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生成AIから距離を取ろうと決めた話

 2024年3月30日をもって、LIBERTYWORKSと永元千尋は今後、自らの表現物に生成AIの出力品を直接的に使用しないことを決めました。
 
 最初に言っておきますが、これはあくまで「僕個人の現時点での結論」です。
 生成AIを積極的に活用している肯定派の人たちに「やめろ!」と言いたいわけではないし、逆に、生成AIを蛇蝎の如く嫌う否定派に「あなたがたは正しい!」などとエールを送るつもりもありません。ましてや、肯定派と否定派が現在進行形で繰り広げている不毛きわまりない言論バトルに参加する気などさらさらない。ホンネで言えば対岸の火事として静観していたいのよ。世論が落ち着いて法整備がおよそ整ったあたりで「結果だけ教えて?」くらいの温度感。
 でも、曲がりなりにも僕は、表現者として創作物を世に送り出して対価をいただいている身の上なので。自らの立ち位置を定めて態度表明しておく必要はあるだろうなと。

 もうね、誤解を恐れず言うなら。
 生成AIにまつわる議論はもはや、

 政治的な案件

 
 だからね。

 個人的には早めに気付けて良かったなと思ってますが、SNS上では今もこのことに気付かず生成AIの生成物を「便利だから」という理由だけで使い続けて見えないレッテルを貼られていたり、逆に「生成AI、なんかヤバくない?」などと疑問を呈したばかりに論争に巻き込まれ、精神的に追い詰められ疲弊している人たちが大勢います。
 そうした人たちに「あああっ、なるほどね!」って思ってもらえて、今後のふるまいを決める上での一助となってくれたら一番嬉しいんですけど……いや、これは高望みがすぎるというものだな。うん。

 なので、ここはあくまで「ぼくんちのケース」としてご覧ください。

 
         ○
 

 最初に生成AIに触れたのは、2年くらい前でしたか。プロンプトを打ち込んでアニメ調のイラストを出力するタイプのものでした。

 印象は悪くなかったです。

 キャラクターについては、細部のツメも甘いし、こちらが欲しいと思っている部分に手も届かないので、正直まったく使えない。ただ、背景画や情景画については、わりとそれっぽいものを出力してくれます。僕個人の用途としては趣味で書いた小説の挿画やタイトルバックが主ですから、加工ベースとしては「じゅうぶん使える、これは便利!」だなと。
 
 場合によっては「仕事でも使えるのでは?」とすら思いました。
 
 僕が別名義で関わるR18系のADVやノベルゲームの開発現場では、背景CGの枚数がそのまま作品世界の広さと奥行きに直結します。作品そのものを象徴するような背景(ある意味でキャラクター性のあるもの)はプロに頼むしかありませんが、たとえば路地裏、回想シーンでの天井、主人公が何の気なしに見つめている空と電線、ふと目を落とした先にあるアスファルトの道路……こういうものはAIにバンバン生成させちゃえばいいのでは? と。
 プロの背景さんだって、こうした「作劇上では必要なんだが、描いててそんなに楽しくない」背景は生成AIに任せたいんじゃなかろうかと。気になるところだけリタッチしてもらえば労力削減できてWin-Winですしね。
 今思うと実に浅慮でしたが、とにかく、そんな発想が出てくる程度には「便利」だと思ったんです。

 「便利」という意味では……。

 今年に入って本格的に使い始めた〔ChatGPT〕。
 こいつはもう、凄まじいものがありました。

 小説本編やシナリオの執筆をこれに任せようとはさらさら思いませんが、ブレーンストーミング的な壁打ち相手、作品の細かな設定に関する相談役としては最高オブザ最高。
 現在の生成AIが抱える問題点として「ハルシネーション(誤った情報をまことしやかに提示してしまう)」というものがありますけど、少なくとも僕個人に限れば「ハナっから嘘八百の架空の物語」を作るためのお手伝いなんですから、提示される知識や情報そのものの正確性はあまり問題になりません。それっぽい理屈がひとまず通っていればいいんだもん。
 
