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菜食は新型コロナ重症化リスクを下げる

このnoteは当初は私の心臓血管外科手術記録を載せておりましたが、2021年下半期からは私が医師として気になったニュースをpick upして取り上げることにしています。今回は表題の通り、植物性食品中心の食生活は新型コロナ感染症の重症化リスクが低いデータがでたというニュースです。私は最新の医療情報を取るためケアネットというサイト利用していますが、その全文を解説を加えながら掲載します。

植物性食品中心の食習慣は、心臓病などの慢性疾患のリスクの低さと関連しているが、最新の研究から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時の重症化リスクが低いこととも関連しているというデータが報告された。米スタンフォード病院のSara Seidelmann氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Nutrition Prevention & Health」に6月7日掲載された。
COVID-19パンデミック以降、食習慣とCOVID-19の罹患率や重症度との間に、何らかの関連があるのではないかとの仮説が立てられている。しかし検証はされていない。Seidelmann氏らは、欧米6カ国(米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)の医療従事者を対象とするWebアンケートを行い、この仮説の検証を試みた。回答者の食習慣を過去1年間の食物摂取頻度に関する質問により把握し、COVID-19の罹患状況については、感染の有無と、感染していた場合は重症度と罹病期間を質問した。

ここまでは特に問題なく読んでいけると思います。ここから少し難しい専門用語が出てきます。

解析対象者数は、COVID-19罹患者が568人、非罹患者が2,316人であり、罹患者のうち430人は無症候性~軽症で、138人は中等症~重症だった。多変量ロジスティック回帰分析で交絡因子(年齢、性別、人種/民族、国、喫煙・運動習慣、BMI、基礎疾患、既往症、医療の職域など)の影響を調整後、植物性食品ベースの食事を実践していた群はそうでない群に比較して、中等症~重症のCOVID-19に罹患していた人の割合が73%有意に少ないことが分かった〔オッズ比(OR)0.27(95%信頼区間0.10~0.81)〕。

はい、多変量ロジスティック回帰分析!?でつまずいた人が多いと思います。これはですね、簡単に言うと数値の調整をしているということです。コロナにかかった患者さんを菜食中心の人とそれ以外の人に分けて、重症化した人と軽症で済んだ人の割合を出しているのですが、菜食派とそれ以外では背景となる年齢、性別、人種/民族、国、喫煙・運動習慣、BMI、基礎疾患、既往症、医療の職域などが違ってくるわけですよね。そこでコロナにかかっていない人の菜食派とそれ以外のデータを使って、コロナにかかった患者さんの背景因子を平たく調整しています。なんでこんなことをするのかというと、もちろん背景が変わると結果が変わるからです。そこで背景を調整しているのが多変量ロジスティック回帰分析です。

オッズ比!?95%信頼区間!?という言葉もつまずく人が多いと思いますが、オッズ比は確からしさの値と思ってください。この場合は1より低いので菜食は重症化しにくい(0に近いほど良い)!と考えてください。95%信頼区間が1を含んでいなければそのオッズ比は統計的に有意と判断します。つまりちゃんと背景の差を調整したよ。という意味になります。

植物性食品ベースの食事を実践している群にペスカタリアン(魚は摂取するベジタリアン)を加えた解析でも、オッズ比は0.41(同0.17~0.99)であり、中等症以上のCOVID-19に罹患した人の割合が有意に少なかった。一方、低炭水化物で高タンパクの食事を実践していた群では、植物性食品ベースの食事を実践している群に比較してオッズ比3.86(同1.13~13.24)となり、中等症以上のCOVID-19に罹患した人の割合が有意に多かった。なお、食習慣とCOVID-19の罹患率、および罹患した場合の罹病期間との間には、有意な関連は認められなかった。

この場合は、ペスカタリアンにするとオッズ比が0.41と上昇するので、重症化との相関はやや薄くなる(0から遠くなるので)ということですが、関連はあります。逆に高タンパク食(肉食中心?)と菜食のオッズ比は3.86なので1以上なので、高タンパク食は重症化しやすいということになります。

論文の上席著者であるSeidelmann氏は、「われわれの研究結果は、健康的な食事がCOVID-19に罹患した場合の重症化を抑制するように働く可能性を示唆している」と語っている。
植物性食品ベースの食事とは、野菜や豆・ナッツ類が多く、家禽、赤肉、加工肉は少ないことを特徴とする。植物性食品には、免疫システムにとって重要な栄養素、中でもポリフェノールやカロテノイドなどの植物性化学物質、およびビタミンやミネラルが豊富に含まれている。また、魚にはビタミンDとオメガ3脂肪酸が豊富に含まれていて、それらには抗炎症作用がある。ただし、本研究は因果関係を示すものではなく、また食習慣やCOVID-19の重症度が本人からの報告に基づくものであり、客観的には評価されていない。
このような限界点を踏まえ、英国の栄養とCOVID-19タスクフォースのShane McAuliffe氏は、本研究の結果を次のように解釈している。「適切な免疫反応には質の高い食事が重要であり、そのような食事は感染症の罹患とその重症度に影響を与える可能性がある。今回報告された研究も、食習慣や栄養状態とCOVID-19との関連について、より適切にデザインされた前向き研究が必要であることを強調している」。

研究には後ろ向き研究と前向き研究があって、起こった後から原因を調べるのが後ろ向き研究で、起こる前から調べることを前向き研究と言います。後ろ向き研究で、特に今回のようなアンケートではバイアス(思い込み)の誤差が生じるので、研究の正確性が少し落ちます。前向き研究の場合はそのバイアスがかかりにくいので、より正確な研究となります。

全てをまとめると、植物性食品中心の食生活をしている人はそうでない人に比べて重症化リスクが低くなることがわかりました。逆に高タンパク食の人は菜食の人に比べて重症化リスクが高くなることもわかりました。植物性食品中心の食生活は抗炎症作用と適切な免疫応答にとって有利かもしれないこともわかりました。ただし、アンケートからの調査のため、もっと良いデザインの研究を重ねる必要がある。ということです。

感染症は病気の原因を他者に求めやすい性質がありますが、ワクチン摂取の必要性も含めて今一度病気の原因を自分の内側に向けてとらえなおす必要があると思います。

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