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 抹茶きなこ黒蜜白玉小豆#シロクマ文芸部

 かき氷屋を始めたのは祖母だった。あれから55年。今は私が店主を務めている。

 私はとある小さな町の駅前にある和菓子屋に生まれた。小豆を炊く匂いに囲まれて育った。きな子という名前はあだ名でもなんでもない。正真正銘私の名前だ。春生まれの私が五歳のお祝いを済ませた頃、おばあちゃんが突然「かき氷屋を始める」と言い出した。当時、和菓子屋は規模を縮小したばかりだった。長年勤めてくれた職人のまっさんが高齢となり退職したため、それまで店で炊いていた餡を、餡子屋さんから仕入れることにしたのだ。それに合わせ、店に出すお菓子の種類もグッと減らした。奥の倉庫のスペースを使って、店の奥にこぢんまりとした飲食スペースができた。いろんなところから集めてきたテーブルや椅子を置いて、10人入ればいっぱいになってしまう小さなかき氷屋ができた。

 おばあちゃんのかき氷屋は大盛況だった。学校帰りの高校生から近所の人たち、そのうち、口コミが広がって町の外からも人がやってくるようになった。近所の人は器を持参してテイクアウトするようになった。店の外に並んだ椅子にお客さんが待っていても、かき氷屋という商売上、回転は早い。一方で、おばあちゃんは一人でやるつもりだったのに、とんでもなく忙しくなり、お嫁に行った叔母さんまで夏のバイトと称して借り出されていた。

 店の看板メニューは抹茶きなこ黒蜜白玉小豆、まるで早口言葉のようだ。フワッフワに削った氷の上に抹茶シロップをかけ、きな粉をたっぷり乗せて最後に黒蜜をまわしかける。そこにつるんとした白玉を三つとあんこを乗せれば出来上がりだ。今日も本当忙しかった、と店じまいした後、ようやくホッとして自分用にそれを作りながらおばあちゃんのことを思い出す。

「きな子ちゃん、かき氷屋をよろしくね」これがおばあちゃんからの最期の言葉だった。それから、にっこり笑ってもう一言。

「あのメニューの秘密を教えてあげる。あれは私が好きなものとおじいちゃんが好きなもの、そして、二人の大好きなきな子を全部乗せただけなのよ」

🍧

小牧部長、今週もよろしくお願いします。
ごくごく普通のかき氷屋さんが減りましたね。私は昔ながらのかき氷が好きです。いまだに、「いちご」にしようか「黒蜜きなこ」にしようか究極の悩みに陥ります。

おまけ。

この黒い塊は!!

大きな田舎おはぎです。


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