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「Equip the last weapon-手斧」黒熊亭2023年読書の秋応募作品

「絶対に、武器を手から離さないように。武器を離すのは、死ぬときだけです」

私がちゃんと攻撃して、ダメージを与えている間は、何も怖がることはないと先生は言う。
武器から私に体力、マナ、スタミナが送られてくる。
リーチのついた武器をしっかりと持っていれば、大丈夫なのだと。

とはいえ…。今日の訓練はちょっと、痛すぎの怖すぎだった。

先生が持っているナイフは、獲物の解体に使うような、戦闘用ではないタイプなのに、どうしてこうも武器が落とされるんだろう。

私が握っているのは、訓練用にと先生が私に持たせた三日月刀で、ぐるぐる攻撃の他に、剣が私の手を導いてその時に最適な攻撃を出させてくれるという、不思議な機能が付いている。

「最初はこれでいいでしょう」と剣を持たせてもらった時は、あんなにうれしかったのに。

それがあっという間に手から飛んでいく。

「はい、もう一回」

半べその私を先生は待ってくれない。

「武器が手から離れたら、死ぬと思って持ってください」

そういわれたって、離れるようにしているのは先生で…なんて言ったら、
絶対ぶたれる。
もう何回剣が手から落ちたか、拾わされたか覚えていない。

涙が出るし、剣を落とされるたびに手は痛いし、先生は怖いし…

落ちた剣を、先生が蹴飛ばした。

石畳の上を、剣がすべっていく。

どうしたらいい?先生の剣の前を横切らないとだめってこと?

もう痛い目に遭いすぎて、怖くてどうしていいかわからない。

あ。

ベルトのハチェット。

薪割りに使うやつだけれども、手から抜けにくいかもしれない。
端がちょっと太くなっているし、滑り止めに紐だって巻いてある。それに両手で持つんだし。

構える。
先生が一歩踏み込んだのが見えたとき、目を閉じて、ぐっと、力を入れた。
絶対、絶対落とさない。

ガチっと音がして、手がしびれたけれども、ハチェットは、手から抜けなかった。

「へっ」
先生がにやっと笑った。

合ってたんだ…。

1個目がだめなら、2個目でもいいってことか…。

毎日薪割りと水汲みをやらされているのだもの、手になじむ感じがする。

先生がナイフを腰のさやに戻した。
訓練終了、ありがとうございました。

ああ…手が痛い。

「昼飯までに、薪割っといてください」

はい!

あんまり時間がない。

井戸の水で顔を洗って、着替え…は後でいいか…。
どうせ薪を割ったら水浴びしたくなる。

武器を落としたら、最後に装備していた武器を装備しなおす。
覚えた。
きっとこれからも使うことになる。

手斧?
みんなが不思議そうな顔をするだろう。

でも、毎日使うのなら、これがきっといい。
一番最後まで、私と一緒に戦ってくれそうな、そんな気がする。

いつか、先生の手から、あんなふうに武器が落とせるようになりたい。

…無理だな。うん。

まずは、薪割り、それからお昼ごはん。
今日はまだ、半分も過ぎていない。

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