文化祭準備



クラスのみんなは忙しい。部活や習い事で忙しいそうだ。買い出しに行ける人を募ってみたものの誰も買い出しに行けないそうなので私を含めた女子3人実行委員として買い出しに行くことにした。でもその買い出しは想像を絶する長旅になるなんてこの時は誰も想像していなかったことだろう。

この日は担任の先生が出張で途中からは副担任の先生が来た。これがまた癖の強い先生であった。この人を永遠自己紹介さんと呼ぶことにした。

永遠自己紹介さんは掃除のミーティングを理由に私たちに予算を渡すのを拒んでいた。予算を渡してもらわないと買い出しに行けないのだ。後で後でと後回しにされはや30分。大きな声で「早く掃除終わらせてーーーウチら買い物行けないーーー」と叫んだところやっと気づいた永遠自己紹介さん。
「私が予算渡せばいけるのか。そっか。」何故それに早く気付かないものか。私たちは全く理解できなかったがまあいいとしよう。予算を渡してくれさえすれば満足だ。

さてやっとこさ手に入れた予算。諭吉1人を握りしめ雲行きが怪しい中最寄駅の100円ショップに足を運んだ。淡々と必要な材料をカゴに入れレジを通した。レジのお姉さんから「文化祭準備?」と聞かれあぁ私文化祭準備してるんだよねと再認識した。
焦りすぎて混乱していた頭が一旦休まった。

それから駅の向かい側のスーパーに段ボールを貰いに行った。私たちは「持てるだけ持って帰ろう」というよくわからないマインドで生きていた。私たちならいける。何処からこの自信が湧いてきたのか当時の私たちに聞いてみたいものだ。女子3人の力では無謀な事を言っているのは誰一人として気付いてない。

出てきた段ボールはありがたいことに約20枚程度。
出来るだけ大きいものを頼んだため私の胸ほどの高さまである段ボールの束だけが私たちの前に転がっている。さあどうする。

作戦1は必死に紐で束ね作戦2は箱を組み立て中に小さめの段ボールを入れ荷物も入れ込み引越し業者技を発揮することにした。

これが悪夢の始まりだった。

3人それぞれ段ボールを持ち住宅街を叫びながら歩く。肉体的にも精神的にもキツい。
でもそのキツさを忘れるくらい頭をフル回転させ
どうにか自分達が持ち運びやすい形へと運び方を進化させていった。その最終形態はインド人と二人三脚だ。

インド人とはいわゆる頭に乗せて歩く。それだけだ。段ボールを頭に乗せて歩いている女子高校生を見たことがあるだろうか。この瞬間だけ私は自分が女子高校生であるという現実を拒絶しどうにか異人。いや偉人になろうとしていた。二人三脚は2人で荷物を入れた段ボールを持ち、その上に段ボールの束を蓋のようにして乗せて歩くというものだ。これも狭い道では非常にきついものである。

3人して叫びながら住宅街を歩く。
二人三脚を担当していた子たちはとても面白い。
私が段ボールを頭に乗せて歩く姿を見てドキュメンタリー番組を脳内で自作しブツブツ唱えながら歩く。これがまた腹が捩れるほど面白い。それを聞いて私たちも笑う。楽しい。力が抜ける。箱が落ちる。泣く。持つ。良いのか悪いのか。これがまさに負のスパイラルというものだ。

だが私たちは完全にこの負のスパイラルを楽しんでいた。運んでいる間、口角は永遠に上がったままで
ずっとずっと笑っていた。途中口が引きちぎれるかと思うくらい笑っていた。キツいのも吹き飛ばすくらい楽しかった。

学校周辺に近づくに連れ帰宅中の生徒とすれ違う。
この瞬間は地獄であった。叫びながら歩く汗だく女子高校生たちは変な目で見られた。挙句の果てには体育科の先生とまですれ違った。誰か助けて。先生も見て見ぬ振りで通り過ぎていった。

なんだかんだで学校到着。到着予定時刻から30分も遅くなっていた。外は真っ暗。クラスに入ると3人して倒れ込みぜえぜえ荒れた息を整えていると人の気配。なんと男子2人が教室でモンスターを飲んでくつろいでいるではないか。はい。募っても誰も出てこないから女子3人で行ったというのに何事だ。まあもうそんな事を考える余裕なんてなかった。もうどうでもよかった。男子には理科室に段ボールを運ぶのを手伝ってもらい長い長い1日は終わった。


死ぬほど楽しかった。笑いすぎて腹筋が切れた。両腕がやられた。だけどあの瞬間だけは世界で1番笑っていた自信がある。ぜひ文化祭準備のドキュメンタリー番組を制作してみたいものだ。

今週の文化祭準備は波瀾万丈になる予感。

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