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高齢期リハビリのココロエ11 亭主関白は施設入所すると家に帰れなくなる

「帰らせろ!!」と興奮、大声を出される方もおられます。介護老人保健施設(介護保険下リハビリテーション施設)の一場面です。多かれ少なかれ、一年に数人は『帰りたい』きもちが強くなる方がおられます。
 実はある一定の割合で本人の納得を得ず(といいますか本人が認知症で理解・判断できなくてやむおえず)入所される方がおられます。一人で生活をすることに多大なリスク(多くの場合転倒リスクや生活を自分で送るには危険)のある方が、いきなり連れてこられるケースです。もちろん家族は一応の説得を試みます。しかし本人は理解できなかったり忘れたりで、『おとうさん、やむ負えない事情があって施設に入ってね』という娘の説明自体が『なかったこと』になります。それでも説得は必須です、形上は無理やり入所させるわけにはいけませんので。
 つまり『当人は家で暮らせる自信がある』が、『家族からみれば一人で暮らすには危ない』という方になります。双方、噛み合わずあれよあれよの入所となるわけですね。
 一方、そのような方は初期〜中期の認知症であること、さらに女性であれば『身体で覚えている家事はなんとかこなせる、生活力がギリギリな方、男性であれば『家事は妻に任せて家でゴロゴロテレビを観ながら動かない亭主関白の夫』という特徴をもたれています。
 そのようなことですから女性の場合は施設でも家事などを行えば帰りたい気持ちはいくらかおさまります。しかし、元々何もしてなかった男性が入所すると、一日することがもちろんありません。活動の誘いかけも運動以外は大体断られます。
 これに対して職員がなんとか施設の生活に馴染ませたらいいのでは?と思われるかもしれませんが…非常に難しいです。そもそもそのような男性は家事は妻に任せ、趣味は身体が衰えたことを理由にやめてしまっているため『するべき』、あるいは『したい』作業・活動がないのです。そして帰りたいきもちが膨らみ続けます。これが亭主関白の男性のひとつの末路です。
 わたしたちスタッフも「帰りたい!帰らせろ!」という方には帰っていただきたいのですが、必死になだめるしかありません。帰れない理由の基本は家族の意向です。家族が覚悟を決めれば多くの場合、介護保険サービスを使いながらなんとかかんとか在宅生活を送ることはできます。しかし、亭主関白でえらそうに生きてきた方は煙たがられます。
 亭主関白→家事しない→衰えて趣味をやめた→施設入所→することがない→スタッフから誘われても何もしない→感情的になりやすくなる→帰りたい気持ちが強くなる、そして『亭主関白だったから家族は在宅で一緒に暮らしたくない』となります。どこかで負の連鎖を断ち切りましょう。


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