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二番目に好きな時間 #シロクマ文芸部

布団から手を伸ばしてラジオのスイッチを入れる。朝5時半、冬の朝はまだ息を潜めている。カーテンの隙間からささやかな白い灯りが忍び込んでくる。名残を惜しんでいる月のこぼしたため息はウールで編まれたように暖かい。夜と朝の境目のような隙間にピアノの音色が何の違和感もなく曲線を描いている。

布団の中で過ごす。6時半までは贅沢なひととき。

毎朝、本を読んだり、音楽を聴いたり、うとうとと考え事をしたりする一日の助走時間を楽しむ。雛子はそう決めていた。そのあとは慌ただしい一日が始まる。7時半に家を出て出勤してしまえば、あれよあれよと夕方になり、残業を終えてクタクタで家に戻るのは、8時半を過ぎてから。だから、この一時間は一日の中で二番目に幸せな時間だった。そう二番目。

毛布の中は心地良さで満たされて、雛子は幸せな気分で本を読み始めたけれど、耳に届くピアノ曲にいつしか圧倒されていた。悲しみと喜びがないまぜになって雛子の中に流れ込んでくる。音楽に取り巻かれ、音楽に絡め取られていく。ほんの束の間、自分がどこにいるのかも分からなくなるようなそんな不思議な感覚が心地いい、と感じた時には、ラジオパーソナリティの低い落ち着いた声が曲名を告げていた。

ピピピピピピ、雛子の目覚ましは二回鳴る。金曜日が始まる。

今夜は一番幸せな時間が待っている。毎週金曜日、夜更かしをして「夜な夜なお菓子」を焼く時間が。

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🍪

今週のシロクマ文芸部、お話の断片みたいになってしまいました。小牧部長、今週もありがとうございます。そうそう、小牧部長もお布団から出るのが辛いことあるのかなあなんて思って一人くすりとしてしまいました。朝の時間の過ごし方って皆さんそれぞれだと思います。冬の朝の布団は全てが適正な場所ですよね。

いただいたサポートは毎年娘の誕生日前後に行っている、こどもたちのための非営利機関へのドネーションの一部とさせていただく予定です。私の気持ちとあなたのやさしさをミックスしていっしょにドネーションいたします。