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【紹介】花譜×CytusⅡ 「画面の向こう側」というフィクション


不可解参(狂)を控えて


 こんにちは、liccaです。

 好きなゲームと好きなアーティストがコラボしてくれて嬉しい! という話をしたいと思って、ふと筆を取り始めた日は『花譜3rd ONE-MAN LIVE「不可解参(狂)」』の開催まで残り1週間を切ったところ。書き終えた頃にはあと3日です。
 YouTubeのおすすめ欄に滑り込んでいた全世界配信の不可解弐Q2を開いてから2年……まさか公演のチケットを入手するまでになるとは。ありきたりな経緯かもしれませんが彼女を知ることが出来て良かったし、現地参戦も楽しみです。

花譜 × CytusⅡ

 本題に移りましょう。
 今日は2021年9月、『CytusⅡ』ver.4.2.5のアップデートと共に追加された追加キャラクターパック「Kaf」を紹介いたします。
 現実と電脳世界の境界が曖昧になりつつある世界観とキャラクター達の行動記録を「観測」することで展開される物語の体系は “花譜” の語り口と親和性があると思っていたので、コラボが発表された時はとても嬉しかった記憶があります。もちろん、花譜さんの曲が音ゲーとして遊べるの?! マジで!? と喜んだ記憶も。

 正直聞いて遊べる、書き下ろしリミックス曲もある(Youtubeで聞けます)、という点でも十二分に購入する価値はあるのですが、現実の彼女とは違う経歴を持つ「cyTus世界のKaf」によるアナザーストーリーとして質良いものとなっている、と、いちC2プレイヤーながら自信を持って言えます。


  ここから先の話はストーリーの内容に切り込んだ話をしていきますので、1から10まで自分の目で楽しみたい! という方は記事を閉じることを推奨します。
 Kafパックのゲーム面における難易度は易しめで、初心者にもおすすめです。
 なにせ凄く上手い訳でもない筆者が、全曲・全難易度の譜面を満点(Cytus用語でMillion Master/通称MM)取れてしまうぐらいですので。

不可解参の前にどうしてもやっておきたかった、全譜面MM。ありがとうKaf


KafとROBO_Head:cyTusの世界

 CytusⅡは身も蓋もない言葉でいえば、SFです。
 居住地区「Node」に住む人々は、神経ネットワークサービス「cyTus」を利用してNode間の隔たりを越えた繋がりを構築しています。こちらの世界でいうVR(仮想現実)の技術が進歩した世界で、仮想空間にそれぞれのアバターで常時入り浸るユーザーも多々。

 そんなcyTus内で、身内の目の届かぬところで密かにうたをうたう少女がひとり……。cyTusでの名をKafとしている少女が抱える悩みを解決すべく、CytusⅡのメインキャラのひとり(一機?)、  ROBO_Head が彼女と共に奔走する、というのが大まかなあらすじです。

 CytusⅡのメインキャラクター達は、基本的にはcyTus内でも現実と同じアバターで活動しています。タレント、アーティスト、ゲーム実況者……職業こそ様々で、殆どは本名こそ公表していませんが、顔を出して活動している点は皆同じ。そもそも彼らの物語が “現実世界で” 交わるのがCytusⅡのメインストーリーなので、物語構造上必然的にそうなっているのもありますね。

 その例に漏れずROBO_Headも、高度な人工知能を有する自立型ロボットがそのままのキャラクターでcyTusにログインしているのですが、その様子を「そういうキャラのデータアナリスト」すなわち凄いだけでちゃんと人間である、と認識している人も少なくありません。
 仮想の設定がネット上の人々の間で共有される、そういう意味ではROBO_Headは一番現実のヴァーチャルタレントに近しい見られ方をしているキャラかも知れません。
 そんな彼が花譜コラボにおいて、彼女と彼女のストーリーを先導する役目を背負っているというのは結構面白い点だと考えています。まあ実際彼は本当にロボットで、Node(現実)でも同じ喋り方をしているのですが……。

