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読む能力

 今は昔。新聞を2誌、定期購読していました。朝日と地元のローカル誌でした。毎朝5時には起床。着替える前に玄関ドアから手だけを出して、郵便受けに差し込まれている新聞を取ってきます。

 まずは、地元誌を開いて「中学自習室」を切り取り、無料でもらえる専用ノートに貼り付けます。そして高校入試を控えている子どもの机上の起きます。「自習室」には、少しハイレベルな問題が記載されていました。3人分で、都合3年間続けました。1回も欠落なく、やりきりました。私自身が受験指導を仕事としており、我が子に教えるのは反則行為だと勝手に思っていたので、せめてもの方法でした。ただし、取り組んだかどうか聞いていないので、今も不明です。

 地元誌は、「おくやみ」欄だけ眺めて、お役目終了。畳んで、リサイクルバッグにポイでした。共同通信社などからの借り物記事など、読む価値がないという判断です。時折、第一面のコラム記事を見ましたが、これも読む価値なしのレベルでした。3人目の高校入試終了と同時に、購読を止めました。

 朝日は、実家で読んでいた流れを続けたという感じです。新聞購読は、家に固定電話を設置するのと同じ、常識だという考え方でした。しかし、政治・経済等々は、全く興味なし。地元ページも、読む価値なし。毎日読むのは、第一面の「天声人語」だけでした。

 高校生の頃、国語教員から勧められ、読む習慣になりました。エラい人が書く短文は、やはり大したもんだと思っていました。そして、アパート暮らしの学生時代も、勧誘の景品に負けて購読。「天声人語」を読み続けていました。朝の満員電車で、見事な折りたたみテクニックによって日経等を読んでいるサラリーマンとおぼしき人物が、たくさんいました。カッコいいと思いました。

 新聞を読むのは、大人の常識。けっこう長い間、そう思っていました。しかし、報道のスタンスが各社で偏っていて、時にはアンフェアな立場になることを知ってから、それをストレートに受け止める自分の世間知らずを知った時、購読中止に至りました。また、最も権威ある「天声人語」に、着地しないで終わる、レベルダウンした文章が増えたということも、主な理由として挙げられます。

 さて、前置きが長くなりました。一時期、中学生に新聞を読ませると、国語の成績が上がるという、大ウソが広まったことがありました。しかし、縦書きの活字を読むという点以外、さしたるメリットはないと思います。すなわち、語彙の乏しい人が読むのには、ふさわしくないということです。

 では、国語における「読む能力」は、どうやったら高められるか、私の選んだ方法を紹介していきましょうか。特にオリジナリティは、ありません。ただし、確かなバックボーンがあり、それとのズレが起きないように気をつけてきました。これが何もない我流実践を、数多く見てきました。ただ時間が経過するだけで、何の力も着いていませんでした。

 まずは、取っ付きやすいところから紹介します。明治大学教授 齋藤 孝さんの本が、利用価値アリです。彼は、五感を駆使して読むことを提唱しています。まず『声に出して読みたい日本語』は、優れた日本語文を音読して、その美しさを味わう「よさ」を論じています。文章を目で追うのに加えて、声帯と鼓膜とを積極的に使わせるのです。

 これだけで、読解力が格段にアップするのに驚くでしょう。ただし、音読せよの指示だけで、中学生は動いてくれません。ここに、実践のバリエーションを示しましょう。

・まずは、教師の「範読」です。模範的な音読を聞かせるのです。まずは、教師の音読練習からです。滑舌良く音読できなければ、アウトですよ。頑張りましょう。
・次は「一斉音読」で、生徒全員起立させ、指定範囲を各自で音読。終わったら、各自着席。この時、ズルは絶対させない観察力が肝心です。正直者を大いに称賛しましょう。
・長い文章の場合は、5,6人の小集団で交代音読。段落ごと、句点ごと、時には遊び半分で読点ごとに、時計回り、反時計回りで順番に音読して最後まで読み通す。「輪読」とか「協力音読」と、呼んでいました。
・古文や漢文などでは、教師の範読→同一部分を生徒全員が音読。「反復音読」なんて呼んでいました。範読は、句読点まで一気読みする。3回繰り返しますが、3回目は早口で範読。中3でも、面白がってついてきます。

