ゴキブリとシロアリを嫌いにならないでほしいわけ

 私は子どもの頃、昆虫類の採集や飼育に熱中していました。しかし、少し残念なのですが近年、昆虫を嫌う人びとが増えているのは確かなようです。嫌われる昆虫といえば、ゴキブリとシロアリはその代表格かもしれません。

 実はゴキブリとシロアリとは生物学的な分類において近縁種なのです。シロアリは「アリ」という名前がついていますが、いわゆるアリ(蟻、クロヤマアリなど地面に巣を作っている種)はハチ(蜂)に近い昆虫です。

 世界全体では4千種以上のゴキブリがいます。熱帯雨林に生息している種が多いです。日本列島には約60種が生息しています。クロゴキブリ、チャバネゴキブリなど「害虫」とされているのは30種くらいです。自然界では多くのゴキブリは落ち葉、朽ち木、樹液、動物の死骸や糞、菌類などをエサにしており、生態系における物質循環に貢献しています。

 日本ではゴキブリ=害虫というイメージが強く、その外見などに嫌悪感をいだく人びとが多いと思います。しかし、意外にもペットとして飼育されているゴキブリもいます。海外には人間が見て好ましく感じる外見のゴキブリもいますので。そのひとつヨロイモグラゴキブリは「羽のないカブトムシ」という感じの大型のゴキブリです。オーストラリアに生息していて、落ち葉や雑草などをエサにしています。このゴキブリは夫婦と子どもで「核家族」をつくって地中の「マイホーム」(子ども部屋、食事部屋もつくられています)で暮らしています。不思議に「人間」を感じさせるゴキブリです。

 ゴキブリの特性を応用したロボットが研究開発されています。カリフォルニア大学バークレー校の研究グループはゴキブリの形態や運動を応用した小型ロボットを開発しました。狭いすきまに進入できる特性を活かして、建物が倒壊した災害現場での捜索活動に利用できる可能性があるとのことです。

「ヒトが踏んでもこわれない」ゴキブリ型ロボット(カリフォルニア大学バークレー校)

 シロアリは木造建造物を食い荒らす害虫とされています。科学的に言えば、シロアリは樹木の成分を消化してエネルギー源としているのです。樹木を形作っている木質は主にリグノセルロースという物質でできています。これはセルロース、ヘミセルロース、リグニンが結びついた構造になっていて、非常に堅くて分解するのがむずかしい物質です。シロアリはこのリグノセルロースを分解するすぐれた仕組みを備えています。シロアリの腸内に住む原生動物やその表面に共生する細菌がリグノセルロースを分解します。さらに、原生動物の体内に住む細菌が二酸化炭素と水素からシロアリの栄養源になる酢酸を合成しています。シロアリはリグノセルロースをほぼ完全に分解できる「バイオ化学工場」のような生物です。この仕組みを応用してセルロースを燃料や食料に利用できる可能性があります。

 シロアリから燃料を生成?シロアリが持つ驚異のメカニズムの謎に挑む 守屋繁春(EMIRA)

 人間に対する偏見はしばしば議論されますが、他の生物に対する一方的な決めつけや偏見についてもっと語られていいのではと思います。人体に対して、あるいは人間の生活に何らかの害を与えるという理由で、また外見上の理由で嫌悪されている昆虫類はかなり多くなっているように思います。ヒトが木造建築物を作るようになったために、シロアリには害虫というレッテルを貼られることになりました。ゴキブリもシロアリも生態系の中で分解者として、生態系を維持するために重要な役割を果たしています。この地球上のそれぞれの生き物に存在理由があることを科学的に理解したいものだと思います。

  余談ですが、ショウワノートの「ジャポニカ学習帳」は小学生向けのノートとして1970年から販売されています。子どものころ使っていた方も多いと思います。表紙に使われた昆虫写真は山口進さんというカメラマンによるものです。近年、その昆虫写真に対して「気持ちが悪い」といった苦情が保護者などから寄せられるようになり、2012年にいったん昆虫写真を使うのをやめました。その後、50周年記念で昆虫の表紙が復活しました。

 『堤中納言物語』という日本の古典文学には「虫めづる姫君」という昆虫好きの少女が描かれています。現代でもゴキブリをたくさん飼っている少女がいます。

たくさんのゴキブリを飼っている少女(米国)

ヨロイモグラゴキブリの飼育


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?