CyberLard [ROBOって本物のロボットなん?]
TreeNoAlice [神経ネットワークではみんなアバター使うから分かんないよ]

iM『ROBO_Radio_LIVE スタート!』より

ArupakaKUN [@ROBO_Head って結局ロボットなんですか?人間?ロボットだとしたら頭良すぎ!]
ROBO_Head [本機は ロボットです:)]
Bit_lnex [本人に聞いても同じ答えしか帰ってこないよ(笑)]

iM『新曲「Black Hole」発表予告。』より


Kafと「彼女」:画面の向こう側を描く


 Kafの物語ではcyTus空間での記録がメインですが、一部の記録においてはNodeの監視カメラなど、現実での記録が取り上げられています。「彼女」はcyTusの上では「Kaf」として生きていますが、彼女にはれっきとした本名があり、実際Nodeでの彼女を記録したログにはKafでない名前が記されています。

 それは……現実の花譜さんの提供するコンテンツにおいて、絶対に取り沙汰される筈のない、いわゆる中の人の描写に他なりません。

 中の人、ないし正体という単語が、ありとあらゆるVTuber・バーチャルタレントの検索サジェストを汚染していることは皆さんもご存じかと思います。
 バーチャルな存在が成り立っているのは、「バーチャルな存在が投影された画面」のみを認めてコンテンツをありのまま、映されたままの姿を享受する受け手の信頼あってのことだと私は考えて居ます。

 しかしそんな信奉に反する、タブー的な欲望……「誰かの“正体”を知りたい」という過視的な欲望が表れてしまうのも、仕方のない人間の一面なのかなとも。
 ネット世界の構造が透明になり、全てのキャラクターと個人が結びつくような(とんでもない)未来にならない限りは止むことの無い傾向だろうと思うくらいには。

 それを踏まえて。
 バーチャルな存在の現実を描くことを良しとするのは、それがフィクションの物語だからに他ならないのでは?
 かれらが「画面の向こう側」をコンテンツにする時、それは “画面の中のかれらのノンフィクション” として語られるか……あるいはフィクションで、 “画面の向こうの誰かの物語” を創作するかの二択なのでは?
 なんてことを、考えるに至りました。

 花譜さんを例にとれば、前者は「花譜として高校の受験から卒業までを語った」ことに、後者はCytusとのコラボに対応しています。
 多くのバーチャルタレントにとって、前者のように日常を雑談することは普通です。しかし他のアプリ・ゲーム等とのタイアップでは、通常タレントとしてのパーソナルとビジュアルを保持してキャラクター化・実装されます。そうでなくてはタイアップの意義がありませんし、やっぱりあるべきコラボの姿だと思います。
 CytusⅡの物語が一部だけでも「Kaf」の名を持たない誰かにスポットが当たるのは、例えパラレルな物語だとしてもアブノーマルなのかもしれません。

 私はそれでも、とても有意義なコラボだったと思います。
 うたをうたう彼女は、うたがすきだから、Kafになれた。
 きっと現実にいるだれかも、うたがすきだから「花譜」として私達の前に現れてくれたのだと私はこの物語を通して再確認できたのです。

[Kaf]
(前略)……でも私は何があっても歌を諦める気はないから。

OS『Audio_?????_699_07_01』より


 簡潔にまとめましょう。
 花譜コラボの魅力。それはCytusⅡの「リアルとバーチャルの交錯」で語られる物語構造が引き起こしたものではありますが〈あえて〉〈虚構として〉〈彼女の"現実"を描いた〉挑戦的な切り口にあると思っています。

 実装された着せ替えスキンが、特殊歌唱形態ではなく「Reality」と銘打たれた制服姿である点は、C2のストーリーを象徴しています。
 そしてC2のコラボストーリーの中身は、下の『心臓と絡繰』の歌詞が全てです。いやほんとなんですって。

騙されたっていいよ
奪われたっていいよ
この傷もこの涙も
この気持ちは全部私のものだ
少ない脳で答えを知った
仕掛けられた罠に揺れ動いた
戸惑いも繰り返し恋をしてみよう
君の優しさの全てが嬉しかったんだ

