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かつての仲間と、もう一度海に入ろう。「大人の大人による大人のためのライフセービング祭」

※諸事情で半年以上公開されなかった記事。書いてくれたお二人、ありがとう!!

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学生時代からライフセービングに積極的に取り組み、社会人になった今でも各々の立場で活動を続ける男女4人のライフセーバー達が、海から離れてしまった元ライフセーバーを巻き込んだ革命的なイベントを企画した。
今回このイベントのカメラマンとして参加させて頂いた、戸向陽介(由比ヶ浜 surf&sports・Shirasu squad )と、選手として参加した榎本宏暉(勝浦LSC・Shirasu squad )からレポートをお届けする。

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『社会人とライフセービング』

このイベントは、年齢も大学も所属浜も異なる4人の社会人ライフセーバー達の「ある思い」から始まった。

「社会人になってライフセービングから離れてしまっている人達に、学生時代の青春を思い出せる様な、もう1回海に戻るキッカケになるようなイベントをやりたいと思った。」と話すのは、このイベントの発起人の1人であり、実行委員長を務めた大山玲奈さん(波崎SLSC)だ。

私が学生の頃に聞いた話で、社会人とライフセービングについて印象に残っているものがある。JLA学生室(現:学生委員会※)の定例会に、ライフセービングシステム開発委員会の毛利智さんが講師としていらした時のことだ。

「ライフセーバー人口の内訳を見てみると、大学生が圧倒的に多く、社会人の年齢に達すると減少する傾向にある。これは就職した時、地方に転勤になった時に、活動する環境がない、一緒に活動する仲間がいない等の理由でライフセービングから離れて行ってしまうから。」

毛利さんらが取り組む活動は「システム面の整備を行うことで続ける人を増やす」という切り口であるが、今回彼女らは、「海から遠退いてしまっている元ライフセーバーが、海に戻るきっかけを作る」という、今までにありそうでなかったイベントが動き出した。

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「お祭りが動き出す…」

彼女の思いに賛同し実行委員に名乗りをあげたメンバーの中に、高柴瑠衣さん(鹿嶋LGT)がいる。かつて大山さんと同じ早稲田大学LSCに所属し、得意のスイムで全国に名を馳せたオーシャン種目の猛者である。社会人になった現在も一般企業に勤めながら、パトロールに競技に積極的に取り組んでいる。

このイベントの参加者は、普段トレーニングを積んでいる人はもちろん、海から離れて久しい人や、小さなお子さま連れ、カップルや夫婦での参加など、実に多彩な顔ぶれだ。

「最初は20人くらいが集まってこぢんまりやれればと思っていたのですが、ふたをあけたらすごい人数でした。」と驚きを隠せない高柴さん。

この多種多様な参加者を楽しませる為に、プログラムは工夫が凝らされ、実に丁寧に作り込まれていた。

ファンレースの雰囲気や詳しいプログラムの様子は、実際にレースに参加した榎本にバトンタッチして紹介してもらおう。

「緻密に練られた、参加者想いのプログラム」

選手として参加させていただいた立場として今大会を振り返っていきたい。

この大会の参加資格は、
・2019年4月1日時点で22歳以上の大学生・専門学生でないもの(大学院生は可)
・ベーシックライフセーバー以上の資格を保持しているもしくは以前保持していたもの、となっており、
一度、ライフセービングから離れてしまった人でも気軽に参加できるものであった。

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今大会の会場である辻堂海岸には、今でも全日本選手権で表彰台争いをしている選手、世界大会に日本代表として出場した経験のある選手、団体種目で世界記録を更新した選手など、ライフセービングマニアであれば大興奮間違いなしの顔ぶれが揃っていた。
(筆者は密かにテンションがあがっていた笑)

今回行われた競技は全部で9つ
・ボードレース
・サーフスキーレース
・ビーチフラッグス
・ボードレスキュー
・ビーチリレー(片道50m)
ここまでは、通常の大会でも存在する種目であるが、今大会には以下のオリジナル種目が存在した。
・親子でタンデム★ボードレース
・親子でライフセーバーになろう!レース
・ぐるぐるバットビーチフラッグス
・沖からスタート!サーフレース

それぞれのレースではヒート(年齢別)に分かれており、その中で順位を決めるというものだ。いくつかの種目は実際のレースの3分の2程度の距離で行われ、久しぶりにライフセービング競技を行う選手にも優しいコース設計となっていた。また、団体種目では自由にチームを組める仕組みとなっており浜、出身大学の垣根を超えた様々なチームを見ることができた。

それでは白熱の競技をいくつか振り返っていきたい。

「全年代で白熱!ボードレース」

まずオーシャン競技で最初に行われたボードレースから振り返っていく。

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この日の辻堂海岸はセットで腰程度の波があり、
波打ち際はドン深、少し沖に行くと足首程の水深になるイン・アウトにテクニックを要するコンディションであった。

