漫画家はパトロンが支える時代になるのか?

  すごい挑戦的なタイトルにしたのですが、「ファンティア200万ユーザー突破記念『商業・同人作家かつ大学教員』異色クリエイター田中圭一 配信トークイベント 『SNS時代のマンガとは?』」というオンラインイベントに参加した感想です。漫画家がダイレクトに読者とつながり、マネタイズのできる仕組みができつつあると聞き、私がアートやカルチャーを考えるうえで出発点になった『芸術のパトロンたち』(高階 秀爾著)を思い出しました。個人的にはうまく回ってほしいと思います。

 主催はファンティアというクリエイター支援プラットフォームサービス。タイトルにもあるように、商業漫画家であり同人作家でありかつ大学教員である田中圭一先生のトークイベントでした。田中先生ご自身、もともと企業勤務経験があることも含めて異色なのですが、タイトル通り「SNS時代のマンガとは?」から始まり、そもそもSNS時代に漫画家として生き残るためのヒントをお話しいただきました。マーケテイングの重視、自分とあう編集者探しなどいずれも面白かったのですが、個人的にはファンティア含め、クリエイターがサブスクリプションサービスを立ち上げられるプラットフォームの立ち上がりが興味深かったです。


 漫画家が読者と直接つながる時代

 SNSが出てきたことで、漫画家は良くも悪くも読者と直接つながりやりとりができるようになりました。ツイッターなどを使えば作品に対する反応も直接得ることができる。この仕組みが「SNS発のヒット作」というカテゴリーを作ったわけですが、田中先生がご指摘になったようにこの「SNS発」というのもすでに飽和状態。むしろどんどんあとから出てくることでなかなか読者が漫画家とつながり続けるのは難しい。そもそもSNSが「フロー」の場というのもあります。

 これをストックの場にしてかつオカネを流せるようにするのがプラットフォームなのかなと思います。代表的なのが、

ファンティア

Ci-en

PixivFanbox

あたりでしょうか。campfire、アルファンレターあたりもうまく設計すれば漫画家支援ができそうですよね。BLだと情報サイトのちるちるさんあたりが実装してもおかしくないです。オンラインサロンのアンソロジー版的な感じで。もちろん漫画家自身が全部情報発信などをするのは創作に影響しそうなので、代行サービスもありです。

 今はアダルトコンテンツが中心ですが、アダルト以外も出てきてほしい。

  いわゆるサブスクリプションサービスのように「月額●円」などと設定して、その作家さんの作品の読み放題+αがサービス内容になるのですかね。これが夢物語かというと、VTuberなどの方では投げ銭文化ができつつあるので漫画家でもできないということはないと思います。

 ※ただ難しいのは私も含めた漫画が好きな人は「漫画家が好き」というのと「漫画家の生み出す世界が好き」という人がいるので、後者がクリエイターを直接支援するかは不透明です。


クリエイター支援はクローズに戻るのか

 この漫画家含むクリエイターと読者=消費者が直接つながる、消費者の直接の課金がクリエイターの生活を支えるという構図で思い出したのが前述の『芸術のパトロンたち』です。確か大学の授業の課題書籍でした。すごく端的に言うと、「私たちがいま楽しんでいるアート作品の裏にはそれを生み出すのにお金を出した人たちがいたよ」というものです。そのあと授業で、その作品は当時は見える人が限られていたが、民主国家の成立とともに一般に公開されるようになったという趣旨の話を聞き、感謝したものです。

 で、プラットフォームを通じてクリエイターとファンが直接つながったとき、ファンとしてはダイレクトにクリエイターを支えられるうれしさがあると同時に、「その力関係はどうなるのだろう」とか「お金を出さない人はまったく見られなくなってしまうのだろうか」とかもやもやと考えてしまいます。

次のサブスクリプションサービスの姿

 漫画のサブスクリプションサービスという点では、最近「Mangamo」が立ち上がりました。月額5ドル程度で、日本の漫画の英訳が読み放題。ネットフリックスで始まったアニメ「日本沈没2020」のコミカライズも手掛けています。ただそれ以外はすでに英語版でよく読まれている作品が中心なのでどこまでオリジナルを増やしていくのか気にしています。

 動画分野では本当にいろいろな月額課金型配信サービスが出てきていますが、正直見切れず結局解約ーーというのを私は繰り返しています。

 そのヒントが今回のトークイベントにはありました。田中先生は同人作家としての活動もされているのですが、今回「ひとつのテーマでいろいろな作家が書く」という同人誌を出されました。もちろん人気もそのほうが大きかったそうです。同人誌にはアンソロジーというカルチャーがあるのですがもしかしたら次のサブスクリプションサービスはジャンルや分野を絞ったサービスになるかもです。(私が利用頻度が高いのはアニメの配信サービスです)

 こうした差サービスは多分雑誌とは違いジャンルで分類されるのだと思います。サブスクリプションサービスは究極的には雑誌と同じで「この雑誌=サービスに掲載されているものは読者の好みにあうはず」という前提にあります。とすると、かつての雑誌のようひ性別や年齢ではなく「SF」「歴史」とかジャンルごとの登録になるのではないでしょうか。

 これも別のトークイベントで聞いたのですが、YouTubeやNetflixが出てきたことで「インターネットの中立性」は少し崩れてきているそうです。インターネットに流れる情報は古典的にはすべてフラットですがそこにプラットフォームというものができたことで、プラットフォーム上のコンテンツには何らかのキュレーションというか「このプラットフォーム上にいる人が好むであろう」という価値観が加わるのだと理解しています。そうすると次の漫画のサブスクリプションサービスも「全部載せ」から「特定ジャンルだけ」と、ある程度キュレーションが入り、さらに設定料金が変わってきそうです。

 

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