『心臓と絡繰 / 花譜』


 ちなみにKafのアバターはいわゆる第二形態『青雀』のものですが、夢と現実の板挟みで生きるCytus世界の彼女はこちらの花譜よりも幼く、庇護されて育つ『雛鳥』のようにもみえます。
 アバターと中身が不釣り合い(と言うほどでもないかもしれませんが……)な描写にも一応しっかりと事情があり、それは駆け出しのシンガーである筈のKafが、物語の中で向けられる過剰で崇拝的な視線の理由にも繋がります。

 そして。それらは物語が進むにつれて、歌を通して彼女の内面がしなやかに『深化』していく姿に心を打たせる布石となっています。
 登場人物の一連の情動の機微も、どうかご注目ください。

「バーチャルの世界を『観測する』」者達へ


 物語の中には、Cytus世界で可不の姿を持つ人物が「あなた」を「観測者さん」と呼んで挨拶する場面があります。

 CytusⅡのメインストーリーを最新まで進めると分かるのですが、彼女が「あなた」を認識したのは、独り言の中の偶然でも、ファンサービスでもありません。
 言葉の真意を知りたくなったなら。
 この世界の観測者の旅路が気になってくれたなら。
 あるいはROBOを初めとした、CytusⅡのキャラクター達の物語に関心を持ってくれたなら。
 まずは是非とも、キャラクター選択画面で初めから選べる、3人のキャラクターのうちいずれかを開いて、未だ見ぬ曲を演奏してみてください。

 これは個人的な感想ですが、C2のストーリーは『不可解』の歌詞があまりに似合っていて、不可解参で歌われたらCytusのことを思って泣く可能性があります。メインストーリーは社会の表裏に巡る仕組みや陰謀、悪意に立ち向かっていく物語なので……!!

現実や社会に抗うための
不完全で未完成な魔法

『不可解 / 花譜』

[ROBO_Head]
データベースの中から証拠を検索し、提示することは出来ませんが、本機の経験に基づいて判断した結果、音楽で人を変えることも、世界を変えることも不可能ではありません。
本機は……そう信じたいです。

OS「Cam_H1001_702_12_29_1」より


 ここまで読んでいただきありがとうございます。
 音ゲーマー寄りの観測者としてはやはり、コラボによる相互作用を願っていますので……私がCytusⅡを通して花譜の世界を広げたように、花譜をきっかけとしてCytusの世界を少しでも覗いてくれる方が増えていたなら嬉しく思います。


おまけ:C2用語一言解説

 最後に音楽ゲーム知らなかったけど気になってきた方、Cytus知らなかったけど気になってきた方向けに、少しだけCytusⅡの用語を解説して締めとします。

・iM
cyTus世界のSNSサービス 無料キャラのレベルを上げてメインストーリーを進めると呟きが増えるよ キャラクターとそれを取り巻く一般人の反応が見られるよ いいねもできるよ(?)

・OS
キャラクター個人のログ Kafを含むDLCキャラのストーリーはこのフォルダで進行するよ(無料キャラにもあるよ)プレイヤーがなんでこんなプライバシーを侵害するような盗聴/盗撮が出来るのかは不明だ(った)よ

・OA
 選曲画面を探索できるよ(無料キャラにもあるよ)特定のアイテムを調べて出てくる条件をクリアし、曲を解放しよう コラボキャラの場合は大体全部、レベルを最大まで上げて(最後までストーリーを読んで)から曲を手に入れられるよ

・TL
 各キャラのOSをver.順、もしくは時系列順に整理する機能 コラボキャラの時系列(チャプター)は独立してるよ

・Lv.(レベル)
 曲をクリアすると溜まるよ 未プレーの譜面を遊んだりより良いスコアを取ると貯まりやすいよ 初心者ならそういう意味でもEASY譜面から遊ぶといいよ

・CASPO
 要課金追加要素 最上位譜面やらキャラスキンやらオプションやらが貰えるようになるよ(コラボキャラの要素は入ってないよ)


参考

花譜がリズムゲーム「Cytus II」とコラボ、10曲入りパック販売開始
花譜ライブ「不可解弐 Q2」9000字レポート 「あなたがいるから、私は私になれます」
CytusII Wiki*


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