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龍戦記 ドラグーンソール 第7話

龍戦記 ドラグーンソール 

第7話:「恐怖心」

 ピンポーンと犬飼豪の玄関のチャイムを鳴らした龍介。

「おお、予定通りだな。上がってくれ」

「お邪魔しまーす」

 龍介は人間に変身したセリアを連れて、彼の家にやってきた。

「ふむ? 僅かだが、異質なものが混じっているな」

「え? ひょっとして、敵?」

「いや、敵意だったらもっと強いはずだ。しかしアレだな…」

「何?」

「いつになったら、私を食らってくれ」

「セリア、今日の晩御飯抜きそして、お風呂はなしでいいね?」

「冗談です、冗談です。最高の楽しみを奪わないで下さい。龍介」

 セリアが何度も頭を下げて謝る。

「何2人で漫才しているんだ? まぁ、よく来たな。リビングに来てくれ。紹介したい人がいる」

 豪が玄関に来て、リビングに案内する

「?」

 セリアと龍介は顔を合わせて、疑問符を浮かべた。

 2人は彼の後を追ってリビングに来た。

「あ、豪。飲み物を用意したよ」

「おう、ありがとな。リーシ」

「え?」

 龍介は、豪の家にいるはずのない女の子を見て、一瞬である単語が思い浮かんだ。

「幼女誘拐」という四文字。

「豪! な、ななんで小学生を誘拐したの!? いくらなんでもそれはやりすぎでしょうが!? 今から自首しよう! そうすればきっと罪も軽くなるから!」

「だー誤解だ! てか、何を勘違いしているんだ!? リーシは、ハイエルフだっての!」

「はいえるふ? え? 自転車会社のエルフ??」

 実際にエルフという自転車会社は存在しています。

「龍介、混乱するのは無理もないが…豪が言うようにこの娘はハイエルフだ。しかもかなりの使い手だな」

「ふーん、一目でわかるってことは、あなたはルーガルーってことね。しかも魔眼つきの」

 リーシとセリアが視線を交わす。種族は違うが来た世界は一緒である。相手がどのくらい強いのかはある程度の判断がつく。

「ま、本題に入っていいか? 龍介、おまえはドラグーンソールだろ?」

「ええ!? もしかして、ばれてたの?」

「昨日気づいたんだけどな。たく、今までの行動を振り返ってみればおまえだということは簡単にわかるってのに…まぁいい。俺もおまえと同じ変身能力を持った。ドラグーンシルフだ」

「ドラグーンシルフ…3体目のドラグナー」

「どうやら、話を整理する必要がありそうね。龍介、豪」

「ああ、そのために呼んだんだからな。龍介、まずおまえから話してくれないか? どういう経緯でドラグーンソールに変身できるようになったのか?」

「わかった。アレは―」

 ソファに座って、4人は話し合った。そして、共通することがわかってきた。彼らに共通することは、背後に「ユニオン」と名乗る集団が蠢いているということ。

そして、ドラグーンソール、シルフ、アクアとドラグーンにも仲間がいるということ。

何よりも、ユグドラシルの世界の一部を滅ぼした竜を復活させようとしている者たちがいることを知ったのだ。

「なるほどな。ユニオン、か……しかし学年才女とまでフラグを建築するとはおまえ、もげろ」

「なんでもげなきゃいけないの!? てか、豪だって、かわいいハイエルフの子を連れているじゃないか!?」

「あら、褒めてくれるのね。豪の友、龍介」

「しかし、こうもハイエルフやらアクアとか色々と出すぎだな。何が出ても驚かんぞ」

 セリアが呑気に応える。

「リーシ、ソールの正体がわかったけど…戦い方を責めるなよ? 俺だって似たようなもんだしさ。俺だって完全に使いこなせるわけじゃないんだし」

「わかっているわよ。私だって、そこまで鬼じゃないわ。……でも、龍介が悪い人間じゃないって事はよくわかった。あなたが戦い始めたときの映像を見たけど、大切な人を守るために「力」を欲した……。普通の人なら、自分の命を守ることだけを考えてしまう。でもあなたはそれをしなかった。それだけでも太陽の龍ドラグーンソールに相応しいと思う」

