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クレームの作成にセンスは必要か?

クレームの作成にはセンスが必要だということを、たまに聞きますが、そもそもセンスって何でしょうか?

広辞苑によれば、センスとは、「物事の微妙な感じをさとる働き・能力。感覚。」だそうです。では、クレームを作成する際には、「物事の微妙な感じをさとる働き・能力」が必要なのでしょうか。

クレームは、発明を抽象化しつつ、発明の外縁を明確にし、先行文献との差異を出した文であると思います。例えば、以下が必要になると思います。
(1) 発明の効果を奏するように抽象化した文であること
(2) 発明の外縁が明確な文であること
(3) 先行文献との差異が表れた文であること

そして、上記(1)~(3)を考慮し、クレームは一般的には以下のように作成されます。
(i) 発明に必要な構成を特定する
(ii) (i)で挙げた発明の構成によって発明の効果が奏されるように、構成間の関係を特定する。

以上のようにクレームを作成するには、広辞苑で示される「センス」ではなく、発明を理解し、論理的に考えられる能力が必要ではないでしょうか。

では、よく言われる「センス」とは、何でしょうか。ここからは全く個人的な意見になりますが、例えば、お笑い芸人でセンスがよいと言われる人たちの例として、「短いフレーズでうまいことを言う人」が挙げられます。おもしろフレーズを使ったり、ワードのチョイスがいい、などでしょうか。

これをクレームの作成に当てはめると、「短いフレーズでうまいこと発明を表す」ことがセンスがいいといわれることになると思われます。たしかに、クレームは長いと読みにくかったり、係り受けによっては解釈に誤解が生じるおそれがありますので、短くて明確なフレーズを含むクレームは「センスがいい」ものに該当すると思われます。

しかし、クレームの目的は、発明を特定することにありますので、疑義なく明確であることが担保されていれば、多少長くなってもいいのではないでしょうか。うまく書こうとすると、かえって複雑になる可能性がありますが、構成や、構成間の関係をできるだけ短く区切って書けば、多少長くなったとしても、明確になり、クレームの目的は達成されるのではないでしょうか。つまり、文が長くなりそうであれば、1つのフレーズができるだけ少ない意味をなすように文を切って改行すればいいと思います。

以下は、米国公開公報のクレームの例ですが(P&G社のUS2015/0175345)、各構成ができるだけ短く明確になるように記載されています。

  1. A package of absorbent articles, the package comprising:
    a. a container comprising an interior volume;
    b. a first absorbent article disposed within the interior volume; and
    c. a second absorbent article disposed within the interior volume;
    d. wherein each of the first absorbent article and the second absorbent article comprises a longitudinal axis and a transverse axis; and
    e. wherein the first and second absorbent articles are positioned within the interior volume so that the longitudinal axis of the first absorbent article is not parallel to the longitudinal axis of the second absorbent article.

(仮訳)
吸収性物品のパッケージであって、
a. 容積を有する内部を備えた容器と、
b. 前記内部に配置される第1吸収性物品と、
c. 前記内部に配置される第2吸収性物品と、
を備え、
d. 前記第1吸収性物品及び前記第2吸収性物品のそれぞれは、長手方向軸と、横方向軸とを備え、
e. 前記第1吸収性物品の長手方向軸が、前記第2吸収性物品の長手方向軸と平行とならないように、前記第1吸収性物品及び前記第2吸収性物品は、前記内部に位置決めされている、
パッケージ。

個人的には、クレームは、うまく書こうとするのではなく、多少長くなっても疑義なく明確に書くことが必要であると考えます。

私は明細書作成の初心者の修業時代、上司から怒られまくり、怒られすぎて仕事を休んだこともあるほどで、とてもセンスがあるとはいえない状態でした。今もセンスがあるとはいえませんが、なんとかこの業界で生きてこれたのは、多くの明細書を書く過程で、発明を「論理的に」捉える思考が身につき、経験値を積めたからだと思います。

あえて言うならば、クレームの作成においては、発明を論理的に捉えられることがセンスになるのではないでしょうか。センスといえば、先天的な才能と考えられそうですが、クレームの作成におけるセンスが、論理的思考であるならば、センスは磨けると思います。

明細書作成の初心者の方々は、できるだけ多くの案件にぶつかり、大いに悩んで、明細書を作成していただきたいと思います。
(おしまい)

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