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明るいほうへ《向着明亮那方》


池袋グランドシネマサンシャインにて開催中の電影祭に1カ月ぶりに足を運んだ。上映作品は『明るいほうへ』。7つの絵本を元に7人のクリエイターたちが贈る、「愛」についてのオムニバスだ。

アニメ映画『明るいほうへ』・予告編 - YouTube

7つの短編作品から成る本作品。絵柄もそれぞれ違って、演出やアニメーションにも個性があって、なかなか味わい深い。以下に各作品について、あらすじを感想を書き留めておく。(ネタバレあり⚠︎)

うさこのギモン 《小兔的问题》

うさこはうさぎの女の子、いろんなものが気になるお年頃。ママのお耳はどうして大きいの?うさこは大きくなったらどうなるの?などいろいろ質問するうさこに、母親は何でも優しく答えてくれる。

この作品で描かれているのは母と娘の愛。遠くへ行きたくないといううさこにそうは言ってもいずれは遠くへ行くものだと母親は諭しつつも、遠く離れていても母親というのはいつも我が子のことを思っていると伝える。私はしばらく実家に帰っていないので、遠くに住む母を思い出しては思わず涙が出そうになった。1作品目からなかなかに涙腺を刺激してくる作品だ。

蛍の女の子 《萤火虫女孩》

定年退職するバスの運転手が最後の勤務を終えようと夜道を走っていると、突然バスのライトが壊れてしまう。どうしたものかと困っている運転手の元に不思議な女の子が現れる。道に迷ったという女の子を家に送ろうと一緒に森の中を歩いているとハリネズミやクマなどに出会う。女の子を母親の元に送り届けるとパーティーに誘われ、行ってみるとバスの周りには道中で出会った動物たちが集まっている。この不思議な動物たちは実はかつて運転手に助けられた乗客たちで、運転手の退職を祝うべく集まっていたのである。

運転手と乗客たちの間にある優しさを描いた作品だと思う。この作品は色彩が温かく、絵本がそのまま動いているような印象を受けた。ファンタジックで可愛らしくて、ほっこりする作品だ。

ぼくの汽車 《小火车》

主人公の少年は仮設住宅に住んでいて、よく両親と汽車ごっこをして遊んでいる。家の前を友人が通りかかることもあるが、彼らはどこか気まずそうである。実はこの少年は災害で片足を失っていた。彼が義足で歩く練習も兼ねて、両親と汽車ごっこをしていたのである。

この作品は演出が巧みで、少年の義足姿を見たときには思わず息をのんだ。汽車ごっこのシーンは家族が汽車に乗っているような絵を示し、冒頭からずっと少年の足元は映さない。暗いトンネルを抜け、少年が自分の力で一歩踏み出すクライマックスのシーンでやっと映し出される義足姿。彼を支える家族の愛情と、親友との友情が静かに描かれていた。

おじさんの糖水屋 《蒯老伯的糖水铺》

都会の片隅の下町で、小さな糖水店を営むカイおじさん。彼の元には毎日様々な客が訪れる。祖母の介護をする仕事帰りの女性、帰省か旅行してきたと思しき青年、馴染みのタクシー運転手、近所の清掃員、登校途中の少年など。カイおじさんとその家族、町の人々との絆を描いた優しい物語である。

この作品の好きなところは、店主のカイおじさんと顔馴染みの客とのコミュニケーション。家族の話だったり何気ない会話に人柄がにじんでいる。そんなおじさんの元にやってくる客もまた優しい。店で使う小物を調達しては糖水を買いに来たついでに置いていくし、腕を痛めているおじさんに湿布の差し入れもする。優しさが連鎖している。

また、下町の小さなお店でありながらスマホ決済を取り入れている描写に現代中国を感じる。優しい絵柄で、どこかノスタルジックな雰囲気に、客がバーコード決済をする姿がなんとも面白く、けれど決して浮いていない。懐かしさと新しさの共存する素敵な作品だった。

フン将軍とハー将軍 《哼将军和哈将军》

天上界の門番をしているフン将軍とハー将軍は、見た目も性格もそっくり。パッと見ただけではどっちがどっちかわからない。そのことで2人はいつもケンカをしている。力比べをしたり、相手を陥れようとしたり。そんな2人がとあるピンチに助け合って立ち向かう物語である。

この作品には、中国で有名なあの哪吒太子が少しだけ登場する。混天綾をもち、住処には蓮の花が咲き、怒ると三面六臂の姿になる。哪吒と名乗っていはいないけれど、そうしたモチーフから自ずとわかる。中国古典作品の教養があるとより楽しい。

フン将軍とハー将軍は実は双子の兄弟。普段はくだらないちょっかいを出したりケンカしたりしながらも、ピンチにはお互い助け合う。力を合わせて戦うシーンなんかは思わず応援したくなってしまった。

祖母の青いブリキの車椅子 《外婆的蓝色铁皮柜轮椅》

亡くなった祖母について、孫である主人公が語るストーリー。実は主人公は、一緒に暮らす祖母が大事にしまっていたお金を盗み、ビー玉を買ったことがある。それは両親も知らないし、ぼけてしまった祖母も知らないだろうと思っていた。愛用している青いブリキの車椅子には物入があり、そこに祖母はお気に入りの服など大事なものをいつも入れていた。主人公はある日祖母が布にくるんで入れていたお金を大事そうに数えているところを目撃してしまうのであった。

他の作品と違い、この作品は主人公の語りがメインである。祖母が大根の漬物を作るシーンからだんだんと年老いて最終的には介助が必要になっていく描写はリアリティがある。だが、農村での淡々とした日々の中で、盗んだお金で買ったビー玉の色彩は美しく何よりも輝いて見える。亡くしてからちゃんと言えばよかった、もっとこうしていたらと思うのは人間の常である。私も数年前に亡くなった祖母に思いを馳せながら、作品を観ていた。

イーぼうの日曜日 《翼娃子的星期天》

田舎から都会に出て来て飲食店を経営する両親とその息子イーぼうが過ごす日曜日。朝早く家族で店に向かい、開店の準備をする。イーぼうはそこで宿題をしたり、店の手伝いをしたり、同じように近所で店を営む友達の元へ遊びに行ったり、そうして一日を過ごす。家族と少年の、ありふれた日常にある絆と愛情の物語だ。

イーぼうの両親が営むのは飲食店なので、宿題をするときは店内の席を使う。だが他の子どもたちは、果物に囲まれながら地べたに座っていたり、カウンターの下の狭いスペースにダンボールを置いて机代わりにしていたりもする。こういう光景は、中国の自営業の家族の間では普通なのだろうか。温かさの中にも現代中国の格差を思わせるようなところがあった(考えすぎかもしれないが)。

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中国のアニメーション作品ではあれど日本人の私が観てもどこか懐かしく感じるところがあったり、かと思えば中国独自の文化を感じるところがあったりした。子ども向けっぽい絵柄だけど大人だからこそグッとくる部分もあった。

優しさとノスタルジーに溢れた7作品。また観る機会があればと願う。

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