 リーシは、なんだかんだといっても龍介のことを認めた。ワイバーン戦での無様な負け方と勝ち方は正直に言って、彼女は怒っていた。英雄の1人と謳われているソールの力を全く使いこなせていない人間がその力を使っていることに。でも、彼が初めて変身したときの理由を聞いて、考えを改めた。

「リーシさん……」

「……あなたは、コアカードは持っているの?」

「コアカード?」

「コアカードって、あれか白いカードのことだよな?」

 豪がリーシに聞き返した。

「ええ、そうよ。コアカードはそれぞれのドラグーンの戦い方やそれまでの記憶を記してあるものなの。あなたたちの世界で言えばルールブックみたいなものね」

「え? そんなもの、ないんだけど…?」

「え?! どいうこと? 今もっているカードをみせてくれないかしら?」

「ええと、はい」

 龍介はカードホルダーをポケットから取り出してリーシに渡した。彼女はカードホルダーに入っているカードを一枚一枚、丁寧に見て驚いた。

「うそ、コアカードなしに全ての技カードが使用可能になっている。そればかりか、パワーアップしているなんて…普通に考えてありえない」

「おい、ちょっと待ってくれ。それだと、コアカードがないと技カードが使えないばかりかパワーアップまでできないような言い方じゃないか」

「その通りなのよ。豪……シルフの技カードを見てみて」

「あ、ああ」

 豪もカードホルダーを開いて技カードを一枚一枚見ていった。一枚だけ、「エアーカッター」という技カードが新たに加えられていた。

「使用できない状態だと、ただの技名だけしかかれていない。使用可能な状態だと技名とカードに使用状態の絵柄まで浮かぶようになっている仕掛けになっているのよ」

「すると。この間、龍介が使った「ソウルスピンクラッシャー」や「ソールクラッシュ」も本来ならば、使えないということなのか」

 セリアが口を挟んだ。

「ええ、その通りよ。これから説明するけど、倒した敵をカード化されているならば、各ドラグーンの技や身体能力をパワーアップさせることができるの。いわば「進化」ね。

これは推測だけど、ユニオンによって捕らえられたユグドラシルの住民がカード化されると思う。今後パワーアップしていくには、私たち自身もカード化できる能力を持たないといけない」

「だから、ワイバーンはカード化されなかったのか。もしされていたら、空を飛べたのかな…?」

「だろうな。次の話にいくぞ。俺たちの中で、疑問にされているのは「誰が撮影」しているかということだ。俺とリーシの間では、「精霊」が撮影しているじゃないかという意見が有力なんだ。それについては、他に意見はないか?」

「いや、精霊ならば可能であろう。奴らならば、誰にも気づかれずにあらゆる場所から撮影することも可能だ。だが、精霊の戦闘能力はゼロに近い。神に崇められている精霊ならば話は別だが、この辺りの精霊は、土地や空気、風、水といった自然神からできているものが多いから害はない」

 セリアがそう断言する。

「なるほど。でも、精霊は他のいうことを聞くのは珍しいわね。セリアその辺りは、わかる?」

「いや、その辺はわからんな。しかし、ユニオンという奴らも気になるが明日行く製作プロダクションも何か臭いな」

 明日、修二の車に乗ってドラグーンソールの製作プロダクションに行くことになっている。しかし、ユニオンの存在を知った以上、油断はできない。

「そこで、だ。万一、戦う羽目になったら俺も出る。リーシとセリアは桂さんたちを守ってくれないか?」

「まぁ最初からそのつもりだからな。いざとなったら、魔眼で記憶を改竄すればいいだけのことだし、何の問題もない」

「いや、問題あるでしょ! 普通に問題だって!」

 龍介がセリアに突っ込みを入れる。

「そうね。何も知らない人間は知らないままのほうがいいのかもしれない。もし、知ってしまったら、命を狙われる可能性だってあるわね」

 リーシが冷たく事実を伝える。

「相手が精霊を使っている可能性が高いなら、個人情報なんてないも同然よ。どこの学校に通っているのか、いつ、どこで、何をしているのかもその気になれば知ることができる。

