざとなったら、魔眼を使って記憶の改竄もできるぞ」

 色んな意味でセリアを野放しにしなくてよかったと龍介は改めて思った。

「ルーガルーにそんな能力まであるのか。もし、奴が現れたらみんなの安全を守って欲しい。ただし、正体をばらしちゃダメだよ?」

「わかっている。龍介の友人たちの安全は最優先にする。これでも賢狼ともいわれた私が力になる」

 土曜日までの数日間、ドラグーンソールがワイバーンに勝つ方法を話し合ったり、セリアの似合う服を買ったりと時間を消費していった。しかし、依然として戦いの活路を見出すことはできなかった。

「…ネットでワイバーンの事を調べてみたけど、やっぱり猛禽類の鷲やコンドルのように襲ってくる習性があるんだな。となると…「速さ」が焦点になるな」

 ワイバーンとの戦いの中で、飛行速度の「速さ」を越えなければ避けることもできないとわかってきた。

「しかし、その速さを逆手にとって攻撃するという発想はいいんだけど。それをどうやってやるのかなんだよなぁ~」

 対策を考えていると携帯電話が鳴った。相手は優香からだった。

「はい。龍介です」

「お兄ちゃん。久しぶりー、亜衣だよ~」

 電話の主は優香ではなく、妹の亜衣だった。

「あ、亜衣ちゃん!? なんで? え?」

「今お姉ちゃんお風呂入っているから、こっそりと内偵中」

「な、内偵って、もしかして今回のピクニックも?」

「ピンポンパンポン、大当たり~! 亜衣ちゃんが仕掛けました~。ねぇねぇ、最近仲が良くなっているみたいだけど…?」

「亜衣―? 私の携帯使っているの?」

「やばっ、お姉ちゃんが上がったみたい。そ、それじゃあね!」

「あ、うん」

 短時間の会話が唐突に終わってしまった。

「なんだ? 今の?」

「さ、さあ?」

 台風のように過ぎ去っていった亜衣からの電話。しかし、彼女のお陰でピクニックに行くことになったのは良い事だった。

週末の土曜日。

「へぇ、おまえに外国の親戚がいるとは知らなかったな」

「ごめんね、まさか昨日来るとは思わなくてさ」

 セリアは、半そでにハーフパンツという軽装で動きやすさを重視した服装だった。

「ふむ、龍介の友人がいるとは聞いていたが、中々気立ての良い男だな」

「セリアさんは、どこかの学校に?」

「え、ええと、ちょっと社会の視野を祖国だけでなく海外にも広げてみたほうがいいと思って旅をしているんだ」

「へぇ~」

 何とか誤魔化しているがいつボロを出してしまうのかひやひやする龍介。

 桂姉妹が住んでいる山にピクニックすることになった龍介たちは、優香が住んでいる駅に向かうことになった。目的の駅に着くと優香たちが待っていた。

「あ、おーい! お兄ちゃん~」

 ツインテールを揺らして、龍介を見つけるとはしゃぐ亜衣。

「やあ、亜衣ちゃん。久しぶり」

「ほんとだね。この人たちは?」

「俺は龍介の友人の犬飼豪だ」

「私は、海外に住んでいるセリアよ。今日は突然おじゃまして、ごめんね」

「へー外国人なんだ~」

 亜衣は珍しそうにセリアを上から下まで何度も見る。

「亜衣。そんなに珍しがってダメでしょう」

「えーだって、外国人だよ? 珍しいじゃない」

 妹を嗜める優香。

「元気の良い子だな。それで、目的の山までどうするんだ?」

「はい。ちょっと時間がありますから」

「ねーねー。龍介お兄ちゃん。お弁当は持ってきた?」

「んー来る前にセリアの分だけ買ってきたけどそれが?」

「だってさーお姉ちゃん」

 ニヤニヤと亜衣は優香のほうを見る。

「あ、亜衣!」

 少し頬を赤く染めて、優香は怒った。

「キャーお姉ちゃんが怒った~」

 龍介、豪、セリアを中心にして逃げ回る亜衣。それを追いかける優香。

「意外な一面だな」

「うん」

 置いてきぼりの男子2人組み。

(これはこれで、面白いな)