 これが導入部分です。次に利用するのは、
『日本語ドリル』という本。これを教科書にした方がいいと思ったこともありました。日本語の仕組みを体得するためには、ジャストフィットの内容です。単行本1冊が、問題集です。これを真似した設問を作ろうと思いましたが、意外に難しいことがわかりました。齋藤氏は東大卒で、私と同い年。同じ頃、東京上空の光化学スモッグの空を見ていたのです。しかし、彼と私などでは、「月とスッポン」です。社会人の皆さんも、是非ご一読ください。日本人として、母国語のプライドを維持できるかどうか、お試しください。

 齋藤氏の真骨頂は、何と言っても『三色ボールペンで読む日本語』でしょう。この本を新品で買うと、三色ボールペンをゲットできます。品名は「PILOT  FEED・GP3-0.7」です。赤・青・緑の3つだけのノック式ボールペンです。これに小さな取説シールが貼ってあります。それには「齋藤メソッド 三色方式 緑・おもしろい(主観)、青・まあ大事(客観)、赤・すごく大事(客観)」と小さい字で記載されています。

 これで、何をするかは明白かと思います。文章にサイドラインを引きながら、読み進むのです。このボールペンは、あちこちノックすると、ソフトな感触と乾いた心地良い音がします。40人が、一斉にカチカチ鳴らしても、なぜかうるさく感じない、不思議なボールペンです。軽すぎて、文字を書くのには、不向きです。ライン引き専用と言ってもいいぐらいです。しかし、既に販売中止です。

 この本文には、三色を使いこなすための練習問題と解説が載っています。それを拝借して、学習シートを作りました。某中学校では気前よく生徒全員分の三色ボールペンを買っていただきました。他の教科を含めた全ての授業で活用して、大好評を博しました。

 文章読解に色彩感覚を活用するのは、やっている人は、やっています。齋藤メソッドの考え方では、黒は禁止色になっています。黒はラインではなく文字を書く色だからです。読解には、向いていないのです。

 この方法は、あまり厳密に色分けすると、効果が半減します。その人なりの選び方で何の問題もありません。ラインを引く行為より文章を読む方に意識を集中させることが、肝要です。そうしないと、逆効果になってしまいます。三色ボールペンは、あくまで補助具として柔軟に扱うのです。

 この方法で得たことは、学級集団としての集中力だと思います。何と言っても、緑色が起爆剤的効果があります。生徒は、主観的な読みをして、オリジナルの考えをもとうとします。そして、読む楽しさも実感します。

 どうでしょう。国語の授業でお悩みの皆さん。チャレンジしてみませんか?道具にこだわらなければ、色鉛筆でもいいと思います。色で読む経験をさせるだけでも、いいと思います。しかし、ノックしながら読む感覚も味わって欲しいです。100均の4色ボールペンでもいいのです。

 これは、社会人の皆さんにも、お勧めします。目だけで読むより、確実性があり、時にはアイディアも生まれるでしょう。なお、ライン引きに定規は不必要です。本は汚して理解する物と割り切り、フリーハンドでいきましょう。きちんとしないことも、コツです。

 次に、文学作品の学習指導を書くつもりでしたが、字数が既に3,000を超過してしまいました。私は「分析批評」の理論をベースとしてきました。次に、キーワードの一部を並べてみましょうか。

#主役・対役・脇役・端役 #話者 #規模
#クライマックス #ピナクル   以下略。

「国語はこうすれば、おもしろい」ことを、ここに保証します。また、模擬テストで60点の君。80〜90点にしてあげるから、ついて来い!なんて、カッコつけていたのが、今は恥ずかしいです。




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