そうなれば、事故に見せかけて葬り去るのも簡単ね」

「そ、そんなこと、俺が」

「させない? 笑わせないで!」

 リーシがぴしゃりと言い放つ。

「いいこと? いくらドラグーンの力を持っていても、あなたは普通の人間なのよ? いつも臨戦態勢でいられるわけないでしょう? その手で掴み取れるものは限られている。

あなたたちに残酷なことを言うけど、英雄というは「選んだものしか守れない」のよ。

ヒーローといっても、自分の命も勘定にいれなければ…助けられた相手だって寝覚めが悪いわ」

 豪と龍介は、ドラグーンの在り方に困惑する。助けられるものは限られていること……その現実がどれだけ重いのか成りたての2人は知らない。

「……そうだな。自分の命も勘定に入らないと意味がないな」

「うん」

「よーし、みんなでゲームしようぜ。マリオカートかスマブラのどっちがいい?」

 パンと豪が手を叩いて、空気を入れ替えた。

「マリカー!」

「今度こそ負けん! 絶対に勝ってやる」

「かかっ、小娘が粋がるな」

 翌日の日曜日、ホビーショップ高幡に集合した一行は、ワゴン車に揺られて目的地へと向かう。

「店長、こんなに大勢ですみません」

「いやーなぁに。男が3人。それ以外が女性と来れば冥利なもんさ」

 助手席に豪、後部座席に優香、龍介、セリア、亜衣、リーシの5人となっている。

「しかし、姪っ子ねぇ。ドラグーンソールに興味持つなんて珍しいな」

「珍しくないよ。亜衣だって、ドラグーンソールに助けられたんだから、きっとその線だよ! ね。リーちゃん」

「あ、え、ええ」

 リーシは、亜衣から見て同い年と思われているので、口調を少し控えめに変えている。その様子に噴出す豪。

「…ぷっ」

 (豪、覚えていなさい。家に帰ったら、特別メニューの特訓でしごいてあげるから)

「りーちゃん?」

「な、なんでもないよ。うん。亜衣ちゃんは、何か得意な教科はある?」

「亜衣はね~」

 妹の会話を聞いて安心する優香。

「亜衣ったら、友達ができて色々と話しているわね」

「そうみたいですね」

(やばい、よく考えたら右に優香さん、左にセリア…女子に挟まれている。なんでこうなった!?)

「そうだな。しかし、同い年の子がいるとこうも違うんだな」

(動揺しておるな。ほれ、ほれ、優柔不断なおぬしにはきつかろう)

 セリアは逃げ場のない龍介に体を寄せる。

「!?」

「どうしましたか?」

 心配そうに龍介の顔を見る優香。

「い、いえ。今日はどこにいくのかなーって」

(せりあー! 覚えていろ)

「そうですね。店長さん、どこに行くんですか?」

「ああ。ちょっと、隣の県の山奥にあるプロダクションヴァルハラというところに行くんだ。昔の同僚で、上田って奴が見つけたんだ。現地集合ってことでなっているんだが、良くあいつが見つけられたもんだと思うよ」

 セリアとリーシは、「ヴァルハラ」という単語を聞いたとき顔色を変えた。

(偶然か? ヴァルハラは、神々が住まう場所とも言われている。その名前をあやかって、会社の名前に使うのだろうか?)

 セリアは、深く考える。しかし、人間界の誰かが神話の名前を使っているのも可能性として考えられなくもない。彼女は、考えるのをやめた。今のところ、何の異常も感じられない。むしろ、日常の一部だ。このまま何もなければいいと、彼女は思っていた。

 数時間費やして、目的地の山奥にやってきた。

「豪、カメラを回してくれ」

 修二は持ってきたビデオカメラを豪に渡した。

「いいですけど、わざわざ撮るんですか?」

「なーに、ちょっとした思い出だよ」

「わーカメラだー。私を映して映して~!」

 亜衣がはしゃぐ。

 豪はカメラ係で忙しくなった。

 廃墟と化したプロダクション事務所に彼らはやってきた。

「リーシ、今のところは?」

「大丈夫よ。何もない、わ」

「そうか」

 セリアが声をかける。

(それにしても、何? 宝物を守ろうとするような強い意識を感じる。いったい誰なの?)