男子ベテランヒートでは、西浜SLSCに所属し今や日本のライフセーバーで知らない人はいないといっても過言ではないNPT(Nice Performance Team)の荒井洋佑選手と勝浦LSCで同じくNPTの篠田智哉選手、九十九里LSCでこちらもNPTの出木谷啓太選手の3選手が先頭争いをする手に汗握る展開となった。上記の3選手の後ろには下田LSCの久源太選手、勝浦LSCの安達雄太選手がぴったりくっついている。そんな中、時折来るセットの1枚目に荒井洋佑選手が乗り、ガッツポーズ!見事ベテランヒートの1位を獲得した。
その後2位~5位の選手が同じ波に乗り、表彰台争いはラン勝負へ。
その結果見事表彰台へ上ったのは出木谷啓太選手(第2位)久源太選手(第3位)であった。全日本選手権さながらのレースに観客一同が盛り上がった瞬間であっただろう。

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「縦沈したってへっちゃら・親子でタンデム★ボードレース」

次に振り返るのは今大会オリジナル種目である
親子タンデムボードレース
この競技は大人と子どもがタンデムで沖のブイを回って帰ってくるという競技であり
小学校に進学している子もいれば、まだまだ小さい子もいる為、万全な安全管理体制の中で行われた。

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この競技は普段ライフセーバーが救助トレーニングや、レスキューボードレスキューの練習を行う際には大人と2人乗りすることが殆どであるため
前に体重の軽い子供を乗せた時に自身の乗る位置や、波に乗った際の体重移動などを
上手くできるかがポイントになっていく。

第2ヒートでは甥っ子と一緒に出場していた鹿嶋LGTの高柴瑠衣選手ペアが序盤から抜け出し
盤石の体制でアウトに差し掛かっていたがここで波に乗った際に沈。
子供であれば、泣き出しそうなシチュエーションではあるが無事にボードに乗りなおした後、笑顔で浜に帰ってきたのである。
これは高柴選手が甥っ子とのレースを心から楽しむ気持ちや、ライフセーバーとしての安心感が笑顔を生み出したのではないだろうか。

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大人と一緒に笑顔で海から上がってくる逞しい未来のライフセーバー達を見て、心が温かくなった瞬間であった。

「どこへ行くの?ぐるぐるバットビーチフラッグス」

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最後に振り返っていくのは今大会一番の盛り上がりを見せたといっても過言ではない
「ぐるぐるバットビーチフラッグス」である。
これは皆さんご存知であろうぐるぐるバットとビーチフラッグスを組み合わせたハイブリットな競技である。(笑)

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競技内容はいたってシンプルで、ぐるぐるバットを10回行った後に、フラッグ(今回はポテトチップス)を取るというものである。

実際にレースが始まってみると、逆方向へ走ってしまう選手、走り方がどうも変になってしまう選手など十人十色のリアクションが見られた。

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今回、参加していたビーチフラッグスの達人でも10回回ってからとなるとやはり勝手が違うようで普段オーシャン競技をメインとしている選手がフラッグをもぎ取る下剋上も見られた(笑)

フラッグが全て取られた後には、レースの参加者全員が砂浜に倒れ込んでいるという
混沌した状況に会場は大盛り上がりであった。

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全ての競技を終えた後には、スタッフの学生たちが競技の行われている間もずっと準備をしてくれていたホットドッグでアフターパーティ兼表彰式が行われた。
表彰式では、ゴーグルや、防水バッグ、サプリメント、海軍カレーなどかなりの豪華賞品が対象者へ付与された。

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「実行委員の粋な提案とこだわり」

実行委員のこだわりはプログラムの内容だけに留まらない。実行委員の上野凌さん(西浜SLSC)は、カメラマンとして参加した私や、西山俊さん(湯河原LSC)、根岸春果さん(館山SC)にこう切り出した。

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「参加してくれた人達の思い出に残る1日にしたい。それには写真がとても重要だと考えているので、カメラマンの皆さんにもどうしたら思い出に残るような写真を撮ることが出来るか考えて欲しい。実行委員は、カメラマンが撮りたいものを撮れるように進行していきたいと思っています。」

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この申し出にはかなり驚かされた。イベント事では、たいてい指示されたもの、タイミング、制限された場所で撮るか、特に指示もなく放牧状態なことが多いカメラマンにとって、「写真を撮ること」を中心にイベントが動くスタイルはとても新鮮で画期的だった。

ファンイベントとはいえ、レースをする上では当然マーシャルやレコーダー、海のレースには安全課も必要になってくるが、実行委員はそこも抜かりない。各種大会で誰しも1回は見たことがあるプロフェッショナルを配置し、少数精鋭で運営を行った。

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実行委員の海セクション担当の斎藤由里さん(下田LSC)は、安全課として参加した浜路憲太郎さん(西浜SLSC)や、「モグケン」こと中川健さん(辻堂LC)とのパイプ役となって、レースのコーディネートを行った。安全課メンバーは、いつもの大会と同様、朝早くに集まってブイ設置などレースコースの設営を行なってくれた。来週末に迫った全日本選手権では、安全課メンバーの巧みな水上バイクやIRBさばきにも注目だ。

