変形例のつまみ食いはNG?

機械電気系の明細書では、実施形態の後に変形例を記載するのが一般的です。変形例は、クレームと実施形態との乖離を埋めるためのもので、実施形態以外の態様をできるだけたくさん記載するのが一般的です。

そのような変形例は、クレームの限定解釈を回避するとともに、補正の材料としても使えます。しかし、平成25年(行ケ)10346号 審決取消請求事件では、審決の判断が覆され、訂正で追加された変形例の構成と、実施形態の構成を組み合わせることは、新規事項に該当すると判示されています。

 以下は、問題となった請求項1です。下線部が訂正で追加された事項であり、段落0041から抽出しています。特許権者は、このクレームから下線部の構成に基づく効果(段落0041)と、グレー部分に基づく効果(段落0043)を主張しています。

これに対して、裁判所は、以下のように判示しています。

しかし,上記【0041】と【0043】の各記載に係る構成の態様は,それぞれ独立したものであるから,そこに記載されているのは,各々独立した技術的事項であって,これらの記載を併せて,本件追加事項,すなわち,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項が記載されているということはできない。また,その他,本件特許明細書等の全てにおいても,本件追加事項について記載はないし,本件追加事項が自明の技術的事項であるということもできない。

被告(特許権者)は、別々の記載であっても当業者であれば、その効果を期待して当然に組み合わせることができると反論していますが、この主張に対しては、次のように判断しています。

審決の上記判断は,要は,【0041】と【0043】の記載に接すれば,【0041】に記載されている構成と,【0043】に記載されている構成の,両方の構成を有する態様については明示的な記載がなくても,当業者であれば,両方の構成を有する態様に想到するから,両方の構成を有する態様である本件追加事項は本件特許明細書に記載されているに等しいというものである。
しかし,仮に,本件特許明細書の記載内容を手掛かりとして,当業者が本件追加事項に想到することが可能であるとしても,そのことと,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,本件追加事項が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかとは,別の問題である。そして, 中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項については,本件特許明細書等に記載があるとは認められず,また,審決の上記説明振りに照らしてみても,本件追加事項が自明な事項とはいえず,本件特許明細書等の記載の範囲を超えるものであることは明らかというべきである

以上のように、特許権者は、訂正により、明細書の変形例に記載されている段落0041の事項(下線部)を追加しましたが、グレー部分の構成と組み合わせることは、明細書中には記載されていないとして、訂正は新規事項の追加であると判断しました。

この裁判例から読み取れることは、
実施形態の構成と変形例の構成との関係(または変形例間の構成の関係)が,組合せ可能である場合には、技術常識として当たり前に組合せ可能である場合を除いて、その組合せが可能であることを明示しておくことが必要、と思われます。

変形例は、項目の羅列のように記載されることが多いですが、それぞれが組み合わせ可能であり、且つ実施形態とも組合せ可能であることまで言及する必要があると思われます。

個人的には、変形例の冒頭に「以下の変形例は適宜組み合わせることができる」との記載を必ず入れていますが、重要な組合せについては、個々に組合せが可能であることを明示するような、もう少し踏み込んだ記載が必要と思われます。

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