 リーシは、何者かが発する意識を感じ取ったが、警告していいものかどうかわからなかった。

「それじゃ、いくぞ」

 修二が先頭を切って、プロダクションに入っていく。

「俺が最後に行くぜ」

「わかった。じゃあ、行こうか」

「うん!」

 亜衣はさりげなく姉の優香と龍介の手を繋いだ。

「私たちも手を繋ぐか?」

「冗談はよしなさい。さっきの言葉は撤回するわ。一応気をつけて。それだけしかいえない」

「…それだけで充分だ」

 セリア、リーシ、豪は警戒しながらプロダクションに入っていった。

 2階のドアを開けると数世代前のパソコンが置かれていた。

「うあ~パソコンばっかり。パソコンでできるの?」

 亜衣はずらりと並んだパソコンを眺めて、頭を左右に振る。

「そうだな。最近のアニメもパソコンで製作できるからな。いわゆるデジタル技術だろうな。とはいえ…上田の奴、連絡も着かないのか? 困ったな」

 修二は携帯電話を取り出して、上田に電話をかけるが中々でない。

「ん? なんだこれ?」

 豪は足元に踏んだ紙を拾って、見る。陽に焼けて黄ばんでいるが読めなくもない。

「ファーニバル…? 絵からするとドラゴンみたいだな」

 豪はカメラにも記録しておいた。

「あれ? パソコンが勝手に起動していますよ?」

 優香が一台のパソコンを指した。彼らは一台のパソコンに誘われるように画面をみた。

「なんて書いてあるの? 難しいローマ字の羅列が…」

「!これは、みんな。すぐに全部のパソコンを起動させて!」

 リーシが慌てて、周囲を促した。

「なんだ。藪から棒に? ただのプログラムだろ?」

「ちがう! これは、パソコンのデータを消す。デリートプログラムが作動している。早くしないと、ここにあるパソコンのデータが全部消されて、ただのガラクタになってしまうわよ!」

 セリアに突っかかるリーシ。

「なっ! みんな、手当たり次第パソコンを立ち上げてくれ!」

 修二が声をあげて、全員が手当たり次第にパソコンを立ち上げた。

 しかし、パソコンを立ち上げることはできてもプログラムを阻止することはできない。

「こんなの学校で習ってないよー!」

「亜衣は見ていて!」

「セリア、あっちも頼む」

「わかった」

「だー、何でデリートプログラムが作動するんだよ」

 リーシはパソコンの前に座って、キーボードを弾き出した。

(ここ数日で、なんとかパソコンの知識はあるけど……魔法を応用して、電子操作も簡略させ……ダメだ。削除の速度が速すぎる。いくつかのデータの確保さえできればいいけど、データの保存も転送も機器があったとしてもアウト。このプログラムの癖は、ルーンの文体と似ている? なら、このプラグラムや動画を作成した人物は同一?)

 削除する側とデータを残そうとする側の電子戦が行われていた。リーシが1人で戦っていることに気づいた面々は、彼女の後ろに集まった。

「リーシ、何かわかったか?」

 豪が声をかける。

「わかったことは、そうね。この動画を確保できたことくらい。再生するからしっかり撮っておいてね」

 リーシは豪が持っているビデオカメラを思い出して、動画のデータだけを残すことにした。マウスを操作して、動画ファイルを開く。

『そこまでだ! 地球の平和を脅かす化け物め!』

 動画ファイルの中で、ドラグーンソールが怪ロボットロベルガーを指差してけん制する。

『俺は太陽の龍。ドラグーンソール! 行くぞ!』

 パソコン画面の中で、ドラグーンソールが宙を舞って飛び蹴りを繰り出す。

 怪ロボットが力任せにソールの右足を掴んで振り回す。

『俺は龍壊し。ロベルガー。ドラグーンソール。壊す』

『何?』

 ソールは、地面に叩きつけられて一瞬。息が止まった。力加減されていない投げ技は、相手を呼吸困難に陥れる。

『…く』

 ソールは後方宙返りをして、距離感を置いた。

『太陽の光よ! 邪悪な敵を焼き尽くせ! ソール』

 太陽の力を右拳に宿して、大地を蹴ってロベルガーとの距離を縮める。

「これは、ドラグーンソールの第5話の動画じゃないか?」

「そうだね。確か、このあとソールナックルを撃ったけど、効かなかったんだよね」

(でも、なんで5話目の動画が?)

