【第35回東京国際映画祭&第23回東京フィルメックス】DAY 2
こんにちはギルドです。
10/28より東京国際映画祭、10/29より東京フィルメックスに参加予定なので現地で鑑賞した作品の短評をまとめます。
鑑賞予定の映画の概要はこちら
1日目はこちら
④「アシュカル」
スコア:
59/100
短評:
建設現場に焼死体が連続して発見される事件捜査をする話。
チュニジアの歴史をありのままに伝えて、できるだけ政治的な部分から身を離れたいという想いから捜査もの・フィルムノワール調のジャンル映画にしているらしい。
加えて建物も廃墟の中を追跡したり監督いわく観られる存在にしたいらしく、闇落ち版「コロンバス」みたいな世界観に第32回東京国際映画祭で上映された「ラ・ヨローナ 彷徨う女」とコンセプトを合わせた作品だと感じました。
実際に鑑賞してみると確かに廃墟のシークエンスは魅力的に映されているし、汚職などの腐敗した要因が水面下で進行していき事態が思わぬ方向に飛んでいく部分は面白いと思った。
が、映像の部分は似た映像の繰り返しだったり、人物を添える程度のものばかりで途中から飽きちゃったかな。
「コロンバス」でのモダニズム建築に対する多面的な象徴が本作にあるか?も「犯人が誰か分からないっすわー」な迷路くらいの存在だったり結末も「まぁそうなんやろな」と予想のしやすい範疇だったので凡庸な映画に感じました。
⑤「アヘン」
スコア:
45/100
短評:
5本の短編(RIOT、BLIND、WOOD、PULAV、A PETEL)から構成されたお話。
カール・マルクスの書いた論文「ヘーゲル法哲学批判・序説」に記載された「宗教は民衆のアヘンだ」という言葉から着想を得た宗教を狂信的に信じる人々、情報を鵜呑みにして盲目になる人々の話に焦点を当てた映画でポスターの特徴的な絵柄はテーマに最も合致するBLINDから持ってきている。
どうもバラバラの話に見えて、さっきの主題では一本の筋になっているらしくRIOT→A PETELに向けて宗教を狂信的に信じる人々の末路がクソみたいな事件からマシになってる。まぁ最後は牛のクソで締めてるんだけどさ。
視覚的にはポスターになってるBLINDが面白くて、実質目隠しで危ない廃墟を動き回っていたのでそういった部分は面白いと思った。
が、マルクス「宗教はアヘン」な主題を映画を鑑賞して汲み取れたか?というと残念ながらよく分からず、Q&Aを聞いて「そうゆうことね」と納得いくレベルでした。
あとカメラワークがちょっと酷かった。
A PETELのハンドカメラは子供目線に合わせてるとはいえマジで乗り物酔いするんじゃないか?と思った。
⑥「ノー・ベアーズ」
スコア:
72/100
短評:
とある映画を撮影する様子とある村に滞在して指示を出すパナヒ監督のお話。
ジャファール・パナヒの目線でイランの部族社会故の様々な慣習・しがらみ、当局に対する抑圧を翻訳して映画の文脈に落とし込んだような芳醇で重厚な作品でした。
パナヒ監督はWi-Fiも飛びにくい不便な環境の村の中で映画撮影の指示出しをしつつ、現地の村での儀式の様子をカメラに収めてとお願いしたり、現地の村の人と楽しく会話をしていたり、先生と呼ばれて慕われていたりする。
この辺の質感はキアロスタミ監督の助監督を勤めているだけあって、キアロスタミテイストの質感を感じさせる世界観が良かったです。
アッバス・キアロスタミ「風が吹くまま」が好きな自分にはそこだけで心地よかったです。
そこから国境付近に立ち入ったのはマジでヤバいからやめてください!から始まり、子供の結婚のためにカップルの写真を撮ってるなら見せてくださいよ先生とガン詰めされたり、しきたりを誤って破るパナヒ先生に段々と村人がキレ始め宣誓の場と称した異端審問まで始まる。
そしてパナヒ監督は村を跡にするがその途中で…
一方で本作はパナヒ監督が村に滞在するシークエンスとは別にパナヒ監督の映画撮影のシークエンスにちょいちょい入れ替わる。
映画が進むにつれて「映画中映画」の部分で思わぬ方向に進んでいくが…
本作が素晴らしいのはカメラで撮影したり現地の村で起きた出来事がパナヒ監督の撮影する映画で異なる形で翻訳され続ける姿にあると思う。
そこには慣習という巨大なコミュニティで縛られる苦しさ・倫理的に疲弊する辛さを如実に描いていて、その縛りに反抗する者への容赦ない鉄槌を世界に発信し続けたい。
カメラと見聞きした情報を以て、芸術的自由のみならずイランの不自由さへの解放という自己言及を訴え続ける姿に素晴らしさがありました。この主題は間違いなく他の監督のコンテキストではまず語れない内容であると思う。
中でも、映画中映画で女優が偽パスポートや欧州に逃亡する際に口紅を拭ってカツラを脱ぎ捨てて「リアリズムの作品撮る言うて、その為に偽物を使って、そこまでして映画撮るなよ!」とブチ切れるシークエンスはパナヒ監督に向けた言葉であっても、女優がパナヒ監督の思想に変わってパナヒ監督が当局・社会全体のしがらみの現れだろう。
対象をガラリと変えて映画で強く訴える力技は独創的で、他にそういった技を見せる映画ってないんじゃないかなぁと思うくらい見事でした。
ジャファール・パナヒ「ノー・ベアーズ」は11/6(日)17:30〜で上映されるので、気になった方はぜひ鑑賞して欲しいです。
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