 楽しむルーガルーがここにいた。

 バスに揺られて、白山にやってきた。

「優香さんは、一度来たことがあるんですか?」

「ええ。小学生の遠足の場所がここだったんです。知っているとは思いますが、亜衣の学校も私が通っていた小学校なんですよ」

「ほんとわね。お姉ちゃんのランドセルをそのまま使いたかったんだけど、お古だとダメといわれたから、新しいランドセル買わされちゃったの」

「本当に仲が良い姉妹ですね」

 豪が関心する。

「ふむ、ランドセ…」

「セリア、後で教えるから、質問は控えて」

「ずるいぞ、会話の一つや二つ楽しませてもらっても」

「今日から外で寝ることで良い?」

 龍の影を見せて、龍介はセリアを脅す。

「謹んで、控えさせてもらいます」

 力関係では、ルーガルーのセリアが弱い。

 一同は草原にて、昼食を取ることにした。

「じゃーん! 亜衣とお姉ちゃんの合作弁当だよ~お兄ちゃん」

 カバンから小さい弁当箱を3つ並べて、披露する。

 えへんと胸を張って、手作り弁当を自慢してみせる。

「亜衣ちゃんと優香さんが作ったの? すごいねぇ」

「い、いえ、そんな。とりあえず食べてください」

「あ、いただきます」

 優香から弁当箱を1つ受け取る龍介。

「なぁ。俺の扱いは何…?」

「気にするな…豪」

 セリアが豪を慰める。

 非情ともいえる格差を感じる豪はコンビニ弁当をセリアと一緒に食べていた。

「あ、おいしい」

「わーい! よかったね。お姉ちゃん」

「うん。さ、亜衣。私たちも食べましょう」

 仲良く弁当を食べている3人。

(しかし、まぁ。片思いの状態から良くここまで進展したというかなんというか。そろっと告白してもいいんじゃないか?)

 豪は、龍介と優香の仲を改めて観察して告白するにはいいのでは?と考えている。

(いや、それにはまだ早いか。外野の俺がああだ。こうだ。といっても、桂さんの男性が怖い意識が治っているかどうかもわからないしな。もう少しこの状態でいたほうがかえっていいのかもしれない)

 もくもくとコンビニ弁当を食する豪。

同じ頃、傷が癒えたワイバーンは、再び人間たちを襲おうと翼を広げる。右目は、ルーガルーのセリアの奇襲によって、潰されて左目しか使えない。片目で獲物を探すのは一苦労する。

ワイバーンの周囲には熊の死骸が転がっていた。

「グアアアアアア」

 翼竜の咆哮が山中に響く。

 ゆっくりと羽を広げて、空に舞い戻る。

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまです」

「ひゃー、お兄ちゃん。全部食べたね~。ピーマンとか嫌いじゃないの?」

「それは、亜衣だけよ」

「むー。お姉ちゃんのいじわる」

「あははは、僕も小さい時は嫌いだったよ。そのうち食べられるようになれるよ」

「そうそう。誰もが通る道だからな」

「好き嫌いしておったら、育たんぞ。亜衣」

「うーん、お姉ちゃんよりも背が高くなりたいし、今度から食べるようにしようかな」

「えらいね。亜衣ちゃん」

 龍介はさりげなく亜衣の頭をなでる。

「えへへ~。ほめられちゃった」

 優香はその間に、3人分の弁当をカバンに閉まった。

「これからどうしますか?」

「俺たちはこの辺のことをあまり知らないから、この周辺を散歩したいんだけど、いいかな?」

 豪が散歩を提案する。

「そうですね。そうしましょうか」

 全員が立ち上がって、散歩しようとしたそのとき、一陣の風が吹いた。

 西側の森から鳥の群れが四方八方に飛び散り、何かから逃げていく。

「あれは…! ワイバーン!? この近くに潜んでいたのか!?」

 セリアは野生で培った視力でこちらに飛んでくるワイバーンを確認した。

「くっ、亜衣ちゃんは俺が背負っていく。みんな逃げるぞ!」

 豪は、亜衣を背負って走り出した。

「私が先頭を行く! 優香と龍介は最後だ!」

「は、はい!」

 セリア、豪、優香、龍介の順番でワイバーンが来る前に反対側の林へと走っていく。

彼らを視認したワイバーンは急降下して、追いかける。

 林の中を突き進む4人。空からワイバーンの咆哮が轟く。

 龍介は少しずつ、皆から離れていった。

「例え、翼がなくても…俺は戦う。勇気を持って、必ず勝ってみせる! いくぞ! ドラグーンソール!」

 ヒーローの名前を叫んで、彼の腰に変身ベルトが現れて、カードが挿入される。龍介は真紅の鎧を纏った龍戦士へと変身する。

光の柱が彼を包み込んで、鎧の縁に金色のラインが走る。肩、両足の脛には、炎を表すかのように金色のラインが波打っていた。

「これは、パワーアップしているのか…?」

 両腕に走っている金色のラインを見て、いつもとは違う変身だと認識する。

「なんでもいい! あいつを倒す!」

 木をジャンプ台代わりにして、素早く天辺に辿り着いた。

(軽い! 体が、羽のように軽い。そして、この速さは…! これならいける!)