「おい、まだ続きがあるぞ」

 修二の声で、龍介はパソコン画面に意識を向ける。

 パソコン画面には、胸部を引き裂かれたドラグーンソールの出血した場面が映し出されていた。画面脇から、無数の人の形をした精霊が現われた。

「これ、なに? 人間なの?」

「亜衣はこれ以上見ちゃダメよ」

 優香は亜衣を連れてパソコン画面から離れる。

 1体の精霊がドラグーンソールに手を翳すと指が伸びて、手の甲が心電図に変形する。

「これって、よくドラマとかにある。心電図だよな。しかも心拍数とか測っているぞ」

 豪がカメラを回しながら言った。

 彼らは黙って、画面に食らいついていた。数十秒経って、心電図の波が徐々に弱くなっていき、やがて、ドラグーンソールが死んだことを告げる音がなった。

「……うそ、だろ?」

 修二の口から出たのはこの一言だけだった。

 ザザザ……とデリートプログラムの影響で動画ファイルまで削除されてしまった。

「しまった!」

 全てのデータが削除されたパソコンは自動的に電源が切られた。

「いったいどうなっているんだ? 今見たドラグーンソールが死んだってことは、じゃあ俺たちが今放送しているのを見ている。「ドラグーンソール」は、誰なんだ?」

 修二がそういった。その答えを知っているのは、この場で4人しかいない。しかし、その正体を明かすわけにはいかない。

 龍介は、数歩後退してその場に座り込んだ。

「龍介くん……?」

 龍介の肌着が汗で濡れていた。彼に、嫌な想像が付きまとう。動画越しに見えた。先代ドラグーンソールの死という現実。それは、「死の疑似体験」ともいってもいい。

(俺も、戦いに負けたら……死ぬのか? 死んじゃうのか!?)

 死というほど遠い未来。しかし、誰もが「死」が身近にあることは知らない。いや、知らない振りをしている。不安に飲み込まれ、絶望したことによる。心の死が先に訪れ、その後に肉体的に死んでしまうのが普通だ。

(いやだ。死にたくない。俺は……選ばれたわけじゃない…!っ)

「龍介くん? 大丈夫ですか?」

「ゆ、優香さん……」

 優香が龍介の頭を触ろうとした時、外からの砲撃で壁が崩れた。

「今度はなんだ!?」

 修二が驚いて、崩れた壁のほうをみると赤い鱗に覆われた体をもち、蝙蝠のような翼を生やした竜が飛んでいた。

「宝を荒らす者らよ! 即刻、消え去るべし!」

 竜が吼えると皆は耳を塞いだ。

「あの竜は、ファーニバルっ?」

 豪はさっき見た紙を思い出して言った。

「なんだと!? ファーニバル、そうか。そういうことか! ここの番人をしていたのは貴様か! ファーニバル!」

 セリアは優香たちを守るように前に出た。

 ファーニバル。ヨーロッパの伝説で、宝を守る竜として描かれているドラゴンである。宝を荒らした人間を死ぬまで追いかけるという執念深いドラゴン。口から吐き出す炎が人間を焼き尽くす。または、毒を吐くという。彼の英雄べオウルフを苦しめた相手でもある。