 生成AI登場以前にこれと似たようなものを期待するなら、たとえば担当編集さんとの打ち合わせ、同じクリエイターである同僚との雑談なんかがこれに相当するでしょうか。
 でも、どちらも「相手の時間を使ってもらっている」という負い目が少なからずありますから、そんな気軽に持ちかけるわけにはいきません。
 AIは違います。いい意味でただの機械なので、こっちの気まぐれで心底どーでもいい些細な相談をいつでも持ちかけられます。そして向こうは、自身が持つスペックの範囲で常に全力の回答をしてくれるんだもの。もう最高。愛してる。

 そんなこんなで。
 生成AIに対する僕の印象はおおむね好意的。一時は時間を忘れてAIと戯れていたこともありました。SNSに耽溺して無駄に時間を浪費するのに比べれば、多少なりと生産的な行為に結びつく可能性があるから100倍マシだよね!
 
 ……と、割と最近まで、そう思ってたんですけど。

 引用元のニュースをいちいちぜんぶ読み込むのも大変だと思うので、僕が独断と偏見でざっくりまとめてみますと、

 生成AIは、大企業と資本家が個人の絵や文章を搾取して成立する【資本主義の悪弊そのもの】とでも言うべきビジネスモデルである。
 しかも、そのAIを稼働させるサーバーの消費電力は原発換算で数基分も必要で、これらが悪用された時のリスクは核戦争やパンデミックに匹敵する。
 国連ほか国際機関も規制や法整備に乗り出したが、それらが功を奏するかはまだ不透明。

 まあ、こんな感じになりますか。
 便利だなーとか、面白いなーとか、そんな感じで大衆が寄ってたかって弄り回していいものじゃなくないか、って気分になってくるよね?
 少なくとも、僕はなった。

 
         ○
 

 世の中がドラスティックに動いてるときって、ちょっと前には存在すらしなかったものが当たり前になることもあれば、逆に、社会的に是ないし許容されてたものが否を通り越して絶対悪の扱いをされることも当然起こり得ますよね。
 生成AIは現在、この両者の間を物凄い勢いで反復横跳びし続けているのです。
 だから論争の火種になり続けているんですけど、現実問題として生成AIはいまここに存在し、違法だとも社会悪だともされておらず、誰もが自由にアクセスできる状態にあります。
 
 こんなとき、我々パンピーはどうすればいいか。
 
 当事者意識をもって、自ら情報を集め、自分の頭でちゃんと考えて態度を決めていくしかない。出した結論は間違っているかもしれないけれど、それでもだ。

 だから、僕は最初に。

 これは政治とまったく同じ話だ

 
 と言ったわけです。

 同じ情報を与えられても、出てくる結果は個人によって違います。どの政党を支持するのか、誰の言うことを信じるのか。よく考えた上で自分と社会の未来を決めるために行動していく。生成AIを使うか否かは、いわば選挙で票を投じるようなもの。AI推進党に多くの票が集まれば世の中は便利になるかもしれないが、悪い方向に傾けば人間社会が不可逆的に破壊されかねない。逆にAI懐疑派や否定派に票が集まれば、その動きを牽制したり抑止したりすることになるが、もっと早くに達成されるかもしれなかった「より良く便利な社会」の到来は遅くなる……。

 でね。
 政治の話って、個人のレベルだと常に「結論ありきの話」なんですよ。

 賛成か、反対か。静観か、棄権か。それを判断するのは個々人の自由であるべき。なぜなら、ヒトはそれぞれ立場も違えば価値観も考え方も異なるのだから。
 僕にとっての結論を、別の誰かに押しつけるのは、有り体にいって暴力なんです。自分は正しいという前提で他者を屈服させようとしてるんですから。でも一部の人たちは「良かれと思って」その暴力を振るってしまう。まったく典型的なイデオロギー闘争だよこれ。

