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何もない愛しき日常

会社の近くに昔ながらの洋食屋さんがある。美味しい!オススメ!とは言わないけど、なんとなく食べたくなるカレーがある。

インドじゃなくていい。お高級でなくてもいい。素朴なカレー。とか言いつつ、料金はなかなか強気。カレー1000円。カツカレー1050円。カツが乗っても50円しかアップしない謎設定。カロリーとコスパの狭間で、カツを乗せるか乗せないか悩む。

その日はカツカレーの気分だった。ランチとディナーの間が私のランチタイムなので、あまり人がいない。珍しく女性が座っていた。カレーが入っていたと思われるお皿はもうカラに近い。

私一人なら躊躇なく「カツカレー」と注文するのだけど、女性を見て途端に羞恥心が働いた。「あいつ女のくせにハイカロリーなもん食べるなあ。だから太ってるんだよ」なんて心の声を妄想。

いやいや、ここは負けてたまるか。彼女の席からは、私の背中しか見えないはずだ。作業着とジーパン姿の私の背中は女性に見えまい。カツカレー注文。

食べ終わった女性がお会計で席を立った。お店の人の声「1050円です」。

ハイカロリー仲間だった。

私が食べ終わるころ、またひとり女性客が入ってきた。

「カツカレーお願いします」

なんだ、案外ハイカロリー仲間がいるもんだなと、勝手に仲間意識が芽生えてくる。

顔も名前もどこで働いているかもわからない、今後また出会えるかもわからない。一期一会。

特にドラマは起こらない。何も起こらない日々を愛している。

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