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私的消費研究史

学部生時代に、マーケティング研究会というサークルに所属していました。年間に何度かグループで論文を書き、各地・各レベルで開催される大学生の討論大会に出るという活動をしていました。

部室棟の上層階から聞こえてくるハワイアン演奏の音を聞きながら、毎晩夜遅くまでミーティングをして論文を作っていました。2年生の時に執筆を任された論文の一節が「コンシューマリズム」でした。マクロな視点で消費について考えたり、アクティビズムを積極的に評価する今も続く私の研究姿勢は案外この最初の仕事と関わっているのかもしれません。この時に勉強した佐藤肇先生の現代の流通機構(わが国におけるコンシューマリズム理解の定番が示されている)や、翌年からゼミに入って師匠となる阿部真也先生(橋本勲先生共編著)の『現代の流通経済』における多元的重層構造概念で示されていたダイナミックな視角が今も研究の根幹を支えています。

消費が私の研究にとって中心的なテーマになるのであろうというのは、学部の学生時代から一貫したイメージでした。しかし、学部ゼミと修士の間は、マーケティングや流通研究の基礎や、その周辺学問領域を網羅する勉強に追われます。修士論文はマーケティング・チャネルに関するものだったので、当時はやっていたとはいえ、ずいぶん苦労した記憶が蘇ります。

転機になるのは、博士課程の1年目に、研究室で消費研究の機運が高まったことでした。その最初に石原武政先生の『マーケティング競争の構造』第3章「消費者需要とマーケティング」を検討することになり、私が報告しました。「石井・石原論争」がはじまる何年も前のことでした。同時にスタートしたのが、マクロマーケティング学派による消費研究の解読でした。師匠が持ち込んだマクロの消費パターン研究は、まったく斬新なものであり、私はすぐにその研究に比重を移していくことになります。

その後、就職してすぐに大学院時代の共同研究の成果は阿部真也監修『現代の消費と流通』(ミネルヴァ書房)として出版されます。その頃、私自身の関心は、ポストモダン消費研究に移っていくことになります。この頃までの研究成果をまとめたのが単著である『マーケティングと生活世界』(ミネルヴァ書房)でした。この出版とほぼ同時に、私はマクロの消費パターン研究やマクロマーケティング研究の第一人者とでもいうべきロードアイランド大学のニキレシュ・ドラキア博士のもとでの在外研究の機会を得てアメリカに旅立ちました。ドラキア先生との間を繋いでいただいたのは、薄井和夫先生(当時埼玉大学)でした。

そして、ニューイングランドの森に囲まれたロードアイランド大学での豊かな時間の中で、偶然にも恵まれて消費文化理論と出会うことになったのでした。



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