「ワイバーン! 俺はここだ!」

「グァアアアア!」

 セリア達を追いかけていたワイバーンは、宿敵のドラグーンソールを見つけて興奮していた。急接近して、ワイバーンの爪が襲い掛かる。

「ハッ」

 ドラグーンソールは、攻撃を読んで、高く空を舞った。両膝を抱えて空中飛び前転をして、別の木の上に移動する。

(身体能力が、上がっている。これなら、「速さ」で勝負ができる!)

「ワイバーン。今の俺とおまえでは、空中での戦いは互角。ならば、地上での戦いはどうだ!」

 ドラグーンソールがワイバーンを挑発する。

「こい! 俺が相手になってやる!」

 ドラグーンソールは東へと飛び移っていく。その後をワイバーンが追う。

「ドラグーンソールが来てくれた…! 俺たちは大丈夫だ」

「がんばれー! ドラグーンソール!」

 亜衣がドラグーンソールを応援する。

「私たちはここに残ろう。彼の意思を無にするわけにはいかない」

(がんばれ、龍介。ここは私に任せろ)

 セリアは、戦う場所を選んでいる龍介を心の中で応援する。

(ここなら、本気を出せる!)

「ソールソード!」

 剣を構えて、ワイバーンが攻めてくるのに合わせて、飛んだ。

「ハアッ!」

 剣と爪が激突して、双方が何度も天と地に分かれる。

「くっ、あの爪が邪魔か!」

 ドラグーンソールは地面に着地して、空を舞うワイバーンを見上げる。

 ワイバーンは咆哮して、ドラグーンソールの周りにある大木を次々になぎ倒していった。

「くそっ! ソールナックル!」

 ソールナックルで襲い掛かってくる大木を一瞬で炭にする。

 直径にして20メートルもの大木がなぎ倒された。ドラグーンソールの隠れる場所はなくなり、空へと飛ぶ方法もワイバーンは奪い去ってしまった。

 ワイバーンにとって、最高の狩場となってしまった。

 空を飛ぶことができるワイバーンが有利といえる。しかし、「速さ」を得たドラグーンソールにも勝機はある。

剣をしまったドラグーンソールは、構える。いつ攻撃が来てもいいように、心を整える。2人の間に風が啼いた。

(勝負は、奴が襲い掛かってきたときだ。そのときが、攻撃をするチャンス!)

 ギリッと拳を強く握り締めて、闘志を高めてゆく。

「グオオオオオオ……!」

ワイバーンが咆哮して、急降下して攻めてきた。しかし、ドラグーンソールは逃げない。ドラグーンソールはギリギリまでひきつけて、ワイバーンの懐に潜り込んで腹部に渾身の一撃を与える。

「ソールナックル……!」

 反対側の大木に吹き飛ばされたワイバーンは、木を倒しながら自分の体も倒れてゆく。攻撃の手を休めず、ドラグーンソールは果敢に攻めてゆく。

「まだだ!」

 ワイバーンの尻尾を掴んで、右脇にがっしりと固めてジャイアントスイングをして投げる。

「おおおおおおおっ」

 方向感覚を崩されたワイバーンはよろよろと立ち上がる。

「デアッ!」

 ワイバーンの頭を掴んで、ドラグーンソールは背負い投げをする。

 仰向けにひっくり返ってしまったワイバーンを持ち上げて、投げつける。

 連続した投げ技を食らったワイバーンは空に戻ろうとしても、方向感覚が乱れた上に、仰向けの状態では羽ばたくことすらできない。

 いわば、ワイバーンは、翼をもがれた状態に陥られた。

「地球の平和を脅かす化け物め! このドラグーンソールが許さない!」

 ドラグーンソールはしゃがんで、大地を右手で叩いて宙を舞う。

「放たれる光は太陽の矢の如く。集まりし光は太陽の陽の如し! 必殺…!」

 空中飛び前転から、体をひねって、連続スピンさせる。破壊力をさらに高めた技を右足に集約した太陽の力が解放される。

「ソールスピンクラッシャー…!」

「グギャオオオオ!」

 ワイバーンの断末魔が響いて、消滅した。

 ワイバーンがいた場所は、僅かに焦げ付いていた。

 ドラグーンソールは着地して、周囲を見渡す。

「……今回はカードにならなかったな。カードになるものには、何か条件が必要なのか?」

 翼竜相手に初勝利を得たドラグーンソール。しかし、九尾の狐とは違う終わり方を迎えて、謎が深まっていくばかりだ。何の目的で、放送されるのか?

そして、あちら側の住民が何故この世界にやってくるのか?