「あ、あわわわわ。ど、ドラゴン?」

 一番離れている亜衣がパニックに陥る。

「ここは逃げるぞ!」

 修二が大声でいうと、皆が走ろうとする。

「逃がしはしない!」

 ファーニバルは炎を吐き出して、攻撃する。

「プロテクトウォール!」

 リーシが防御して相殺する。その衝撃によって、建物全体が揺れて、コンクリートがひび割れてしまう。

「うわっ!」

 龍介は強く床を蹴ると、先ほどの攻撃で脆くなった床が崩れ落ちた。

「龍介くん!」

「優香! 龍介は大丈夫だから、行きましょう!」

 セリアが促して、階段を下りていく。

 2階から落ちた龍介は、瓦礫に埋もれていた。

「いててて……、くっそー随分派手にやってくれたな。でも」

 カードホルダーを取り出して、握り締める。

「―今の俺は、戦えるのか?」

 不安に満ちた声で、つぶやく。

「きゃああああ!」

 窓越しから外を見ると、外が火の海にされていた。

「くそー! 動け! 動けよ! このポンコツ!」

 修二がエンジンをかけるが、焦って上手く操作することができない。

「亜衣ちゃん、大丈夫か?」

 豪が後部座席に亜衣を押し込む。

「うん。でも、来るよね?」

「え?」

「いつも、ピンチの時にドラグーンソールが助けてくれるよね?」

 亜衣の純真な目に、豪はどう言葉を返したらいいかわからなかった。今の龍介の心理状態からして、戦えるかどうか正直彼にもわからない。いや、豪自身もさっきの動画を見て変身して戦えるかどうかもわからない。

「…きっと、来るさ。亜衣ちゃんが信じていればな」

 そういうことしか、言えなかった。

「優香、大丈夫か?」

「はい。セリアさんこそ」

「私はなんともない。急げ、リーシ」

「なんとか、持たせる!」

 彼女達は、走った。優香は龍介が無事であることを気になっていた。

 ファーニバルは、わざと攻撃を外して彼らに恐怖心を抱かせていた。そうすることで、死の恐怖に怯えさせて、命を奪い去ろうと企んでいた。

「お姉ちゃん! 早く!」

 亜衣が叫ぶ。

 ファーニバルは車の周囲にも火を吐いた。

「くそ! これじゃ迂闊に車を動かせない!」

(ここで変身するか!? しかし、俺は……!)

 豪もまた、死という疑似体験をして恐怖心に襲われていた。変身する勇気が足りない。

「優香さん! 皆!」

 龍介は、カードホルダーを強く握り締める。

 両足が怖くて震えていることがわかる。「死ぬのが怖い」とはっきりと体と心に伝わってくる。テレビのヒーローと違って、命がけで戦わないといけないと言うことがどれだけ怖いか改めて思い知った。

「くそ、動け、動けよ! 俺の体……! 優香さんが、セリアが危ないんだぞ! 俺がやらなきゃ誰がやるんだ! 動いてくれよ―――!」

 意識がどんなに叫んでも一度取り付いた恐怖心を拭うことは簡単にできない。

 それでも、彼は足掻いていた。暗闇の中で、光を求める漂流者のように。

 ファーニバルが両足で車を掴んで、空へと持っていく。

「しまった!」

 セリア、優香、リーシは立ち止まる。

「亜衣―――!」

 優香が妹の名前を叫ぶ。

「お姉ちゃん! 助けて、ドラグーンソール!!」

「くくく、いくら叫ぼうと、助けは来ない! 死ぬがいい」

 ビルの7階までの高さに到達した時点でファーニバルが片足ずつ離していく。

「うわっ」

「くそー!」

 車がガタンと傾いて、車内にいる3人は怖がる。

「絶対に、助けに来るもん! ドラグーンソール!!」

 亜衣は、助けてもらったヒーローを信じていた。絶対に助けに来る。どんな困難を乗り越えてやってくると。

「理想を抱いたまま死ぬがいい!」

「亜衣―――――!!」

 優香が絶叫する。

 もう片方の足が離されて、車が落ちていく。

「ドラグーン………ソーーール――――――――!!」

(そうだ。初めて変身した時だって…願ったんだ! 命を賭けて、優香さんを亜衣ちゃんを! 大切な人を守りたいと強く願ったんだ! 選んだのは、助けることだ!!)

