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紀元前、紀元後的な

NHKでドラマ「大奥」のシーズン2が始まった。
シーズン1の時は、父さんはまだ生きてたんだよなあと思う。

4月に某ご当地アイドルグループのリーダーが卒業した。そのライブで発表したラストソングを、リーダーが抜けた編成で歌っているのを9月に見て、うわあ、初めて聴いた時は、父さん生きてたんだよなあと思った。

父が倒れた直後、美容院の予約をしていたけど一旦キャンセルして、取り直した。だいぶ明るかったので、髪色を落としてもらった。

約2ヶ月経って、父が亡くなった直後にも、髪がまとまらないほど伸びたので美容院に行った。

前回来た時は、倒れてはいたけど父は生きていたよなあって、ぼんやり鏡を眺めていた。私の悲しみを知る髪の毛が切り落とされていく。少し寂しいけど、伸ばしっぱなしにしたところで、広がるだけの乾燥気質の美しくない髪なので仕方ない。

いつもの美容師さんには、私の父が倒れたことも、亡くなったことも話さなかった。話さなければ伝わらない。悲しみは確実にここにあるけど、日常に戻ってしまえば顔に出ないもんだ。当たり前のことを噛み締めていた。

父を知らぬ毛髪だけになるのは、いつだろう。悲しみを一緒に乗り越えた戦友と別れるのは、1年ぐらいかかるのかなあ。

母が亡くなった時、これから先に出会う人々には、私が抱える葛藤の証拠を見せられない、それは、本当の意味での友人や恋人といった深い存在になれるのだろうか、と思っていた。

私の中では失われることのない葛藤なのに、母のことも父のことも、昔話になってしまう。私が嘘を語っていない証拠がない。

紀元前、紀元後のような。

母が亡くなるまでがファーストシーズン、母が亡くなってセカンドシーズン、父が亡くなったいまはサードシーズンと言ったところか。短かったな、セカンドシーズン。

2020年ごろ、父が旅に出る夢を見た。車に乗って、名古屋や大阪に行くと言う。

この間、帰ってくる夢を見た。車から降りて、玄関の鍵を父が開けるのを、左隣から声を掛けた。「お父さん、おかえり!」

そこで我慢出来たら、もっと話ができたかもしれないのに、視界が霞んで現実に帰ってきてしまった。残念だ。

その日は母の命日前日だった。

母のときも亡くなる1年ぐらい前に、父の実家から逃す夢を見た。四十九日が過ぎたぐらいのときに、帰ってくる母の夢を見た。

人は死ぬ前に、ひと足先に魂の一部が旅に出るのだろうか。それは人生の反省会を意味しているのだろうか。やっぱり家がいいんだよと、私に教えてくれているのだろうか。

答え合わせは永遠にできない。

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