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景色

20歳の時、ひょんなことから
映画の宣伝チームでアルバイトをすることになった。
その作品が、
10代ずっと憧れ続けてきたつかこうへいさんの「二代目はクリスチャン」
だと知った時、
「神様っているんだ」と思った。
お会いできたつかさんは、読みまくっていた沢山の作品やエッセーから勝手に怖くて破天荒な人、と思っていたけど、ただのお使いのアルバイトである私にまで、とても優しくて律儀で礼儀正しい方だった。
プレゼントしてくださったサイン入りの本の数々は今でも宝物だし、私がこの世を去る時には全部棺に入れてほしいと思っている。誰にもあげない。

40年近くたった今年、その「二代目はクリスチャン」の劇団扉座版が上演されることになった。
映画で志穂美悦子さんが演じたシスター今日子を演じるのは扉座の女優、伴美奈子さん。

短大時代の、出席番号が前後の、同期である。

楽しいもしんどいもめんどくさいも濃いごいとした
いま風に言えばカオス!な2年を一緒に過ごした仲間がつか作品(扉座版)に出るなら、行くしかない。初日だったのでロビーにはものすごい人たちからのものすごい数のお花が並び、夢の空間をさらに格上げしている。
多くの劇評からも伝わるように、素晴らしい舞台に涙がずっと止まらず、
後半は「ああ、この夢のような時間が終わってしまう」と思ってさらに泣いた。
上演後、同じく京都から駆け付けた同期と3人であわただしく写真を撮って別れた。舞台を降りた主演女優は、いつもちょっとだけドキドキしながら何かを楽しんでいるような佇まいも、キラキラした瞳も、周りに気を遣う姿も、学生時代と変わらなかった。

戻った次の日、
専門学校の授業があった。
ちょうどあの頃の自分と同じ年の学生たちの顔を見ているうち、
「ああ、私結構遠くまで歩いてきたんだなあ」と
何だか不思議な気持ちがこみあげてきてちょっと焦った。

そのほとんどは、特にパッとしない時間(笑)。
嬉しいもしんどいも、特段ドラマティックなこともない、
ただ自分の仕事が好きで続けてきた。
(その好きな仕事にさえうんざりすることもある。)

アプローチやフィールドは変わりつつあるけど、
結局「話す」「伝える」ということしかしていない私の人生。

ああそうか。

声優や俳優を目指す彼らに
そんな夢みたいなこと考えるのやめなさい、とか分別のあることを言うどころか、いいねいいね~!!と面白がって一緒に走らせてもらっている。
それは声や言葉の力を信じているからだ、ということだ。

伴美奈子演じるシスター今日子が
私を一瞬であの仙川の校舎や小劇場に連れて行ってくれ、
そしてあっという間に作品の世界のしっかり連れ戻してくれた。
舞台に立つ人たちに心を揺さぶられ、泣き、参らせてもらった。

声や言葉、気持ちを揺さぶられることの素晴らしさを
知っているからなんだなあ。

扉座版「二代目はクリスチャン」のオープニング。
伝説の紀伊国屋ホールで、
伝説の刑事は宣言する。


「主演・伴美奈子!」


シスター今日子は高々とドスを掲げる。
伴ちゃんに見えたのはどんな景色だったのかな。

続けた人にしか見れない景色というものが絶対にある。
ずっとやっていると
その景色は当たり前になってしまうけど
私たち、
それぞれ中々にいい景色を見ているのかもしれないね。


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