「無闇に、戦わずに元の世界に返してやれる方法はないのか?」

 ルーガルーであるセリアとの出会いによって、日常を穢す化け物にも元の場所があると理解した龍介。しかし、元の世界に返す方法は彼には知らない。

「ん?」

 グォン……と急に空間が歪んだ。しかし、空間の歪みは消えて元に戻った。

 ヒラリと白と黒の羽が落ちていた。

「白い羽と、黒い羽…?」

 ドラグ―ンソールは、2つの羽を拾った。

「龍介―! どこだー!?」

「おにいちゃーん! どこー!?」

「龍介くーん! どこですかー!?」

 どうやら、戦闘が終わったことでセリア達が探しているのに気づいた。

 龍介は変身を解いて、白と黒の羽をポケットに入れて戻っていった。

「なるほど、九尾の狐の力を吸収して「進化」したか。ドラグーンソール」

 龍介が去っていた場所から巫女の女が現れた。

「しかし、これで登場人物のコアは整った。あとは、余計なことを探られる前にどうにかするべきか…? いや、少し泳がせたほうがいいのかもしれない」

 巫女は、龍介達がいずれこの番組の謎に挑もうとしていることも知っていた。

 「龍戦記ドラグーンソール」というと特撮番組の謎。誰がスポンサーで、何のために放送しているのか? そして、空間が歪んだことが何を意味するのだろうか?

「取り戻すものとそれを阻止しようとするものの物語。すべては―」

―ルインのために

 一同はバスに揺られて、駅へと向かう。

「いや~今日はとんでもないピクニックになりましたね」

 豪が一日を振り返っていった。

「そうですね。でも、龍介くんが無事でよかったです」

「そうだね~お姉ちゃんが一番心配していたもんねぇ」

「もう、亜衣ったら」

「えへへへ~」

 優香と亜衣の会話に和む龍介。

「心配かけてごめんね。優香さん、亜衣ちゃん」

「まぁ、無事だったからよかっただろう?」

 セリアは小声で龍介と会話する。

「先ほどの羽だが、見覚えはないな。この世界のものではないというのは間違いない。しかし……この羽からは微弱だが別の力が感じられる」

「別の力…?」

「なんと言ったらいいのかわからないが、黒い羽は魔。白い羽は聖の力だ」

「何を意味するんだろ?」

 バスの中で着信音が響いた。

「悪い。俺の携帯だ」

 豪のメール着信音が響いた。

 メールを見ると高幡修二からのメールだった。

「え? ええ!? あるルートから、ドラグーンソールの撮影プロダクションが見つかった。来週の日曜日に行かないか?って、マジか!?」

「ねえ? どういうこと?」

「えーと、ドラグーンソールを作っている会社が見つかったってことよ」

 亜衣の質問に優しく答える優香。

「え? それじゃあ、ドラグーンソールを作っているところを見られるの!?

私もいくいく! ねえ。お姉ちゃん、いいでしょ?」

「うーん、私としては友達との時間を大事にして欲しいんだけどなぁ」

 優香は困りつつも、亜衣の好奇心を抑えつけるのもどうかと悩んでいた。

「大丈夫だよ。友達との付き合いも大事にするから、日曜日に行けば大丈夫だよ!」

「うーん。まぁ、そうだな来週の日曜日に行くことになっているみたいだし。俺が店長に亜衣ちゃんのこと、話しておくわ」

 豪が話を通しておくことで決まった。

 セリアは、腕を組んで考える。

(事が上手く行き過ぎている…。妙なことにならなければいいんだが)

 トントン拍子に、事が上手く行き過ぎている感じが否めないセリア。だが、そのことを帰ってからでも伝えるのは遅くないと彼女は判断した。

あとがき

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・龍介、もげろ!

な作者です。何これ? ねぇほんとに何これ? ラブラブじゃない? 戦闘シーンは見劣りしましたが、力の入れようが違う気がする。

今回の戦闘のテーマは「投げ鬼」です。本当はワイバーンを8回くらい投げようかという方向にいっていたのですが、それだとワイバーンがかわいそうなので3回に。(普通の人でも3回も投げられたら、体がどうかしますよ;)

 前回は、ワイバーンの攻撃だけで終わってしまったが、反撃できてよかったと。

少しばかり謎が解明されましたが、また深まる謎という醍醐味。これ、ある意味ミステリーも含まれているような気がする。

そろそろ、1人で戦うのにも限界が来る頃だと思います。(話の内容からして、ドラグーンソール側の味方を作らないと)

次の話は、すでに完成して「豪」が初主役の回です。

投げ銭していただけると、喜びます(´っ・ω・)っ「創作関係に投資」(´っ・ω・)っ今さら編集できることを知る人・・・(天然すぎぃ)