侵害訴訟から見た、明細書をこう書いておけばよかったのに。。(その1)

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昨年から、「侵害訴訟から見た、明細書をこう書いとけばよかったのに。。」というシリーズを始めました。このシリーズでは、侵害訴訟の判決文を分析し、明細書をこう書いておけば勝訴できたのに、あるいは勝訴判決であっても、こう書いておけば訴訟に行くまでもなかったのではないか、という分析を行います。
但し、この分析は、あくまで事後的な判断であり、明細書作成当時は諸処の事情があったと思いますし、被疑侵害品を想定できなかった事情もあると思います。したがいまして、明細書の作成自体を批評するものではなく、あくまで侵害訴訟の結論から見て、こう書いておけばよかったのではないかという分析です。

この記事は本シリーズの第1回のもので、平成16年(ワ)7716号の事件を紹介しました。
判決文は以下のリンクからご覧下さい。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/491/009491_hanrei.pdf

問題となった特許の請求項1は、以下の通り。
【請求項1】
A ネットの経糸又は緯糸にブロックの敷設面に設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し,
B 該ネットをもって施工面に敷設する構成としたことを特徴とする施工面敷設ブロック。

公報は以下のリンクからご覧下さい。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-H07-011121/0ECFF477D6FE1CEB85C856826E21577C7D6B86F7FF4A3A3937C5C3D937B25803/12/ja

この発明は、敷設面に引き留め具を介してネットを敷設し、さらにネット上に複数のブロックを結合したものです。

被疑侵害品ではブロックとして自然石が使われていましたが、訴訟では「ブロック」という文言の定義について争われました。
裁判所では、以下のように判断しています。


本件発明の構成要件Aの『ブロック』との用語は,単なる『かたまり』(広辞苑第4版,第5版)を意味することもあれば,『コンクリートのかたまり』(岩波国語辞典第4版)を意味したり,『コンクリートブロックの略』(広辞苑第5版)を意味することもある。
このことからすれば,本件発明の構成要件Aの『ブロック』との要件は,人工素材による成形品としてのブロックのみならず自然石も含む『かたまり』を意味するのか,『コンクリートのかたまり』のような人工素材による成形品としてのブロックを意味し,自然石を含まないのか,その特許請求の範囲の記載だけではその内容が一義的に明らかにはならないのであるから,本件明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を参酌して,その意義を解釈すべきである。

本件発明の『ブロック』に人工素材から成る成形品のみならず自然石を含めるのであれば,その旨を本件明細書に明記した上で,自然石から成るブロックに対する『引留具』の取付方法についても,人工素材から成るブロックの場合とは区別して,本件明細書に記載すべきである。
しかし,本件明細書には,前記のとおり,自然石をブロックとして使用する場合についての技術事項の開示が全くなく,構成要件Aの『ブロック』に自然石を含むとの記載も示唆も全くないのである。

以上によれば,本件発明の構成要件Aの『ブロック』は,コンクリートブロックなどの人工素材から成る成形品としてのブロックであり,自然石はこれに含まれないと解すべきである。


■教訓
上記のように、裁判所は、ブロックとの文言を、人工物に限定解釈したため、自然石を用いた被疑侵害品は技術的範囲に含まれないと判断しました。

本件特許発明の効果は、ネットを施工面に敷設するのみでこれに連結した上記多数のブロックで覆工できることであり、ブロックの組成がどのようなものであるかは、発明の効果とはあまり関係ないと考えられます。

明細書中には、ブロックについて以下の記載がありますが、人工物以外で形成できる旨の記載はありませんでした。
「ブロック2はセメントと砂の混練物を主材とする。又はこのブロック2は金属精練によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化したものを使用する。又このブロック2はタイルやレンガブロックである。又このブロックは木質製又は合成樹脂製ブロックである。」

以上より、以下の点がいえると思われます。
・請求項1のブロックという文言自体には、「かたまり」という意味があり、自然石も含まれると考えられる。
・明細書にはブロックの定義として人工物しか記載されていないため、請求項のブロックとの文言と実施形態との間に乖離が生じていると考えられる。
・特に、ブロックの組成自体は、発明の効果にあまり影響しないため、この乖離を埋めるバリエーションが必要であったと考えられ、それを十分に検討すれば、自然石も含む発明が創出され、裁判所において「侵害」との判断がなされたかもしれない。

但し、上述したように、この教訓は後付けのものであり、明細書作成時には人工物に限定する事情があったかもしれません。
しかし、訴訟で問題になるということは、他社は人工物以外の態様を創出できたということであり、検討の余地はあったと考えられます。

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