 龍介は、真紅の龍戦士の名前を叫んだ。

 太陽の炎を身に纏いつつ、窓を突き破って駆け出していく。

 腕、足、と鎧に包まれて腰にベルトが現われて、全てのカードが挿入されていく。

 太陽の風となって、落下していく車の真下で変身が完了する。

「何?」

「…え?」

 亜衣はゆっくりと目を開ける。

 車はゆっくりと地面に着いて、ドラグーンソールの姿が見えた。

「ドラグーンソール! 来てくれたんだね!!」

 亜衣が笑顔満点で、話す。

 ドラグーンソールは頷いて応える。

「セリア、君たちは早くここから逃げるんだ」

「あ。ああ」

「ドラグーンソール。ありがとうございます」

 優香は、彼に礼を言った。

「ファーニバル! おまえの相手は、この俺だ!」

「ほう、空も飛べない者が何をいうか?」

「羽があるから、飛べるとは限らない」

 プロダクションのビルの壁を走って上り、三角飛びの要領で空中にいるファーニバルの背中を蹴った。

「な!?」

 車がある場所とは反対方向に、ファーニバルが突き落とされた。

「くっ、馬鹿な。貴様、何者だ!」

「俺か?」

 製作プロダクションのビルの屋上に、ドラグーンソールは舞い降りる。

「俺は太陽の龍戦士! ドラグーンソール! 太陽の炎が、おまえを焼き尽くす!」

 左手で天を指し、縦に空を切って、右手で横一文字に切る。

 両手に力を込めて、戦う覚悟を決める。

「太陽の龍!? ほざけ、翼のない太陽の龍など、恐れるに足りん!」

 ファーニバルは、火の塊を製作プロダクションにぶつけて、溶かした。

「とぅ」

 ドラグーンソールは空中で体をひねって、華麗に着地した。

「それで、俺の攻撃を封じたつもりか? いくぞ!」

 右足に集約した太陽の力を溜めつつ、真っ向から挑んでいく。

 ファーニバルの火がドラグーンソールに襲い掛かる。しかし、彼は火を浴びつつも前進していく。

 大地を蹴って、空中に舞って空中飛び前転で、蹴りを浴びせる。

「ソールシュート!」

 ファーニバルの右鎖骨を折って、動きを鈍らせた。

「ぐうっ、ドラグーンソール!」

「言ったはずだ。おまえの相手は、この俺だと! 恐怖に陥れた罪、俺が裁いてやる!」

 ドラグーンソールが拳を放つ瞬間に、ファーニバルの尻尾が襲い掛かってきた。

「ぐあっ!」

 林のほうへと体が飛ばされてしまう。

「く……っ この痛み、負けるもんか」

 背中を強打したが、ドラグーンソールはゆっくりと立ち上がる。

 ファーニバルは、ドラグーンソールに体当たりして、彼を吹き飛ばした。

「うああっ」

「俺が火だけ、操ると思うな。毒だって、操れる!」

 ファーニバルは体勢が崩れているドラグーンソールに毒を吐く。

「ハリケーン・ヴェッダー!」

 突如荒れ狂う竜巻が発生して、毒を弾き飛ばした。

「疾風の龍! ドラグーンシルフ。風に誘われ、ここに参上!」

 緑の鎧を纏った戦士、ドラグーンシルフが颯爽と現われる。

「なっ。ドラグナーが2人も!?」

「ちょっとばかり、機嫌が悪いんで……最初からぶっ飛ばす!」

 先ほど、好き勝手にやられた怒りからかシルフは暴れたいという気力を体全体から発している。

「くそ、ここは撤退!」

 空へと逃げる。ファーニバル。

「させるかよ。エアーカッター!」

 手から風の手裏剣が放たれて、ファーニバルの翼に突き刺さる。

「ギャ―――――!」

「そらそらそらそら!」

 両手を激しく振って、連続で手裏剣を放つシルフ。全ての手裏剣がファーニバルに突き刺さる。

「一気に決めるぞ、ソール」

「わかった。シルフ」

 2人の戦士が立ち上がる。

「風よ。吹き荒れろ、天を巻き込め! サイクロン!」

 竜巻を起こして、吹き荒れる。ドラグーンソールが風の中に入って、上っていく。

「ぬおおおっ」

 風の檻に捕らわれたファーニバル。

「ソールソード!」

 剣を持って、ドラグーンソールがファーニバルを迎え撃つ。

「剣よ、太陽の光を呼べ! ソールクラッシャー!」

 太陽の光を宿した剣が煌いた。剣をファーニバルの胴体に突き刺して、火花が散る。