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多くの参加者はファンレースらしからぬ形相で(特に男子サーフスキー)、水中カメラマンの横を漕いで行くが、斎藤さんはドームマウントを付けたgopro を見て、「スゴーーーーイ!!」と叫びながら猛スピードで通り過ぎて行った。イベントの仕事に囚われず、実行委員達自身も全力でレースを楽しんでいるようだった。

「お祭りの影の立役者」

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「大人の大人による大人のための…」と謳われつつ、当日会場にいたのは社会人だけではない。学生ライフセーバーもスタッフとして活躍していた。連携の取れた素晴らしいチームワークで、会場のテントの設置から、レースの補助、レースをしている裏では表彰パーティー用のホットドックの準備をしてくれていた。きっと学生達は、就職して社会人になってもこうしてライフセービングを通じて集まって盛り上がることができるということを身近に感じたに違いない。

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「元ライフセーバーの輝く場所」

この「お祭」を開催するにあたり、実行委員は地元辻堂のサーフショップをまわったり、漁協や海浜関係者のもとへ挨拶に行ったという。高柴さんは、「初めて運営をやってみて、普段の大会の運営がどれだけ大変なことなのか、どれだけの人に支えられて大会が開催できているのか、本当に感謝しかない。」と語ってくれた。

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全日本とは規模は異なるものの、彼女らの呼びかけにこれだけの参加者と協力者が集まったのは、彼女達の人柄あってのことだろう。今後こうしたイベントは、所属浜や大学にとらわれない繋がりが生み出す新しい形のライフセービングコミュニティになっていくに違いない。

日程や内容はまだまだ未定なものの、来年も開催する予定ということだ。パワーアップして戻って来る「大人のお祭」が今から楽しみだ。

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「創る人達への思い。」

学生時代に、学生選手権にて選手・運営・応援として参加したことがある人達は毎年この時期に大盛り上がりを見せている学生選手権を見て「いいな」「もう一回やりたいな」と思う人が大勢いるだろう。

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そんな青春を思い出させてくれたのがこの「大人の大人による大人のためのライフセービング祭」という大会であった。なにより実行委員、スタッフの皆さんを中心に参加者全員で作り上げていく雰囲気が素敵であったし、そんな大会に参加できたことをとても嬉しく思う。

今回、地元のサーファー・地引網・遊泳客・漁師の皆様や、IRBで安全管理をして下さった安全課の方々、そして朝早くから準備・運営をしてくれた学生の皆様などとても多くの人々の協力があり今大会は実現している。

沢山の協力が実現したのも実行委員の4名の人柄やこの大会に対する熱意やが成せたものであると感じるし、その実行力には脱帽である。

筆者自身、今大会に参加させていただき最後までずっと笑顔が絶えなかった。

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私がそうであったように、参加者の笑顔がとても多く見られたハートフルな大会であった。改めてこの様な素敵な大会を企画、運営してくださった実行委員の上野凌さん、大山玲奈さん、高柴瑠衣さん、斎藤由里さんを初めとした皆様に感謝申し上げたい。

そして、現在学生の皆さんは社会人になったらこんなにも素敵で、楽しい事が待っているという事を是非とも知っていただき、卒業しても何らかの形でライフセービングに関わっていって欲しいと思う。

勝浦LSC・shirasu squad 榎本 宏暉

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「社会人になった元ライフセーバーの戻る場所」

社会人になると、学生時代にあった所属浜や学生クラブのトレーニングの機会はなくなりがち。

今回このイベントを終えて、「ひさびさに海でトレーニングをしてみようかな」「またライフセービング始めようかな」と思った社会人ライフセーバーの皆様、もし一緒にトレーニングする仲間にお困りであれば、ぜひ「Shirasu squad」のインスタグラムを見て頂きたい。


私たちは、江ノ島水族館前を中心に活動するライフセービングコミュニティ。年齢も所属浜も異なる社会人ライフセーバーが「目指せ敷居の低いライフセービングコミュニティ」をモットーに、トレーニングを行っている。

インスタグラムを運営するメンバーはいるが、入会資格や固定のメンバーはおらず、「一度でも一緒に漕げばしらす隊」のスタイル。

もちろん社会人だけでなく、ボードを練習している学生、ベテラン様もビギナー様も、興味をもって頂いた方はぜひ @shirasu_squad_slsc のInstagram を覗いて頂けたらと思う。

Yuigahama surf&sports・shirasu squad 戸向陽介


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と、記事はここまでです。

大人の大人による大人のためのライフセービング祭、今年もやるつもりだけれど・・・このご時世、正直先がどうなるか、わかりません。

でも、ライフセービング活動に終わりはない!と思うので。

今年できなかったとしても来年も再来年も、やります。

次は何について、書こうかな~

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