 ここまで来たら、大半の人がなんてめんどくせえ話だと気付いてくれたことでしょう。できることなら関わりたくないよね。
 でも、残念ながら関わらされてしまうのだ。本邦は民主主義国家であって、主権を持っているのは僕らパンピーなので。社会的な課題に対しては、いつか、何らかの形で、自らの態度を表明していくことになります。

 なので。

 少なくとも創作現場において、生成AIによる生成物は「否・不可・悪」に流れていく可能性が高いだろうと。僕個人はそう踏みました。
 なぜなら、プロおよびプロ予備軍の表現者なら「便利なだけでなんかそれっぽいモノ」なんてハナから用はないはずですからね。神は細部に宿るの格言通り、表現物の隅から隅まで気を配ってしかるべき。苦労して作り出したものが「生成AI以下だ」と罵られることだってあるかもしれないけれど、それでも、誰かの心に届くかも、共感してもらえるかも、面白いと思ってもらえるかもと、そう信じて自分の手を動かし続けていくしかないのです。
 だから、自分の表現については頑として、生成AIを関与させない方針でいきます。

 まァでも、これだけ便利なものが簡単に使える状態にあるとね。現実問題として完全に縁を切るってわけにもいきませんわな。試験的・趣味的に使ってみるとか、または中間生成物の作成補助として限定的に利用することは避けられません。
 ただ、僕はその範囲を可能な限り局限していきます。具体的には「別にAIがなくても同じような結果には辿り着いたよ」と胸を張って言えるかどうかかな。そこが表現者として譲れない最低ラインになるんじゃないかなと。

 その上で、今後は基本的に、生成AIのことは話題にしません。
 世間の動向は注目してるし、自分の意見もそれなりに持ってるけど、ぼかぁ別に論争とかしたくないし、巻き込まれるのも嫌だし。他の人に意見の翻意を促したりもしませんよ。自分がされて嫌なことは他人にもしちゃダメだってばっちゃも言ってた。

 まあ、生成AIを使うにしろ使わないにしろ、他者から何かしらイデオロギー的なレッテルを貼られてしまうこと自体は、もう避けられないんだろうけどさ。

 
         ○
 

 ここまでで、生成AIに対する僕個人の態度表明はおしまい。
 ……なんですけども。

 みなさん、X(旧Twitter)って使ってます?
 いや、僕もまだ使ってるんだけど。

 Xのトップであるイーロン・マスクって、生成AI過激派と表現してもいいくらいの超推進派なんですよね。

 生成AIなんて使ったことないよ、なんかキレイげな画像とか欲しいと思ったこともないし、ChatGPTとかもよくわかんないし……みたいな人でも、X(旧Twitter)は使ってる。「吉祥寺なう」とか呟くかもしれないし、お気に入りのマンガの1コマを使ってレスに代えることもあるでしょう。最近だとアニメの公式さんが宣伝目的でイイ感じに使える画像を放出してくれたりするからね。
 それら全部が、生成AI推進派の学習データとして搾取・利用されてしまう可能性があるのです。

 いやもうめんどくせえよな! ほんとめんどくせえよ! この話をつきつめると「資本主義の悪弊をどう考えるか」みたいなところにまで行き着いちゃうじゃん! 知らんがな! そんな難しい話、俺の与り知らないところで偉い人たちがなんかイイ感じで適当にまとめといて下さいよ! 際限なくどこまでも飛び火させるんじゃねええええええ!!!!

 逆に言うと、生成AIの問題ってそれくらい「僕らの“いま”に密着した話」だってことなんでしょうね。困ったものです。

 X(旧Twitter)との関係をどうするかという話は、このエッセイでもたびたび取り上げてはきたんですけど。
 イーロンは信用ならんな~限り無く胡散臭いな~と思いながらも、まだ態度保留で様子見しておきます。彼の姿勢が絶対悪だと言い切るのも躊躇いがあるし。
 あと「自分のつぶやきなんぞそんな重たいもんでもねえよ」という気持ちもある。

 たぶん半年とか一年の間には、この辺の話も「態度保留」が難しくなってくるんでしょうけどね。それはまたその時に考えるよ。


2024/04/01

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