「ぐあああ、ががが」

「あああっ!」

 深く突き刺しながら、両者は地面に落下する。

「シルフ!」

「おう! サイクロンカッター!」

 右腕に風の刃を作って、ファーニバルの背中を引き裂いた。

 ソールとシルフがファーニバルから飛び退くと、ファーニバルは爆発に飲み込まれた。

そして、1つの球体が現われて、球体は、カードと人間に分離した。

「何?」

 カードはドラグーンシルフのベルトに取り込まれた。

「え?」

 ドラグーンソールは、倒れている人間に近づいた。

「だん、せい? どうして、男の人が」

「この人、もしかして、「上田」って人じゃないのか?」

 2人は変身を解いて、倒れている男性に触れた。

「とにかく、車に戻るぞ」

「え? で、でも、店長が」

「大丈夫。セリアが魔眼で催眠かけて、一時的に記憶喪失にさせている。桂さんたちも無事だ。問題なら解決済みだ」

 ほっとする龍介。

 その後、彼らは無事に帰宅していった。

 亜衣は亜衣で、ドラグーンソールが助けてくれたことがよほどうれしかったらしい。

「さーて、俺らも帰るか」

「そうだね」

「豪、帰ったら特別メニューの特訓を組むから覚悟しなさい」

「え…? 俺なんか悪いことした?」

「かかか、それはいい」

「セリア、今日のご飯減らすからね」

「私が何をしたー!?」

「車の中でわざと体をくっつけてきたこと」

「それだけは、それだけは~」

「ダメ」

 なんだかんだで、彼らの日常は去っていく。

 街中で、1人の少女とすれ違う。

「なっ?」

 リーシは慌てて、振り返る。

「どうしたリーシ?」

「今、電気娘がいたぞ」

「なんだって!?」

 豪も振り返るが、まばらに散っている人が多く。見逃してしまう。

「くそっ、もういない! しかし、あの動画でわかったことは精霊が撮影していたことぐらいだったな」

「ええ、それだけね。でも、もう1つ、背後にユニオンが噛んでいるって事は確信したわ。

皮肉なことに、ファーニバルのことでね。ユグドラシルにいたものをカード化させているのは間違いわ。そして、人間を媒体にして現実化させている」

「そうだな……豪、うちに帰ったらあれやるぞ」

「あれ? んーアレは思いついてやっているからなぁ」

「あれって何だ?」

「アーできたら教えるよ。それじゃ帰ろうか」

あとがき

どーしてこーなった(AA略)はい、過去最大の枚数で提供しております。

ここまでは予定通り。次の話以降が想定外続きです。

さて、ここでお読みになれば大体の強化展開やある程度のお約束はお分かりになるはず。

一応22話の予定ですけども、オーバーしてしまったらすみません;;

(諸事情でニチアサ対抗のために週一ができないかも。)

さりげなく、技のオンパレードのシルフさん。というよりも作者の影響で何かしでかしそうな気がしてならない。男は狼だしなぁ。年頃になったなら慎みなさい。(SOS)

 ちょいとここでネタ晴らしを。本当はシルフさん及びアクアさんは登場させる予定がなかったんです。昭和ライダーのようにヒーロー独りで肉体言語とする予定でしたが、「んじゃ平成ウルトラマンの客演みたく増やすか?」と思い付きでアレヨアレヨともげろ展開とメタ的なことがかけるリーシとセリアが誕生しました。

 中学生時代に「電脳冒険記ウェブファイター」とアニメのウェブダイバーの放送時期と重なり、デジモン+ネット内での冒険変身ヒーローとして趣味で書いておりましたがデータなどに残しておらず、ある意味ではその設定がリーシとセリア。およびドラグーンの戦士の設定に活かされていると思います。ウェブダイバーはOPED詐欺と私は思っています。

さて、次回の話は既にできておりますが。電気娘VS豪となっております。ラストであいつも出ますが、制作中の展開でどうやってやろうかと悩んでおります。(誰だよ! プロット書かないで、勢いでやったの?! あ、私か)

投げ銭していただけると、喜びます(´っ・ω・)っ「創作関係に投資」(´っ・ω・)っ今さら編集できることを知る人・・・(天然すぎぃ)