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私的なイタメシヒストリー

PR会社からプレスリリースがメールで届いた。「カプリチョーザ創業45周年」。ハロウィンにはこんなメニューが出るよ、というお知らせだった。久しぶりに行ってみたい!と思った。

チェーン店が嫌いではない。個人店とは違って、たくさんのセクションと関係者たちの思惑をくぐり抜けて店頭に出されるメニューには、「よく頑張って日の目を見たね」と哀愁すら感じてしまう。

カプリチョーザが最高にイケていたあの日

カプリチョーザとの出会いは、遡ること30年、私は大学生だった。
大人気で、いつも行列に並んだものだ。テニスサークルの先輩が「カプリ行かへん?」とか「昨日カプリ行ってな」とか、どこか自慢げに話していたのを思い出す。当時、カプリチョーザは、学生でも行ける価格帯の、イケているイタメシ屋代表格だった。

京都では三条の、鴨川近くのビルの二階にあったような気がする。
記憶にあるのは、山盛りのトマトソースのスパゲッティ。他のメニューはまったくおぼえていない。何を食べていたのだろう。イカスミのスパゲッティを初めて食べたんだったっけか。
ティラミスとか、喜んで頼んでいたのだと思う。


当時新鮮だったイカスミのスパゲッティ。最近はとんとご無沙汰。

ティラミスといえば川島なお美さん

実際の「イタメシ」ブームはカプリ通いのもっと前、バブル経済期に巻き起こったものだ。1980年代の終わり頃、私は雑誌ananの「イタメシ特集」でその事実を知った。

オリーブ少女だったが、時代のトレンドは絶対に押さえておきたいとananも購読。街へ出るのに15分くらいかけてバス停に行き、1時間に2本くらいしかないバスに乗らねばならないくらいの田舎に住んでいた私は、都会に飢えた田舎の情報通だった。

さてそのananで、川島なお美さんが「私の大好きなイタメシ」について語っていた。同じページだったか忘れてしまったが、ティラミスの紹介もあって、「私を天国に連れて行ってくれるほどうまいデザート」というようなことが書いてあった。以来、「ティラミス」「イタメシ」という言葉を聞くと、自動的に若かりし川島なお美さんが頭に浮かぶ。

ティラミス、どんな味なのだろう。中学生だった私は、実家の自分の部屋で、何度もその記事を読み直しては、未知のデザートに思いを馳せていた。
すぐに田舎にもブームはやってきて、県道沿いの「カリーナ」というイタリアンファミレスのようなところで、初めてティラミスを食べる機会を得た…ような気がするが、味の感想は、よくおぼえていない。

鎧塚俊彦さんのお店で

先日、仕事でパティシエの鎧塚俊彦さんに話を聞く機会があった。
奥様だった川島なお美さんについて、今の思いを率直に話してくださった。
話を聞きながら、私は川島なお美さんとティラミスのことを考えていた。
ティラミスが好きだった川島さんは、やっぱり甘いものを作る男性を選んだんだなあ、とひとりで膝を打っていた。
鎧塚さんには、そんなことは話さなかったけれど。

トシ・ヨロイヅカにも、ティラミスがあるようだ。
また京橋店へ行ったら、ぜひ買ってみたいと思う。

イタリアンがあまり食べられなくなった今

イタメシブームから40年。今や日本のイタリアンは相当レベルが高い。ローマやナポリの有名店は東京に支店があるし、サイゼリヤも最高だし、コンビニの名店コラボ商品だって、けっこうおいしい。かつてピザといえば宅配系のアメリカンなイメージだったが、イタリアの本格的なピザ窯を置く店は珍しくもなんともなくなってしまった。

川島さんに憧れてイタリアン大好き女として歳を重ねた私は、20代、30代と、日本全国、はたまた本国まで出向き、おいしいイタリアンを食べ歩いた。雑誌フィガロのイタリア特集を握りしめてローマ、フィレンツェ、ベニスへ。仕事でアルベロベッロのチーズ工房にも行った。20年前、まだ知る人ぞ知る存在だった山形のアルケッチァーノへも、いち早く足を伸ばした。

なのに、なのに。
だんだん、私はイタリアンが食べられなくなっていることを実感している。
特にフルコースを食べると、お腹が壊れやすくなる。小麦、肉、にんにく、この組み合わせが、どうも体にマッチしなくなっているようなのだ。

先日友達と旅をして、寿司を食べながら、「明日はイタリアンでランチもいいね!」なんて話していた。翌朝、友達が「今日のイタリアン、どこにする?」と言ったとき、私は一瞬、言葉に詰まってしまった。
「あ、うん!どこいこっか!」

「…ねえ、イタリアン無理なんでしょう?またお寿司でも私いいよ」
カンのいい友達はそう言ってくれて、結局二日連続、ランチは寿司になった。

食べたいのだ。ものすごく、イタリアンが今でも好きだ。
しかし、食べた後のことを考えると、怖くなってしまう。

こうして、私のイタリアンヒストリーは終焉に向かうのだろうか。
いや、なんとか胃を鍛え直して、もう一度イタリアンが食べられるようになりたい。小麦がダメなら、リゾットを食べるようにしたらどうだろう?

今度の春、久しぶりにローマへ行くつもりだが、安いホテルでどうやってコメを炊くかを考えている。

「タイは、若いうちにいけ」
かつて、いしだ壱成が象に乗り、そうたきつけるタイ航空のCMがあったけど、私は言いたい。
「イタリアンは、若いうちに食べろ」


最近行きつけのフレンチにあるメニュー、「佐竹のナポリタン」。元気な日は、これを食べる。

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